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RabiT×rabbit!!  作者: 志紅
2/5

#02 この出会いは運命なんです

六時間目終了のチャイムを耳にしたのと同時に、莉兎は顔を上げた。

「じゃあ今日の授業はこれで終わりー。ノート写した人から帰っていいよー。」

ゆったりした教師の声に、やっと終わったと思いながらノートを閉じると、名前を呼ばれて返事を返す。

「…なに?」

「りぃさ、今日暇?安達とかとゲーセン行くから、一緒行こうよ」

馴れ馴れしい呼び名にため息をついて、莉兎は手にしたペンケースで頭をパコンと叩いた。あと確定系で手を握ってくるのもとても鬱陶しい。

「りぃって呼ぶな。」

「それだけで叩かないでよ!?」

いったぁ!と頭を押さえているが、知ったことか、自業自得と鼻を鳴らして立ち上がる。

「…はいはい、ごめんね〜、今日はちょっと用があるから、…また今度、な?」

にっこりと微笑むと、三上がみるみる頬を染めて顔を背けた。それは反則でしょ…!とかなんとかぶつぶつ呟いているのに首を傾げてから、鞄を手に歩き出す。



…放課後まで人に囲まれるなんてうざいだけだ。

歩く道すがら、感じる視線と掛けられる声に返事を返しながら、莉兎はそう心の中で毒づいた。



「だる…」


下がってきた鞄を肩にかけ直して、小さく欠伸を漏らす。そもそも帰宅部で、実際は用などない莉兎は図書館で七時近くまで勉強し、家路についていた。暗い路地、時々ジジッ…と音をたてて点滅する街灯、その周りを飛ぶ羽虫。




――なんだか酷く気だるい、とまた欠伸を噛み殺した。


「―…あ、」


そういえばと空を見上げて、小学生の頃習った星を探す。この季節なら、春の大三角形だろうか…と虚ろな目で視線を宙に漂わせて、



「…………ろ、……か…と……か?」



「…なんだ?」

微かに聞こえる声、それに目を細めれば、

「……なんか墜ちてきて…る?」



――きっと、自分がつまらない日常に飽き飽きしていたから…コレを引き寄せたのだと、今でも莉兎は信じている。



「…ぁ…ぁ……」



「!?」

「ああぁぁぁあ!!」

「!?!?」


お決まりのような大きな音もたてずシュタッ、とかっこよく着地して、落ちてきたのはウサギのぬいぐるみだった。真っ白い、普通よりもやや大きめなだけの、何の変哲もないぬいぐるみ。莉兎の腿のあたり、つまり大体80センチ程度のウサギで、ふわふわした白い毛に黒く大きな瞳、口は糸で×字型をしている。



――…いや、認めよう。コレは、



「いったぁぁぁあ!?足ジンジンするんだけど!!なぁこれ絶対どっか折れてんだろ!?無茶!超無茶!!なんでこんなことすんの!?あいつやっぱり俺のこと嫌いだろ!!」


…ぬいぐるみなんかじゃ、ないです。


だってぬいぐるみは、まずこんなしっかり立たないし、喋んないし、だいいちこんなおっさん臭い喋り方はしない。…と、信じてる。


「…世間の常識はいつの間にこんなもの許すようになったわけ?」

半ば呆然と、現実逃避の様に呟いた台詞。自分もよく浮き世離れしてるだとか非常識なんて言われるけれど…これは非現実的過ぎてむしろこちらの正気を疑うレベルだ。

というか十中八九そうだろう。


なんだ、と知らぬ間に入っていたらしい力を抜く様にホッと息を吐いて、疲れてるんだ、さっさと帰って寝ようと莉兎は踵を返した。


「――…おい、」


否正しくは、返そうとした、だった。


背後から柄の悪そうなおっさん染みた声がして、勘弁してくれと言いたくなりながら…なぜか振り向く。


「…なぁーに帰ろうとしてんだぁ?あ?コラ」

「―…なんでぬいぐるみが喋ってんだ、」

「んなこたぁ今はどうでもいぃんだよ小僧、黙って聞けや」

そう言って仕草だけはやけにかわいらしく…擬音を付けるなら、うんしょうんしょといった風に、ウサギは尻尾(の辺り)から紙を取り出すと、


「―…えー、向島莉兎殿、貴殿はこの○○地区で最も“我々”の弊害と成りうる存在であると確認されたため、特殊ウイルス対策本部○○支部特別対策員の任務着任を要請する、…と。」


「………は?」


何かやりきった感じの顔をしているウサギには悪いが、莉兎には今言ったことの半分も理解できなかった。「は…?何なのお前。は?は?は?」



「はっ、最近の若者はやっぱり礼儀がなってないな。年上に対して何て口のききかただ。…いくら顔がよくとも、それじゃ将来女性には相手にもされない、だろう、よ!」…年上なのかこのウサギ…。いやあのおっさん臭い喋り方で何となく納得だが。あと何か自分の顔にコンプレックスでもあるのだろうか。どこか哀愁漂うウサギの様子にパニックだった脳内が少し落ち着く。そのままウサギをじっと見つめていると、

「…なんだよ、そんな哀れみの目で見るなああぁぁ!―…とにかく!ここはいつ人が通るかわからん!!我々の任務は至急で極秘なのだ、移動するぞ!」

「まぁ、その意見には大いに賛成するけど…」

下手したらこっちが不審者に見られかねないと、ようやく動くようになった足を家の方に踏み出そうとする。


けれど、


「ま、た、ですか…!」

足がまたしても動かない。この似非ウサギが何かしたのだろうと口端をひきつらせる。


ギギギ…と首を動かし…というか動かされ、下の方にいるウサギに視線を向けた。


「〜…っ図々しい…!」「ハン、俺だってお前みたいなむさ苦しい男より可愛い女の子に抱っこされたいわ!いいから黙って連れてけ!!」


偉そうにこちらに向かって手を差し出してくる似非ウサギに…溜め息を吐きそうになりながら、仕方なく抱き上げた。


「なんでこんな事に…、」

なったんだ、という呟きは噛み殺す。というか、信じたくないがよく分からない力で強制されているし、どうしようもないのだ。


「…あ、ちょっと止まれ」

「―命令すんなクソウサギ」

「あぁ゛?てめ、何えらそu「わざわざ運んでやってんのに今更なんなんだてめぇ」…状況が変わったんだよ」

キャラじゃないと思いながらも、口が悪くなるのが止められない。眉間にシワを寄せると、よほど凶悪な顔をしていたのか、周りを観察するのを口実にするように、ウサギは莉兎から目を逸らした。

「…“臭い”が強いな…近い………まぁ、適性テストにはいい…か?」

「…なに、」

「おぉ、スピードが…うんまあ、俺も出来ればこんなのと組みたくないし……、」

「ウサギおまえ何言って」


「―――決めた。…お前、」


いい加減イライラしてきた莉兎の言葉を遮るようにウサギが呟いたセリフと同時に、




『ヴォアァアァアアア!』




「…アレと戦え。」


今まで人生で聞いたこともない程のボリュームで奇声をあげながら…緑色のよく分からない生物が近付いて来ていた。


「…は?」

呟いた言葉に既視感。

けれどそう言わずには居られなかった。


「意味わかんな、」

「うるせぇなぁ!説明は後でするっつんだよこの唐変木!!――いいから、」


“走れ!”


そう聞こえた次の瞬間、莉兎の体は勝手に怪物に向けて走り出していた。…もちろんウサギは、またどこから出したのかボードに挟んだ紙を手に、莉兎の腕からすり抜けていたが。


「ちょ、は、はぁ!?」


むりやり体を動かされる感じが気持ち悪かった。しかも似非ウサギに。


「(…〜っなんなんだよ、)」


止まれよ!と心の中で叫ぶと、


「…チッ、精神力は…合格、だな。…だけど、」


どうする?と背後で聞こえるウサギの声に、無性に誰かを絞め殺したい衝動に駆られた……なんて、考えてる場合ではない。



「…嘘だろ、なんなんだよ…もう…!」


走っていった先は怪物で、もちろん止まったのは、



『ウ、ガァアアァア!』

「!?」


怪物の、目の前で。


目算だが五メートル弱はあろうかという、緑の怪物。動物園で見られるような生き物ではなくて、RPGの雑魚モンスター、のような。それでも一般人な莉兎からすれば、十分、むしろ十二分に脅威だ。


初撃のパンチを呆然としつつもスレスレでかわした莉兎は冷や汗をかいていた。


「瞬発力、合格…と。よーし小僧、そのまましばらく逃げ回ってろ。」

「っは、あ!?ていうかエセお前さっきから…うわ!」

次の攻撃に転じてきた化け物の触手(?)を避けて舌打ちする。けれど、ボコ…と音をたててコンクリートから抜けたそれにさすがに血の気が引いた。


「本気で避けないと…ヤバい、な」

静かに額の汗を拭う。

あんなの相手にどこまでできるか分からないが…多少自分でどうにかする努力はしてみるべきだろう。これでもスタミナには自信がある。



「よーい…スタート」



悪魔と毒づきたくなるような似非ウサギの声をバックに、再び地を蹴った。




「はぁ…」

『…ガガッ…首尾はどうデスか?』

「おいコラルーマてめぇ、さっきはよくもあんな高さから落としてくれやがったな!!」

怪物…トラシルの頭突きを向島莉兎がひらりとかわす。それにチッと舌打ちして、苛立ちのまま呟いた。

『ちょっとした冗談じゃないデスか、そんなに大声を出すと体によくないですヨ?大体、今は“媒体”に入ってるんだから、別に平気でショウ?』「そういう問題じゃねぇえええ!」

『…ところで、確か“適合者”は意識的罪人の方でしたヨネ?』


どうデスか?と面白そうに尋ねてくるルーマの声に、話を変えるなと叫びたくなるのをぐっと耐える。

「どう、って…」

『顔写真みたとたん破り捨てちゃうから、詳しい情報は知らなかったデショう?』

「……それはお前が新発行してくれないから悪いんだろうが。」

壁のコンクリートがガラガラと崩れて山になっている。あれを片づけるのも俺の役目かと思うと涙が出そうだ。

『全く、向島クンが馬鹿みたいに美形だからッテ、勝手に嫉妬して職務放棄なんて最悪にも程がありマスヨ?』

「…〜っ男は顔じゃねぇ!」

『いや意味わかんないですケド。』

「うるせぇ!…とにかく、アレは…まぁ、今丁度適性検査中だ、」

『いや知ってますケド。』

「…っ〜…精神力、瞬発力共に合格、今は持久力検査中で、後は…」



『――適正度とそれに伴う技術力ですネェ。』



「……。」

『まあまあ、そう暗くならないで下さいヨ?あなた程の実力者を活かせないのはキツいですカラ、適合度高そうな人選んだんですシ…今度こそは、』


「…るせぇよ」


『ありゃ、ご機嫌を損ねちゃいましたカネ?――まぁいいか、そーれじゃ、』




いってらっしゃい。





「はぁ…っ」


逃げ回り始めてどの位経ったのか、少し息が切れつつある。崩れた瓦礫の山からコンクリートを拾い投げつけて攻撃してみたりはしているけれど…

「こうも効果なしって、さすがにへこ、!?」

む、と発音しようとして、道路の凹みに足を取られる。とっさに崩したバランスを立て直そうとコンクリートに手をついて、そこを軸に体を倒して攻撃をよけた後、バク転する。

「〜っやっぱ無理だろ、こんなん・・・!」

騙し騙しでかわしてはいるけれど、やっぱりきついものがある。

「……あー…」


向かってくる怪物の触手に、思わず遠い目になった。走馬灯が過るほど思い出のある人生でなくて、特にこれといって感慨も後悔もないけれど。


「ま、しょうがない、よなあ…」

雄飛には悪いことをした、と―…莉兎は静かに目を閉じた。









“―…合格、だな”


「う、わ!?」


キィン、と頭の中で金属的な音がして、さっきと同じように体が跳ね飛んだ。同時に聞こえた呆れ声に驚く。


「…エ、セ?」

「お前なぁ、さっきからその“エセ”っての、なんだ?」

「いや、エセウサギのエセ。」

「何がエセだ!まぁ本物じゃねぇけど!!ったく…俺の名前は、」



『ギャアァアァアアア!』



「ハァ…」

ドガァン!という爆発音に、エセが…否、出たのは莉兎の口だ――溜め息を吐いた。向かって来た拳をかわそうとして…


「おい、エセ!?」

「うるせぇよ。――だから俺は、」


静かに手のひらがかざされる。


「っおい!?」

「―――連邦警察特殊ウィルス対策局第一支部、」


バァン、と怪物の拳が、光を帯びた莉兎の手のひらに跳ね返される。莉兎はその声を呆然と、視界に揺れる黒いひげと共に見つめていた。



「――ミコラルア・ベルマーレだっつうの。」

これは、こっちも名乗れということだろうか?

『…適合度も合格、だな。今日からお前は俺のパートナーだ。』

「―…拒否権とか、」

『ねぇよ。』

「はぁ………―向島莉兎、だ。」

『知ってるよ。』

「………殴っていいか?」

『自爆したいならな。』


…そういえば


「なんなんだよ、この状況。」

視界には黒いひげがひくひくと揺れ、頭もなんとなく重い。信じたくないがこれは、


『あぁ…今お前は愉快なウサギさんだ。』

俺との適合でな、とゲラゲラ笑う声に、ぶちりと何かが切れる音がした気がした。

「殺す、殺すマジ殺す…!」

『――だから、自爆だぞ、ってさっきも言ったし…。その殺意、今はアレに向けろ』

「アレ…」


視線を向ければ、ガラガラとめり込んだコンクリートから起き上がり、こちらを睨み付ける怪物の姿。なんだか赤く発光している様なのは、気のせいだと思いたい。

『雑魚だが…このままじゃあ死ぬぞ?さ、どうする?』

「…やればいいんだろ。」

さすがにまだ死にたくないと小さく呟くとしたり笑いが脳裏に響いた。…死ね。

『じゃあまz《はあいはーい!向島クン了承どーもデェス、自分は科学技術局局員のルマドラド…ルーマって呼んでくだサイ!》…ってっめぇ…!』

突然脳内に別の声が割り込んで来て、更なる頭痛に顔をしかめる。その間にも緑…赤の怪物は近付きつつあった。


「あぁ自己紹介はいいから、説明すんなら早く。」


《…あぁ、そうですネェ。えっと、じゃあ向島クン、ちょっと耳に手を突っ込んでみてくだサイ。》

「…は?」

《あいや失礼、横の耳じゃなくて、上のうさ耳ですヨ》

「あ、あぁ…『お、おいちょっとま』」

恐る恐る耳に手を入れる。そこの神経はどうやら莉兎には通じていないらしく、全く感覚がない。代わりにいてぇ!ちょ、もっと優しく!と騒ぐアホウサギの声が聞こえるが、オール無視だ。


「…ん?」

《あぁ、ありマシた?…あ、トラシルがこっち来てマスね、…そのまま掴んで、取り敢えず振りかぶっちゃってくだサイ。》

「…りょーかい」

『〜…っいや、ちょ、』

『ギャアアアアアアア!』

向かってくる赤い怪物――どうやらトラシルというらしい――に視線を合わせる。剣道なんてしたことはないが…なんとかなる、気がした。


「…うるせえっての」

『ガァアアァア!』

奇声を上げて長い爪を振り上げる怪物の顔が正面に迫って。ヒュッと空をきる音がした。


『《危ない!!》』

「今だ、…ってか」


コンクリートを蹴って跳び上がり、怪物の顔面(?)を踏みつけて更に飛んだ。…さっきから思っていたが、やっぱり身体能力がはね上がっている。体が軽い。体力も回復しているし、これが“適合”なのだろうか。


「まぁ、いいか。」

耳から抜いた柄を持ち、思い切り振りかぶった。その際悲鳴が聞こえたが…まぁ、気にしない。



――日常が壊れていく音がする。

けれどきっとこんな日常も、






「〜っらぁあぁ!」




悪くない。










mission#02 complete


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