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トイレ中に異世界召喚されたんだが。

作者: 藤花ケイ
掲載日:2026/03/04

「先生、トイレしていいですか?」


「あぁ、行ってきていいぞぉ」


窓辺から日光が照りつける。

湿った背中が椅子に引っ付いて気持ち悪い。


僕は静かに席を立つと廊下へと向かった。


木目の床を見つめる。

蝉の声が、耳鳴りのように頭の奥で反響する。

思考がじわじわと削られていく。

冷房がないと本当に生きていけない。

そう思うほど今日は一段と暑い。


スリッパを履き、ベルトを緩める。

熱々の便座を上げて、ファスナーを下げた。


(それにしても、汚れてるなぁ……)


黄ばみ黒く汚れた便器。

一瞬用を足そうか躊躇するほどに。


その時、水が揺れた。

そして視界から眩い光が溢れ出す。


「なっ、なんだ!?」


次の瞬間、視界には広い部屋が映った。

だが、ここがどこかなど上手く認識できなかった。


「どっ、どこだ!?」


視線をうろちょろとさせた。


中央には白髭の老人。

隣には赤いドレスの少女。

そして二人を囲むように厚い鉄鎧を纏った騎士たちがいた。


騎士の一人が、露骨に横を向いた。

少女は唇を噛み、僕を直視できない。

老爺の眉がひくりと痙攣した。


「勇者よ。そなたの真下にあるその白いものは何じゃ?」


下を見ると学校の洋室トイレがそこにあった。

誰も喋らない。

ただ鎧の軋む音が響くだけ。


(……誰か喋れよ。気まずいやんけ。)


そう思っていた瞬間ー。


「も、もしや。これは初代国王が予言した伝説の白い玉座ではないのか!?」


そう老爺は言う。その瞬間に騎士たちは仰々しく跪いた。ただ少女だけは気恥ずかしそうにしている。


彼女は手で視界を覆った。


(玉座じゃなくて便器だわ!ってかこれただの公立高校の便器なんだけど……)


さすがに少し傷つく僕だったが。


「ゆ、勇者様の股間が輝いております……」


「はい?」


下を見れば、神々しく輝く僕のムスコがいた。


「えぇ!?なんだこれ!ってか漏れそうなんだけどー!」


ここで漏らすのはダメだ。

流石に……。


「申し訳ありませんが、トイレはありませんか?」


「あっ、あの。勇者様。お手洗いならあちらにありますが……」


「教えてくれてありがとう!ちょっと行ってくるね!」


勢いよくその場から離れた。

少女には申し訳ないことをした。

まさか、トイレ中に異世界召喚?されるとは……


揺れるムスコと共に僕はお手洗い場へと着く。

その後は、駆けるように中に入ると、便座に腰をかけた。


(あぁ、綺麗で花の匂いがするトイレだぁ」


フローラルな柔軟剤に近い匂いがする。

便器は全体的に綺麗で、日頃からこまめに清掃されていることがわかる。


「ふぅ、スッキリした」


立とうとした瞬間。

体がよろめき、宙に舞う感覚に襲われた。


(やばい、倒れる……)


次の瞬間、視界に映るのはいつもの日常だった。


授業の終わりを告げる鐘の音が鳴り響く校内。

下を見れば、いつもの汚い便器があった。


「……っ」


苦虫を噛み潰したような顔をする僕。

あれは何だったのだろうか。


本当に異世界に召喚されたのか?

それとも、ただの幻覚か?


それはわからない。

けど一つ言えることがある。


ちょっぴり、漏らしちゃった……


下着の熱だけは、確かな現実だった、ということに。

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