80話 メイランとエリスタ
朝になり目を覚ますと、かなり近い所にカエデの顔があり、すーすーと寝息をたてていた。
やっぱり可愛いな、カエデ。
夜中も特に起きる事もなく熟睡出来た、きっと寝てしまうまでやっていてくれたもふもふのお陰だろう。
頭や身体を打った際の後遺症も特にないみたいだし、無事3位決定戦や団体戦にも出られそうだ。
俺は優しく起こさないようにカエデの頭を撫でる、少しだけ耳をピクピクとさせながらも気持ちよさそうな顔をしていた。
俺は身体を起こして枕を背もたれにして座って、カエデとの試合を思い返す。
昨日カエデと真剣勝負し、俺はカエデに勝つ事が出来た。
しかし、純粋な勝負をして勝っただけであり、本当であればカエデが勝っていたはずだ。
最後の装纏猫双牙の発動に費やした時間があったからこそ立て直せただけで、あのまま獅子連打されていたら防げなくて負けていただろう。
俺もまだまだだな……もっと強くならなくちゃいけないな、皆と一緒に。
「んっ……? あ、コウガ様……」
「起きたかメイラン」
「んんっ……」
メイランは目を擦りつつ身体を起こし、背中をグッと伸ばしてからこちら側へ来た。
「身体は大丈夫? ふらついたりしないかしら?」
「あぁ、問題ない。迷惑かけたな……」
「コウガ様、これぐらいの事で迷惑だなんて誰も思わないわよ。もっと私達を頼りなさい」
ソルトが言った事以上の言葉がメイランの口から出てきた。ほんと、俺の周りに集まる子達はみんな良い子だな……泣きそうになるよ。
「……ありがとう、これからも頼らせてもらうよ」
「よろしい」
メイランがそういって俺を抱き締めた。
「!?」
「昨日はカエデに全部譲ったから、今だけ……少しだけ、私が独占させてもらうわね。私だって不安だったんだから」
メイランは俺の温もりをいっぱいに感じるべくギュッと抱き締める。
俺もメイランを抱き締め返し、メイランの温もりを感じるのだった。
満足するまで抱き締めている最中にセシルが起きてきたのが見えたのだが、セシルは気にする様子もなく微笑ましい顔をして、俺に向かって『おはよう』と口を動かしてから身支度をしに行った。
多分、気を使ってくれたのかもしれないな。
暫く温もりを楽しんだ後、起きてない2人を起こして身支度をする。
ミツキ達に朝の挨拶を済ませてから全員で朝食を取り、みんな揃って武闘会会場へ。
その道中、俺とクロエとカエデでメイランに魔力圧縮について教えながら移動した。
メイランは魔力操作を苦もなく出来るので、圧縮させる感覚はすぐにコツを掴んでくれたみたいだ。
これを可能なら団体戦中に実験する事になっている、すぐに出来るかどうかは分からないが……俺とソルトがサポートするので問題ない。
そして会場入りした俺は待機室へ向かった、メイランとカエデと共に。
何故2人が一緒なのかと言われたら、あのドラゴンについて何かが分かるかもしれないからだ。
「エリスタが何か情報を持っていたら良いのだけれど……」
「そうだな。不自然な程に姿を表さない所を見るに、何か重要な事を握ってそうな気もする」
「そう、ね……不安だわ」
メイランは不安な顔をしていた。
自分が奴隷として売られる前後に何があったのか……知りたいと思う程に不安も積もるだろう。
ガチャッ
控え室のドアが開く、そして現れたのはエリスタだった。
「あっ……」
「……エリスタ」
メイランとエリスタはお互いの顔を見合う。
「……久しぶり、メイラン」
「そうね、久しぶりエリスタ。元気そうで何よりだわ」
「メイランも、良い主人に出会えたみたいで良かったよ……奴隷落ちになったって聞いて心配したんだから」
「やっぱり知ってたのね、何処かから見てたの?」
「うん、遠目から見てた……ごめんね、というか……メイランが奴隷落ちした後の話を武闘会終わった後にしたかったから避けてたんだけど、まさか控え室に待ち構えているとはね……」
「ごめんなさいね、どうしても知りたいの……あの後、私達レッドドラゴンやブルードラゴンがどうなったのか。その件に関わりがあるかもしれない人物を今追いかけているの、だから知っている事、全部教えて頂戴!」
「……」
エリスタは険しい顔をして、口を開きそうになっては閉じたりしている。今話していいものなのかと悩んでいるように見える。
「ごめん、武闘会が終わってからにして欲しい。この後出場を控えているメイランに、この話は出来ない……ちゃんと終わったら話すから! お願い……」
「……」
メイランは一息吐いて、近くにあった椅子に座る。
「分かったわ……でも約束して、絶対に武闘会終わってから話すと」
「約束する、絶対に! ……それならこれ、メイランが預かってて」
エリスタは、首に掛けていた物をメイランに手渡した。
「こ、これって……エリスタの大事な……」
「うん。じゃないと信用して貰えないと思うから、今まで逃げて隠れてたような人だからね、私は」
「で、でも……」
「ごめん、それは一体……?」
俺はメイランが受け取った物が気になり聞いてみた。
「……これは、エリスタの母親の形見、家族写真が入ったロケットペンダントよ」
「母親の……」
「はい、母は私が幼い内に病気で亡くなりました……亡くなる直前、私にこれを託してくれた大事な物です。それをメイランに預けます。メイランは奪ったりしないと信じてますから」
エリスタから信頼の目を向けられるメイラン。
「……分かった、私もエリスタを信じるわ。こんな大切な物なんて預かれない。これを私に渡すくらいなのだから、逃げるとは思えないもの。コウガ様、今日の武闘会終わってからエリスタに話してもらいましょう」
「そうだな、分かった」
メイランはエリスタにロケットペンダントを返した。
「……ありがとう、ごめんなさい」
「いいわ、こちらこそ無理に聞き出そうとして悪かったわね……ごめんなさい」
「あっ、メイランが謝る事じゃないよ! 私が引き伸ばしてるだけだから……」
そう話している内に司会のミーサーの声が聞こえてきた。
「さぁ、時間になりました! 今日もやっていきましょう武闘会! 今日は個人戦3位決定戦を行ってから団体戦へと入っていきますよー!! みんな準備はいいかー!?」
ウオォォォォォォォ!!!
「……そろそろ試合だな」
「はい、こんな空気で申し訳ないですが……よろしくお願いします!」
俺とエリスタはステージへと向かう。
その道中……。
「……コウガさん」
「なんだ?」
エリスタは俺の前まで歩いて振り返り、俺の足を止めた。
「……えと、大変失礼な質問だと思いますが、聞かせてください。メイランを、どうするつもりですか?」
「メイランを?」
「……はい、奴隷になった以上メイランは買われた主人に反抗出来ません。奴隷を買った以上、貴方はどんな事もメイランに命令出来ます。例えば、ヤラシイ事だって……」
「……なるほど」
まぁ、奴隷と言われたらそのイメージが強いだろうな……いわゆる性奴隷ってやつだ。
唯一の種族違いの友達が、奴隷として色々されていないか心配なのだろう。
「心配か?」
「……はい」
「心配しなくとも、メイランを奴隷として扱ってないよ。不安なら俺の仲間達やその周りに居るみんなに聞いてみるといいさ」
「……正直、聞かなくても昨日ずっと遠目からみてましたから、大丈夫だと分かってはいるんですけどね。不安は不安なので」
「まぁ、逆の立場で考えたら不安なのも分かるけどな……」
俺だって仲のいい旧知が奴隷落ちしたらと考えると、嫌な気持ちになる。
例えば……前世でお世話になった梨沙さんとかな。
「続きは後で、ですね。さて、行きましょうか」
「あぁ」
俺達はステージへと歩いて行った。
「さぁ! 3位決定戦に出場する選手2名が入ってきました! 惜しくも準決勝で敗れてしまった2人ですが、どんな試合を見せてくれるのでしょうか!? 両者構えてください!」
俺はナイフを握り、ふぅ……とひと息つく。
エリスタもバサッと翼を広げ、すぐ動ける体勢に。
「3位決定戦始めます! レディーーーッ、GO!!」
3位決定戦が今、始まった。




