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やっとで本編に入ります。

期待せずにお待ち下さいませ。

すべてあおかった。


全て(あお)かった。


全てが(あお)の中だった。


そして私は(あお)と一緒に


私の統べる(あお)へ飛び込んだ。


その(あお)の中は、


すべてあおかった。


------------------------------


 私が空を飛びたいと思い始めたのは何時のことだったろうか。十二のとき・・・否、国民学校に入学する時には思っていたから、おそらく六つのときだろう。そうならば十六の私からすると、丁度十年前からということになる。十年間も思い続けているのに飛べないということは、これから先も飛べる見込みは無いのだろう。何ということだ。あの烏でさえが空を飛んでいるというのに。

 嗚呼、空を飛びたい。


 だがしかし、十年一昔とはよく言ったものだ。たかが十年だが、もはや百年に近いのではないかと思う。もしかすると私の感じてきた一年は、他人からしたら十年なのではないだろうか。ならば人によって、時間の感じ方は違うのではないだろうか。少し前に、子と老人では時間の流れ方が違うという学説を読んだ覚えがある。あの学説では、どちらの流れ方がはやいのだったろうか。

 嗚呼、思い出せない。


 まあこんなこと、思い出せなくとも日常生活に支障はまるきりない。日常生活に支障があるのは、元素記号を思い出せなかったり、ドイツ語の綴りを思い出せなかったり、佳織のことを思い出せなかったりしたときだ。自分の精神が老いていくのを感じているからこそ、思い出せないことは恐ろしい。だからこうしてノートに残しているのだが、書き忘れていることも多い。そういえば私は佳織をいつから待っているのだろうか。一時間の様でもあるし、ついさっきからの様でもある。

 嗚呼、早く逢いたい。


・・・


「さて、誰でしょう?」


 いきなり後ろから手が伸びてき、私の視界を覆った。私は反射的にノートを閉じ、いつも通りの対応をした。


「か、おり」

「正解です!何で判るんですか?」


 そんなこと、当たり前だろう。私は佳織を間違えたりなどしない。たとえ私が盲目でも、たとえ私が聾者でも、佳織だけは気配で判る。佳織もそれを解っているからなのかは知らないが、全く別の話を始めた。


「何で女だけなのでしょうね・・・」

「さあ、知らない」


 佳織の始めた話、今この世界では、否少なくとも日本では男児が誕生しない。三十年程前に世界戦争が始まった途端、産まれてくる赤ん坊が女だけになったのだ。何故なのかは解らない。私にとってはそんなことどうだっていいことだ。しかし佳織にとっては重要らしい。佳織がこの話題を持ち出してくるのは、ノートに残っている限りでは五十三回目だ。


「女だけだと、危険じゃありません?」

「何が?」

「ほら、女だけだと、男が不足して同性愛が増えるじゃないですか!」


 私が佳織のことを羨ましく思い、軽蔑するのはこういうときだ。今、男がいない所為で女も徴兵されている。しかし佳織は男がいないと同性愛が増えて大変、と考える。世間から見たならどことなく奇抜な佳織は、私から見たならいい意味でも悪い意味でも魅力的だ。


「同性愛が増えても、別に構わないと思うが」

「えー、何でですか?」

「男が少ないのだから、取り合いになるだろう?」

「うー・・・」

「私は男に襲われるより、女に襲われたほうがよっぽど楽だと思う」


 そうだ。男なんて面倒で仕方がない。それはここにいる佳織も同じの筈だ。だから、これでいい。変に何か言うよりも、これで十分だ。だから、これでいい。

 何も言わずとも解り合え、しかし決して一緒ではない佳織と、私は


 嗚呼、空を飛びたい。


------------------------------


すべてあおかった。

これは恋愛なのか、友情なのか。


どうだっていいことじゃありません?

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