ネットカフェ利用への道のり
豪雨の中、コンビニのビニール傘だけを頼りに夜道を歩いている間中、沙希はひっきりなしにネットカフェについての質問を成瀬にぶつけていた。
その質問の一つ一つに適当に回答しながら、成瀬は昼間の記憶を辿ってネットカフェを探す。横風と共に吹き付ける大粒の雨で、足元から膝上辺りまでびっしょりと濡れていた。
すっかり暗くなっている為、昼間の記憶はほとんど頼りにならなかった。幾つか見覚えのある建物を見かけては、その周辺を歩き回った。
結果としてかなりの遠回りをしてしまったらしく、目的のネットカフェに辿り着くまで四十分近くかかってしまった。
両開きの自動ドアを通って店内に入る。雨風を凌げる場所に辿り着いた事で、二人はようやく一息ついた。
と、自分の濡れた服装を見て、沙希が得意顔で成瀬に呼びかけた。
「ねえ、ちょっと。凄い事思い付いちゃった」
大体、というか完全に言う事の想像はついたのだが、成瀬は社交辞令で聞き返す。
「何が?」
「水も滴るいい女」
「あそう」
沙希の発言を軽く流して、成瀬は受付カウンターに向かう。黒い長髪の男店員がいそいそと受付の準備を始めた。成瀬の隣を歩く沙希は、物珍しそうに店内を見回している。
「あまり、きょろきょろしない方が良い。お上りさんだと思われるよ」
成瀬がそう言うと、沙希は目を細めて反論した。
「お上りさんって、こちとら東京人だっての。むしろお下がりさん……この言い方ちょっと中古車っぽくて嫌だな」
「いや、なんでもいいけどさ」
二人の会話が途切れるのをしっかり待ってから、長髪の店員が愛想の良い笑顔で挨拶をしてきた。それから、慣れた口調で店の使い方についての説明を始める。その説明を、沙希が熱心に聞いていた。
おそらく普段これ程ネットカフェの説明に食い付く客はいないのだろう。店員は少し戸惑った様子だったが、それでも業務を滞りなくこなしていた。
レジ横にある受付用のパソコンに部屋番号と新規入会の情報を入力してから、店員はメンバーズカードを沙希に渡した。
新しく作ったカードをしげしげと見て、沙希が呟く。
「意外と普通だな」
「当たり前だよ」