君、野ばら色
ローズピンクの口紅を前にはしゃぐコスメコーナーの女子高生達を、俺は向かいのベンチから眺めていた。スピーチなんて、正直俺の柄じゃない。雑踏に紛れるこの空間で、それでも一頻り記憶の中にある彼女を思い出してみる。
あの頃は、アイツも彼女らの様に流行を追いかけて、同級生とはしゃいだんだろうか。けれど俺が覚えているのは、もっと野性味に溢れた天真爛漫な、姿だけだ。
「バラ…か。」
一人ごちに呟き、遠い日の景色に俺の思考は飛んでいた。
山林の木立の縁で自由自在に蔓を伸ばす、棘だらけのノイバラ。誰も寄せ付けない、そんな出で立ちのバラは時期になると白い花びらを空に向け、ココにいるぞとアピールするように薄暗い木陰で煌めいていた。
言う事は聞かないくせに、その笑顔は光輝いて、今でも俺を魅了する。
「おーじさん、お待たせ。」
横からひょいと覗き込んてくる顔に、俺は思わず息を飲んだ。十数年ぶりに見るアイツは、すっかり女性の顔付きになっていた。それでも、その表情は昔のまま。
無遠慮に俺の腕を引くとアイツは、周囲の眼差しもお構いなく、思い切り俺にじゃれついてきた。
こんな若い子とデートが出来て、嬉しいでしょ? そう言わんばかりの勝気な双眸。結婚するんだという事を忘れさせるその仕草が、腹立たしい程胸に来る。
「なあ。なんで俺なんだ?」
「だって、おじさんに読んで貰いたいんだもん。」
一番世話になったから、と。父親代わりのことなど何もしていないし、実質赤の他人なのだ。ほんの少しの間、同じ時間を過ごした、ただそれだけ。
振り返るその面影がまるで形見のように、そっと心の奥の箱を開いていく。俺は眩しすぎる彼の女性にそっくりなアイツの笑顔に、目を細めた。
「当日はちゃんとおしとやかにしろよ。でないと呆れられるぞ。」
「大丈夫だよー。」
相変わらずの自由奔放な後ろ姿は、昔も今も、アイツが生まれてくるより遥か昔も、同じ光景で有って。けれど皆、違っている。それでいいと今の俺は思えるから。
俺はアイツの父親でなく、伴侶にもなれず、恋人とも違う。だが愛しくおもうこの気持ちは変わらないまま持ち続けてもいい、かな。
少し早いが胸の内で俺はアイツにグラスを捧げた。
全ての光彩を集め輝くアイツのバラ色に、乾杯。
お粗末様、でした。




