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番外編1 流され続けた男

 俺はいつも他人任せでその場に合わせて生きてきた。


 そのおかげか、友人は昔から多かったと思う。


 美穂と出会ったのも大学時代に友人の1人が狙ってる女子にアプローチするために開かれた合コンだった。


 合コンのメンバーは俺と友人と友人の狙ってる女の子と美穂の4人で、1次会、2次会と進みかなり酔いながら3次会でカラオケに行った。


 「なんか……2人返ってこないな!」


 異変が起きたのは歌い始めて15分くらいたったころであり、トイレに行ったはずの友人と飲み物を取りに行ったはずの友人の狙ってる女の子が帰ってこなくなった。


 「そうですね……私ちょっと見てきます!」


 美穂さんが二人を探すと言ってカラオケルームを出ていく。


 カラオケの機械からは美穂が予約していた音楽が鳴り始めたので、俺は一時停止を押して一人カラオケの機械で次歌う曲を探し始める。


(ガチャ……)


 カラオケの機械で数分時間を潰していると美穂がカラオケルームに返ってくる。


 「二人ともお金払って帰ったみたいです……まぁ~元々二人は両思いだったでしょうからホテルにでも行ったんじゃないですかね?」


 美穂はそういいながら自分のコートを手に取る。


 あぁ……このままお開きか、


 おれがそう思って立ちあがろうとすると美穂は部屋への入り口の扉へとコートをかける。


「えっ……」


「私たちだけこのまま帰るの癪じゃない?だからしちゃお?」


 美穂は酔いからか赤く染めた頬で誘ってくる。


 おれはそんな優美な誘惑を断れなかった。


 この日から、俺と美穂の体の関係は始まった。


 意外にも美穂からグイグイと予定を入れてきて、俺は美穂が俺のことを好きなのではないかと勘違いした。


 そして、俺が美穂にそのまま告白するのは必然のことだった。


「俺ら……体の関係から始まっちゃったから今更かもだけど……付き合わないか?」


 きっと美穂も待っていたはず、そう思って言った発言の答えは。


「ごめん……竜一さんとは今のままの関係がいいかな!」


 だった…。


 正直意外な答えだったが、美穂がそれで良くて、この関係が壊れないなら俺もそれでいいと思った。


 2人の間に進展があったのはそれから数ヶ月が経った時だった。


「私、子供ができたみたい。」


 美穂は俺に向かってなんでもないかのように言ってのける。


 俺はそんな衝撃発言にかなり動揺するが、確かに自分の記憶の中に思い当たる節があったので、俺は責任を負うことを覚悟する。


「別に、竜一君が責任とか考える必要ないから、もしかしたら竜一君の子じゃないかもでしょ?」


 俺の気持ちを完全に読んでいるように美穂は言葉をこぼし、その最後の文章には2人の関係性が深く現れていた。


「でも……俺は自分の子かもしれないなら……責任取るよ……」


 美穂の言葉に対して俺は多分表面上のことしか言えていない、でも俺には覚悟があったと思う。


「いいよ!そんなの!ただ、わたし!この子産むつもりだから今みたいな関係は少しお預けってだけ!」


 美穂はそういうと、まだ出てもいないお腹を優しく撫でながら愛おしそうにお腹を見る。


「でも……」


「うーんならさぁ!この子が生まれたらこの子のパパになってあげて!それ以外はわたしがやるから」


「わかった……」

 

 美穂はまだ納得できていない俺に振り返りながら小指を立てていうと、ホテルから出て行き、俺は離れていく美穂に了承をすることしかできなかった。


 それから大学では大きな騒ぎになった、何を隠そう大学のマドンナと化していた美穂が懐妊したという一大ニュースはすぐさま大学中に広まったからだった。


 野次馬たちはすぐに美穂の相手を突き止めようとしたが、美穂は口を割らず、セフレという関係意外ない俺のところまでは調査の手がいかずに騒動は騒動のまま停滞した。


 そして、月日は早く経ち、あっという間に美穂のお腹の中から彩華が生まれてきてくれた。


 本当に不思議なものだ…初めて彩華を見たとき、今見で呆然と考えていたパパというワードが自分の存在とがっちりリンクして自分の中で自覚する。


「美穂…この子も生まれたわけだし、俺ら付き合…いや!結婚しよう!」


 俺の口から自然とその覚悟の言葉が出るのは必然だった。


「確かに……竜一君には、この子のパパにはなってほしい……でもごめんわたしと竜一君は今の関係でいたいの……」


 美穂は彩華の方を悲しい表情で見ながら言った。


「どうして!」


 俺は初めて、美穂の意見を否定した。


「ごめんね……でも……あなたじゃダメなの……」


 俺の発言に美穂は真面目な顔でこちらを見ながら言った。


 でも、俺には美穂は俺じゃなくて俺の後ろに続いている何かを見てる気がしてなにも言い返せなかった。


 それから、美穂のセフレ、そして彩華のパパとしての生活が始まり、気づいたら大学卒業が近づいていた。


 大学卒業前にすることといえば就活であり、美穂は他の学生より早い段階で一発で内定をもらっていた。


 それに対して俺は……いつまで経っても内定の二文字をもらうことはなかった。


 何社も何社も何社も受けた……でも全部ダメだった。


 そんな俺を大学がまってくれるわけなく……大学の卒業証書が残酷にも俺の手元に渡された。


「美穂は全部見抜いていたのかな……」


 俺はそんな独り言を呟きながら、美穂の姿を探す……今日は別れを言うために。


 そんな俺のことを待っているかのように美穂は俺の行く先に立っていた。


「美穂……俺……ごめん」


 俺は美穂を見つけた瞬間自分の不甲斐なさが溢れ出して謝罪を述べた。


「なんで謝るの?」


 それに対して美穂はいつもと変わらないあっけらかんとした感じで聞いてくる。


「だって……おれ……ろくに就職もできなくて……だから……」


 いつも通り俺が御託を並べていると、美穂から一つの鍵が渡される。


「なにこれ……」


「いや?竜一のことだから言いたいことはなんとなーくわかるけどまず!忘れてない?私たちの関係はセフレだけど彩華からしたら竜一君はれっきとしたパパなんだよ?だから!これから一緒に住も!!」


 美穂は俺の悩みや不安なんか全てを晴らしてしまうような笑顔を俺に向けながら言ってきて、俺がそんな美穂に見惚れていると、美穂は「ふふッと」微笑みながら俺の手を取って2人の未来へとリードしてくれた。


 それから俺と美穂は保育園にいる彩華を引き取ると1つの格安アパートの部屋の前に立つ、そこには美穂の字で美穂の苗字ではなく、俺の佐藤の苗字がすでに書かれていた。


 そして、その日から俺ら3人は歪な関係ながらも家族になったと思った。


 それから数年が経ち、彩華が大きくなるにつれ俺はグズな親父を演じるようになった。


 まぁーまずこの歳で仕事も転々として、ほぼバイトざんまいのクズではあるんだが、立ち振る舞いもクズを演じた。


 理由は簡単で、美穂と俺の関係がいつまで立ってもセフレであるからだ。


 昔はいつまでもこの関係ではダメだとも思っていたが、社会生活に馴染めない俺が完璧なキャリアウーマンの美穂にまた告白しても答えは変わらないことはわかっていた。


 そして、俺が遅れたのは彩華が俺と美穂に理想の家族を求めてしまうことだった。


 だって考えてみろ、彩華がどんなに願ったって俺と美穂は夫婦にはならないなら彩華にはおれがクズだから美穂は俺と結婚しないと思ってもらった方がいいとは思わないか?


 そして、その時は突然やってきた。


「私、やっと運命の人に出会えたの!」


 そう言って美穂は俺には見せたこともない未来を思い描くような笑みを浮かべた。


「そっか……よかったな……」


 俺はそれしか言えなくて、なんか複雑な感情に襲われた。


 でも、そんな俺を弄ぶようにその後美穂は俺と体を重ねてきて、俺の内心はどんどんぐちゃぐちゃになっていった。


 それからどんどん美穂は生き生きして行き、程なくしてその時が来た。


 その時は普通に3人でご飯を食べていた。


 彩華はこの時小学校高学年になっており、その頃はよく俺を無視して、美穂にはベッタリだった。


「私!結婚するから、この家出て行くね!」


 突然の美穂の発言にリビングは凍りついた。


 彩華は美穂の方に寂しそうな目線を向けると俺に向かって睨んできた。


「…………」


 俺は…なにも言えなかった。


「……っち!……ねぇ!ママ…わたしは……」


 彩華はそんな俺に舌打ちをして、もう一度美穂の方を見ると手を合わせて懇願の意思を示す。


「ごめんね……彩華……ママ……新しい家族を作りたいの……だから……彩華のことは連れていけない……でも!ママこの家にもできるだけ沢山くるから!……だからね!彩華にはパパとこの場所を守っていてほしいんだ!」


 美穂が彩華の目を見ながら言い切ると、彩華は美穂から視線を外して勢いよく立ち上がると家を出て行ってしまった。


 俺は彩華が心配になって立ち上がると、それを美穂に静止され、代わりに美穂が外に出ていった。


 それから数十分後美穂と彩華は帰ってきて、彩華は俯きながら寝室に向かってしまった。


「大丈夫よ……彩華ならきっと……」


 こう言う時のなんの根拠もない美穂の発言はなぜだか信用できた。


 それからの日々は正直大変だった……美穂がいなくなって俺が美穂の代わりになろうと頑張ってみたが、美穂の代わりに俺なんかがなれるわけなかった。


 意外なのは彩華がその頃から率先して美穂の代わりをし始めて、どんどん成長していってくれた。


 それからまた数年が経ち、美穂の口から自分が病気なのだと知らされた。


 正直ショックだった、何かしたかった、でもなにもできないのはわかっていた。


 それから残酷にもどんどん時は過ぎて行き、美穂は亡くなった。


 美穂の葬式の日、彩華は家におらず、俺はこれ見よがしに酒を飲んで泣きじゃくった。


 その日、彩華は帰ってこなかった。


 美穂の葬式の次の日、痛む頭を押さえながら起き上がり、水をがぶ飲みした後、少しでも頭痛を抑えるために頭痛薬を探すが、薬がどこに保管されているかなんて、美穂と彩華しか知らないので、気晴らしになるだろうと思って、近所のドラッグストアに行こうと外に出る。


 アパートの玄関までたどり着いた時、佐藤と美穂の字で書かれたポストを美穂のいた痕跡を辿るように見ると、ポストにいつも通り刺さっている新聞紙と共に白い封筒が挟まってることに気がつく。


 ポストに近づき新聞紙と封筒を強引つかみ、強引に引っ張ると、封筒にはポストに書かれたものと同じ筆跡で「竜一君へ」と書かれていた。


 俺は新聞紙を投げ捨てて封筒を大事に掴んだまま自分の部屋へと駆け戻る。


 俺は自分を落ち着かせるためにコップに水を勢いよく入れて、溢れ出る水をそのまま喉に流し込んだ。


「ふぅ……」


 俺は、一度深呼吸をして、ゆっくりと封筒の封を切る。


 封筒の中から三つ折りの手紙を取り出してゆっくりと手紙を開く。


「竜一君へ

 この手紙が竜一君のところに届く頃には天国に行ってるかな?もしかしたらわたしのことだからしぶとく生きてるかもw」


 手紙の冒頭にはそんな最近の大人びた美穂ではなく出会った当時を思わせる明るい子供っぽい美穂の言葉が綴られていて、俺の口角が自然と上がってしまう。


「私ね、竜一君には沢山謝りたいことがあるんだ。

 まず、竜一君の思いを知りながら、自分の理想を叶えるためにあなたを拒絶してごめんなさい。

 そのせいで、竜一君が自分を卑下してしまっていることには気づいていました。

 次に、彩華のこと、任せきりにしてごめんなさい。竜一君が私と彩華のために悪を演じてくれてること、それで苦しんでいること……知っていながらなにも言わなくてごめんなさい。

 最後に、今までずっと隣に居てくれたのに最後の言葉を直接言ってあげれないこと本当に……ごめんなさい。」


 俺は手紙に染み込んでいく涙を見つめながら、手紙を強く握りしめる。


「違う…違う……美穂は謝らなくていい……俺が……俺が……不甲斐ないから……。」


 とめどなく流れる涙と自責の念、それに美穂が亡くなってしまったと言う現実に俺はただただ泣き崩れた。


 それからどのくらい経っただろうか……もう涙も枯れた俺は不自然にあいた、一枚目の手紙をどかして、2枚目の手紙に目を移す。


「あっ!もう一個!謝らないとなんだ!w」


 2枚目の手紙に目を落とした瞬間いち早く出てきたその言葉に俺はつい吹き出してしまった。


「なんだよw謝ることないって言ってるだろ……」


 なんだか涙が枯れるまで泣いていた自分がバカらしくて俺は無機物のはずの手紙にツッコミを入れてしまう。


「私がね……謝りたいのは……これからのこと……私ね……自分の死が目の前にこうやって現れたとき、思ったのが、私ってみんなを騙したり、迷惑かけたり自分のためにしてきたから……お迎えに来たんだなぁって思ったの……だから仕方ないなっても思って……でも!最後ぐらい閻魔大王にぎゃふん!って言わせて亡くなりたいなってwだからさぁ……協力して!竜一君!」


 この文章に入っている美穂の遠慮や後悔、自責に前向きな感情、最後には最初に俺をカラオケで誘った時とおんなじ悪魔の誘惑……そんな美穂が全て詰まったような文章にあの頃と同じく俺の心はまたぐしゃぐしゃにされる。


 でもやっぱりこのぐしゃぐしゃはいつも心地いい。


「それで!閻魔大王にできる仕返し考えたんだけど!それって!私が今まで迷惑をかけながらも支えてもらった家族をみーんな幸せにすることだと思ったの!もちろん!その中には竜一君もいるよ!……そして彩華もいる。」


 正直俺のことなんてどうでもいい、言っちゃ悪いが美穂の旦那や息子さんのことも俺の中では他人としか思えない……でも、彩華は違う……彩華が幸せになるなら俺はなんだってすると思う。


「一つ聞きたいんだけど?今って彩華近くにいる?」


 突然の美穂からの質問に俺が周囲を見渡して、まだ彩華が帰ってきていないことを思い出す。


「もし、もう私の葬式が終わっていて……その後彩華が帰ってきていないなら……多分……60%……いや?40%??いやいや!100%彩華は私の旦那である秋羅のところにいると思う!」


 俺の頭の中に身振り手振りで説得している美穂の姿が浮かんで俺はほっこりしてしまう。


「それでね!……わかるの!わかってるんだよ!竜一君が彩華といたい気持ちも!でもね!きっとあの子のことだから秋羅になーんにも言ってないと思うの私のこととか……だから……酷なこと頼んじゃって悪いんだけど……2人に立ちはだかる壁になってほしいの。それとね!!同時に秋羅が彩華にふさわしいかも試験してほしいの!!竜一君には悪いことしてるってわかってるんだけど……彩華の幸せのために必要なの!ちゃんと!!代わりに竜一君が新しい道に進めるようにうちの会社の権利書と活動資金は秋羅からたぶん送られてくるはずだから!!ちゃんと竜一君の幸せも願ってるからね!」


 「必死すぎだろw」


 俺はケラケラと笑いながら手紙を戸棚の引き出しにしまってクローゼットの服の中から自称コワモテに見えるセットを取り出す。


 「さて!襲撃の時はやっぱりこの格好だな!!あと……あんまり早く行き過ぎても二人の関係が気づけないだろうし……一か月後くらいか?っつ!てか頭痛!!そういえば俺二日酔い何だった!!」


 おれは一人つぶやくとコワモテの服装のまま眠りについた。


 それから一か月がたち、俺は予定通り2人を襲撃して、全てが終わって今リビングでまた手紙を開く。

 

 俺は手紙の内容を読むわけでもなく手紙を見つめる。


 「約束通り全部終わったよ……ほんと……敵わないなって思ったよまったく」


 竜一のつぶやくはただ寂しくリビングに溶け込んでいった

お読みいただきありがとうございます!!


明日、朝6時に38話を投稿します!38話も読んでいただけるとありがたいです。


また、面白いと思っていただけのなら評価・レビューいただけたら幸いです

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