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相羽総合サービス業務日誌4・外伝  作者: 笠平
本部長・伊上勇 篇
3/3

Ⅲ・東京都豊島区東池袋の本社給湯室

無能モノの改稿&企画は鋭意進行中。


ということで気分転換にいつもの毛色を変えての一話更新。

 いかん、昼飯を食い過ぎたか。


 妙に眠いな。

 

 15時を回りどんどん眠気が回ってくる。


 “白飯おかわり自由”という500円定食。ビジネスマンの強い味方だが……5杯は行き過ぎたかもしれん。

 この国の主食、白米はなんて美味いんだ。

 生姜焼きで2杯、生卵で2杯、そして柴漬けで1杯。

 箸が止まらなかったのはふっくらツヤツヤのあいつらのせいだ。

 決して俺の食い意地が張ってたせいではないぞ、……断じて違う。


 眠気覚ましにカフェインでも摂取しよう。


「おい、誰かコーヒー」


 …………。


 …………。


 …………。


 …………。


 って誰もいないのかよっ!


 そーいえばさっき女連中が『おやつおやつー』などと口ずさみながらわいわい揃って出て行った気がした。


 しょうがない、自分で入れに行くか。


 俺は椅子から重い腰を上げると給湯室へと向かっていった。



◇◆◆◆◆◆



「え~マジで~、すごぉい」

「ほんとほんと」

「ええ、そんなことないですよぉぉ」


 給湯室からかしましい声が響いてくる。

 ウチの部の女共だ。全員20代前半のひよっこ共だ。

 一体何をそんなに盛り上がっているのだろう。


 興味本位で一声かけてみた。


「何やらにぎやかだな、どうした?」


「ほ、本部長!?」「お疲れ様です!」「お、お疲れ様です~!」


 ただ声をかけたくらいでそんなに驚くなよな。

 いくら俺でも流石にちょっと凹むぞ。

 まぁ、こいつらが新人だった頃は少し目が合っただけで泣かれたこともある、これでも進歩したといえよう。


「あぁ、そんなに畏まるな。ただコーヒー煎れに来ただけだ」


「あー、スイマセン!」

「わ、私がやります!」


 だからそんなに泣きそうな目をするなよ……。

 すぐさま俺の手から愛用のマグカップをひったくられる。まぁここはお任せするとしようか。


「それよりも何をそんなに盛り上がっていたんだ」


「えっと、自炊の話ですよ」

「皆で料理の話をしていたんです」


「ほう、料理……か」


 これは意外だ。ウチの若い連中にそんなスキルがあったとは……。

 これは食通としては見過ごせない会話だ。


「本部長は確か独身ですよね、ご自身で作られたりするんですか?」


「あぁ多少はな、まぁそこまで得意ではないが」


 下手の横好きレベルだ……威厳を保つ為にも余計なことは言うまい。


「ぁはは、まぁ男性ですもんね」

「仕方ないですよぉ」


 ふーむ、やはり若い連中は皆料理が得意なのか……そういうものなんだろうな。よし、後学の為に彼女達の得意料理のレシピでも聞いてみるとするか。




「お前はどんな料理が得意なんだ?」


「わ……私はカレーライス……かな」


 ふむカレーか。俺も素人レベルではあるが作ることは作る。

 主に利用するスパイスはカレーの香りのもととなるクミン、そして色の基となるターメリック、そして辛みのもととなるレッドペッパーを多めに配分。香りづけとしてガラムマサラやコリアンダー、カルダモン、ジンジャーパウダーなど品揃え良いコンビニでも売っているような小瓶を使う。それらにホールトマト、プレーンヨーグルト、飴色になるまでよく炒めた玉ねぎを投入。小麦粉とバターでとろみをつけた和風のカレーだ。この俺好みの配分でさえ5年は費やした本当に奥深い料理だ。

 ここにゴロゴロと刻んだ野菜と肉を煮込んだものと合せ一晩熟成。

 伊上家土日の定番、ぴりっとスパイスの野菜ゴロゴロカレー。金曜に作っておけば週末はずっと家で引き籠れる優れものだ。

 ホクホクとしたジャガイモ、香辛料がよく効いた豚肉はまさに絶品。

 まぁコンビニ売りのスパイスを使用している時点で俺もまたまだ素人レベル……いずれ本格的な香辛料を買い揃えてみたい気もする。


「ルーは『ジャワワ』と『ごくまろ』をブレンドして、隠し味にコーヒーやウスターソースを入れるんですよ」


「……は……?」


「まじ? すごーーい、私なんかレトルトを湯煎するくらいしかしないよぉ」

「まだマシだってぇ。私なんてコンビニカレーをチンするくらいだもん」

「ぁははは、そんなもんだよね!」


 ……最初の奴はまだ分かる。が、後の二人、それはすでに料理ですらねーよ!




「あ、私が作るのはラーメンかな! パパも美味しいって食べてくれるよ」


 ふむ、ラーメンか。俺も飲んだ後の〆にたまに作るぞ。

 生麺はさすがに既製品だが。スープは一時間煮込んだ丸鶏の各部位と野菜の鶏がらスープ。そして煮干し、昆布、鰹節、干しシイタケで作った煮干しスープのブレンド。そこに自家製醤油ダレを混ぜ3つのスープをよく馴染ませる。

 具はとろとろに煮込んだチャーシュー。手早い温度管理が肝な半熟煮卵。そしてきざみネギとメンマ、ノリ。

 最低この辺揃えるだけで、スーパーの生麺が至高の一杯に変わる。

 伊上家流あっさりラーメン。わざわざ行列に並んで脂っこいラーメン食べるよりは俺にとってはご馳走だ。塩分も脂も思いのまま、これが自家製ラーメンの魅力だろう。

 最近のマイブームはここにおろしにんにくをガツンと投入することだ。身体がぽかぽかして寒い日はホント暖まる。

 もっともこの国のラーメン産業の競争は熾烈と聞く。この程度の腕前など若者に言っても鼻で笑われるのがオチだろうな。


「角ちゃん製麺をさっと茹でで、きちんと調理法通りに混ぜてるんだ。手間暇かかるよぉ、でもあれホント生麺みたいで美味しいよ!」


「……へ……?」


「わわわ、へーー、袋麺なんてレベル高~!」

「ウチもさすがにカップ麺にお湯入れて3分、が定番だよ!」


 ……料理……なのか?




「えへん、なんと私は麻婆豆腐が得意なのですよ!」


 麻婆豆腐……あれも意外に難易度が高い。にわか素人の俺の作り方としては、先ず基本となるのは豆腐の水抜き……一つまみの塩でゆっくり茹でてから冷水につける。まぁ時間が無ければレンジでチンでもいいのだが。

 生姜、にんにくを炒め、豆板醤や甜麺醤もまぜるのではなくしっかり炒め香りづけするのが俺流だ。豚肉も炒め、そして鶏がらスープ投入。ここからは火力と時間の勝負。長ネギの投入、豆腐の投入、片栗粉でのトロみ付け。

 ……おっと最後に山椒を忘れてはいけないな。個人的好みとしてはここにラー油を垂らすのもアリだと思う。

 うん、アツアツつるつる、そしてとろとろの激辛麻婆。ご飯が進む。ビールにも合う。

 いかん……涎が出るな。


「麻婆豆腐の素を投入、豆腐をパックからドボンと。そしてよくわかんないけど白い粉でとろみ付け。もぉけっこー大変だよぉ」


「……ほぇ……?」


「わぁぁぁ、美味しそう!」

「今度食べに行っていい?」


 …………。


 ……うむ……この国の食文化は一体どうなっていくのだ。



 俺はこの騒がしい女共からコーヒーを受け取り、そのまま何も言わずにデスクへと戻っていく。



 はぁぁ……。


 ざけんなっ! 料理を舐めてんのかっ!


 何故か無性に美味いものが食べたくなってきた。


 料理が得意な女というのは空想上の生き物なのか。


 いや。森山の嫁も三井の嫁も俺なんか足元にも及ばない位相当レベル高かったよな。

 

 ただ俺には縁が無いだけなのだろう……。


 部下からは頻りに結婚を勧められるが……愛情が籠っている手料理よりも、馴染みの店の対象が作る心が籠っている料理(さくひん)の方が俺には合う。


 よし。今日は早く切り上げて飲みに行こう。

 久々に魚酒亭の大将のとこに顔を出すとするか。


 そうと決めたら眠気は既にない。ただ無心で仕事へと取り掛かるのみだ。

とある『手料理だと思いますか?』アンケートによると


「カット野菜」に「ドレッシング」……30%

「レトルトカレー」に「一品追加」……30%

という近年のお手軽食文化の弊害が起きている模様。


ちなみに

「麻婆の素」……50%

「カレールー」……70%

まぁ、ここらへんは妥当と言ったところでしょうか。

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