97話 尻尾の手入れ
ミツキに武器制作依頼をして後はもう寝るだけになったのだが、寝るまでにまだ時間があった。
なので久しぶりにアレをやろうと思う。
「カエデ、おいで」
「はーい!」
カエデが俺の寝招きで傍に来て寝転がる。
俺は、手入れオイルとカエデから譲り受けた櫛を手にしてスタンバイ。
「じゃ、ゆっくりいくぞ」
カエデの尻尾に櫛を入れていく。
「んんっ……」
「カエデはここが弱いんだよな」
「ふっ……ふーっ。もう、ご主人様……そこばっかりぃ……んっ」
相変わらず、カエデは弱い所を攻めた時の感じ方が可愛いなぁ……ふふふふふ。
「ご主人……笑顔が怖いっす」
「まぁ、いつもの事よ……もふもふの事になったらおバカになるんだから……」
「バカじゃないって言ってるだろう!?」
そういや、このやり取りって前にもした気がするな。
「……ふむ」
カエデがトロトロになっていく姿をじぃぃぃっと見ているセシル、狐人族も尻尾がもふもふタイプだからやりごたえがありそうなんだよな。
「マスターがやる尻尾の手入れが凄いとは聞いていたが……こんな事になるのか」
「いつもこうなるっす。セシルもされてみたら分かるっすよ、抗えない快感に虜になるっす」
「そ、そうなのか……」
少し気になるのか自分の尻尾を触りつつソワソワする。
それを横目に俺は真剣に櫛を入れて梳いていく。
「ん? 微妙に不揃いな毛があるな……カエデ、ほんの少しだけ切っていいか?」
「ん、いいよ。椅子に座ってやる?」
「そうだな、そうしよう。準備してくれるか?」
「はーい!」
カエデは近くにあった椅子を運び、背もたれを前にして座る。
「毛を切る……? 尻尾の毛を切るのか?」
セシルはこれからやる事をまだ把握していないようで首を傾げる。
「あ、セシルはトリマーを見た事なかったっすよね?」
「と、とりまー?」
「よく見ておくといいっすよ。アレがご主人の、本来の姿っす」
セシルとソルトがこちらを見守る中、俺は必要な道具を脳裏に思い浮かべながらスキルを発動した。
「トリマー!」
腰には腰袋が巻かれ、そこには各種シザーやコームが入っている。
床にはタオルを設置して、落ちた毛で部屋を汚さないようにしておく。
「な、なんだ、あれは?」
セシルが初めて見る道具の数々の出現に驚く中、俺は気にせずコームとシザーを手に取って手入れを開始した。
「ああして、道具達を使って毛を切ったりして整えていくんすよ。髪の毛を切るやつの尻尾版って感じっすね」
「なるほど。ふむ……見た感じ、普通のハサミじゃないのだな、どれも独特な形をしている」
「形状の違うハサミはそれぞれに役割があるって言ってたっすね。形がほぼ同じに見えるのもあるっすけど、それらも全部微妙に違うらしいっすよ?」
「そ、そうなのか。髪を切る時でもハサミは1本しか使わないのが普通だが、尻尾の毛を切るためのハサミはそんなにあるのだな……知らないことばかりだ」
「ご主人が特別なんす。この能力の事は周りには内密にっすよ?」
「あぁ、了解した」
ソルトが全部説明してくれてるお陰で、俺は手元に集中出来ている。
集中してるといっても聞き耳は立ててるから、2人が何を話しているかは分かってるけどな。
「髪を切る整髪師が居るのは知っているが、まさか尻尾を専門にしている人が居るとは……驚いたな」
「尻尾は家族とか信頼してる人にしか触らせないっすもんね。基本は自分で、もしくは身内同士で手入れするもんっすし」
ほう、散髪をする人の事をこの世界では整髪師と呼ぶのか。
元の世界では理容師や美容師と呼ばれ、それぞれ国家資格が必要だったなぁ……トリマーになる前は美容師を目指して美容学校に行って勉強していたから、一応資格は持っているんだよな。
対してトリマーは民間資格で、色々な機関でトリマー資格を取ることが出来る。
養成機関も勿論あるし、取ろうと思えば独学でもいけるのがいい所だ。
「よし、こんなもんだな」
不揃いになっていた毛先を整えてカットは終了。
オイルで保湿とツヤを出して、ミツキの家にはドライヤーがあるので乾かし、最後に櫛を入れたら仕上がりだ。
「おお……これは、美しいな」
仕上がったカエデの尻尾を見て、セシルも少し羨ましそうにしていた。
「セシルも興味あるならやってもらうっすか?」
「うむ、狼も私の狐も、尻尾に誇りを持っている種族だからな。マスターが手入れした後の整いようは素晴らしく見える、それならば綺麗にして貰えると嬉しい」
「分かった、次はセシルをやってあげよう」
「頼む」
セシルがカエデを抱えでベッドへ寝かせる、そしてカエデと同じようにうつ伏せで寝転がった。
「お手柔らかに頼む」
「分かった。それじゃ、触るぞ」
セシルの尻尾を根元近くから持ち上げ、櫛を入れやすいようにする。
「……っ!!!」
すっっっごくふわっふわ!!
前に腕に尻尾すりすりしてくれた時から思っていたが、改めて触ってみて分かる、やばいなこれ。
「やっばいくらいふわっふわだな……」
「ふふ、手入れは欠かさずやっていたからな」
「触ったら分かる、これは丁寧に手入れされてる」
俺は櫛を少しずつ尻尾に入れ、慣らすように梳いていく。
当然ながら、櫛に毛が絡まる事なくサラサラっと通り抜けていく。
長さが不揃いな部分は多少あれど、それ以外は特に言うことも無い程にしっかり手入れされている。
「これは……凄いっ……」
「気持ちいいか?」
「あぁ……ゾクゾク感が、止まらないな」
「まだいけるか?」
「もちろんだ、続けっ……て頼む」
「了解」
ブロック分けした毛全てに櫛を入れ、抜けてしまっている毛等を取り除いてから手入れオイルを染み込ませていく。
「ふわっ……」
セシルらしからぬ声が出た気がした。
「みんなこれで声が出るんだよな、ぬるぬるが気持ちいいみたいでな」
「確かに……ゾクゾク感が、強いっ……」
ふわふわな尻尾にオイルを塗り込んで保湿させる、艶も出てきて綺麗だ。
オイルを塗り込むついでにマッサージもしっかりと行った。
ドライヤーで尻尾を乾かしてから仕上げ櫛して終了だ。
「ふー……ふーっ……」
「大丈夫か?」
「あ、あぁ、大丈夫だ……これは癖に、なりそうだな……」
「セシルもハマっちゃったっすね」
「聞いた通りだったよ……この腕は素晴らしいな……」
セシルは息を切らしながらも、自分の尻尾を見て感動している。ドライヤーのお陰もあってか最高の出来だ。
「よし、じゃあ次はソルトなー」
「お、お願いするっす」
ソルトも同じように櫛を入れ、オイルでしっかりマッサージして、ドライヤー。
ソルトの尻尾が、今までにない輝きを放っている。良い出来だ。
手櫛でサラッと毛を流してみると、俺の手すら気持ちがいいくらいだ。
「シェミィもやるか?」
「ん!」
シェミィにも同じようにしてやるのだが、シェミィは毛が短い猫尻尾の為にオイルマッサージをメインにする。
「ん、気持ちがいい……さすがパパ」
「だろ? パパはプロだからな」
もう自分の口からもパパって言うようになってしまったな、今日言われたばっかりなのにもう定着している。
ちなみに尻尾の付け根あたりトントンしてあげると、ゾクゾクするけど刺激が強いからヤダだとの事。
トントンが好きな子が多かっただけに、ちょっと残念に思うのだった。




