トイレ中に異世界召喚されたんだが。
「先生、トイレしていいですか?」
「あぁ、行ってきていいぞぉ」
窓辺から日光が照りつける。
湿った背中が椅子に引っ付いて気持ち悪い。
僕は静かに席を立つと廊下へと向かった。
木目の床を見つめる。
蝉の声が、耳鳴りのように頭の奥で反響する。
思考がじわじわと削られていく。
冷房がないと本当に生きていけない。
そう思うほど今日は一段と暑い。
スリッパを履き、ベルトを緩める。
熱々の便座を上げて、ファスナーを下げた。
(それにしても、汚れてるなぁ……)
黄ばみ黒く汚れた便器。
一瞬用を足そうか躊躇するほどに。
その時、水が揺れた。
そして視界から眩い光が溢れ出す。
「なっ、なんだ!?」
次の瞬間、視界には広い部屋が映った。
だが、ここがどこかなど上手く認識できなかった。
「どっ、どこだ!?」
視線をうろちょろとさせた。
中央には白髭の老人。
隣には赤いドレスの少女。
そして二人を囲むように厚い鉄鎧を纏った騎士たちがいた。
騎士の一人が、露骨に横を向いた。
少女は唇を噛み、僕を直視できない。
老爺の眉がひくりと痙攣した。
「勇者よ。そなたの真下にあるその白いものは何じゃ?」
下を見ると学校の洋室トイレがそこにあった。
誰も喋らない。
ただ鎧の軋む音が響くだけ。
(……誰か喋れよ。気まずいやんけ。)
そう思っていた瞬間ー。
「も、もしや。これは初代国王が予言した伝説の白い玉座ではないのか!?」
そう老爺は言う。その瞬間に騎士たちは仰々しく跪いた。ただ少女だけは気恥ずかしそうにしている。
彼女は手で視界を覆った。
(玉座じゃなくて便器だわ!ってかこれただの公立高校の便器なんだけど……)
さすがに少し傷つく僕だったが。
「ゆ、勇者様の股間が輝いております……」
「はい?」
下を見れば、神々しく輝く僕のムスコがいた。
「えぇ!?なんだこれ!ってか漏れそうなんだけどー!」
ここで漏らすのはダメだ。
流石に……。
「申し訳ありませんが、トイレはありませんか?」
「あっ、あの。勇者様。お手洗いならあちらにありますが……」
「教えてくれてありがとう!ちょっと行ってくるね!」
勢いよくその場から離れた。
少女には申し訳ないことをした。
まさか、トイレ中に異世界召喚?されるとは……
揺れるムスコと共に僕はお手洗い場へと着く。
その後は、駆けるように中に入ると、便座に腰をかけた。
(あぁ、綺麗で花の匂いがするトイレだぁ」
フローラルな柔軟剤に近い匂いがする。
便器は全体的に綺麗で、日頃からこまめに清掃されていることがわかる。
「ふぅ、スッキリした」
立とうとした瞬間。
体がよろめき、宙に舞う感覚に襲われた。
(やばい、倒れる……)
次の瞬間、視界に映るのはいつもの日常だった。
授業の終わりを告げる鐘の音が鳴り響く校内。
下を見れば、いつもの汚い便器があった。
「……っ」
苦虫を噛み潰したような顔をする僕。
あれは何だったのだろうか。
本当に異世界に召喚されたのか?
それとも、ただの幻覚か?
それはわからない。
けど一つ言えることがある。
ちょっぴり、漏らしちゃった……
下着の熱だけは、確かな現実だった、ということに。




