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6話 初依頼、初魔法

 ギルドに着いた俺とカエデは、クエスト板に貼られている依頼に目を通していた。


「俺はランクFだから、この辺りか」


 ゴブリンの討伐、ウルフ討伐、市場調査、ペットの散歩、配達、薬草採取、庭師の手伝い、店員募集……色々あるな。

 Fランクの依頼だからか、それ程難しいのは無さそうだ。


「魔法の練習するって決めてるから、外に出てやれる依頼はっと……これと、これにするか。カエデ、これなら大丈夫か?」


 俺が手にしたのは、薬草採取とゴブリン討伐の依頼。

 いきなり魔物討伐? と思われるかもしれないが、魔法の練習をしたいのもあるし、カエデの戦闘能力を確認しておきたかったのもある。


「薬草を20本採集と、ゴブリン5体討伐。うん、問題ないかな。場所も同じ場所で達成出来そうだしね」

「よし、それじゃこれにしよう」


 依頼書を手に受付へと持っていく。

 受付中、カエデがギルドにある本棚を眺めており、お目当ての本を見付けたのか2冊借りていた。


「本を借りたのか?」

「うん、必要になると思ってね。後で見せるよ」

「分かった。それじゃ、初仕事行くか!」

「うん!」


 トライデント王国から外に出て東側にある森へ入る。ここは俺が転生して落ちて来た森だ。

 クエスト受注してからギルドでマップを確認したところ、この森はテラー大森林と呼ばれる所だそうで、反対側へ通り抜けるのに馬車でも2日~3日掛かるそうだ。

 この森は深い場所に行けば行く程魔物が増えるそうだが、森の端は魔物が少ないらしいので、魔法の練習をしてから魔物が出る区域に向かう事となった。


「この森は西区と東区、北区の三区分されていて、西区がトライデント王国側、東区はこの王国の隣街、サンビーク側になるの。北区方面には山脈があって、その手前には私の住んでる村、トーラン村がある……いや、あったんだけど、あそこはもう……」


 言葉が詰まり、歯を噛み締めるカエデ。何かあったような雰囲気だ。


「何か、あったのか?」


 暗くなった表情をみて、思わず聞いてしまった。


「……実は、数日前に村へドラゴンがやって来てね」

「ドラゴン!?」


 ドラゴンはどの物語でも高ランクで強い魔物であるイメージだ。そんな魔物が、カエデの住む村に?


「元冒険者だったお父さんとお母さんは、私や村人を逃がす為にドラゴンと戦ってくれたの。私はお父さんが契約していた従魔に連れられて逃げる事になったから……2人はどうなったのか、正直分からない」

「冒険者だったのか……お父さんとお母さんは強かったのか? ドラゴンと戦える程に」


 カエデはゆっくりと首を左右に振る。


「ううん。ドラゴンは基本的にAランクに振り分けられる強さなんだけど、お父さんがCランク、お母さんはDランクの冒険者だったから、とてもじゃないけど敵う相手じゃない。しかも冒険者を引退して10年以上薬屋をしてたからね。多分、腕は衰えてたと思う」

「……」


 口には出さないが、これは……希望薄かもしれない。


「王国と隣町のサンビークから救助に向かった救助隊曰く、村は壊滅状態だったみたいでね。周辺の捜索もしたそうだけど、遺体しか見付からなかったんだってさ」

「それじゃ、カエデの家族は……」

「多分、亡くなってると思う。ここでああしていればとかの後悔はあるけど、私は弱いから、きっと守れなかったと思う。だから、私は強くなりたい。あのドラゴンに一矢報いたい。出来る事なら、討伐したい」


 力強く決意に満ちた目で語ってくる。

 その目を見ていると、出来る限り協力したいとは思うのだが……カエデとの関わりが後2日だけなのが悔やまれる。


「1日2日でどうにかなる訳ではないだろうけど、出来る限り俺も協力するよ」

「……ありがとう」


 カエデは微笑む。

 辛いはずなのに、どうしてそんな顔が出来るのだろう?

 村から逃げ延び、奴隷になっても失われていない決意に満ちた目。辛さを力に変えて前を向いているカエデが、少しばかり眩しく見えた。


 森の中を少し歩き、大きめの木が立っている所でカエデは立ち止まった。


「まずはご主人様の魔法の練習をしなきゃね。この辺りなら魔物もほどんど出ないし魔法使っても大丈夫だから、ゴブリン討伐に向けて魔法のコツを掴もう! これ、参考になると思って持ってきたよ」


 カエデから手渡されたのは、恐らくギルドから借りて来た本。

 タイトルを見ると、魔法書初級と書かれていた。


「これは……初心者用の魔法書か! ありがとう!」


 周りに危険がない事を確認し、木々の根っこに座って本を読み進めていく。

 魔法を使えるようになるには、ざっくりと3つのステップが必要になるそうだ。


 1つ、体内の魔力を感じ取る事。

 2つ、体内の魔力を操作して必要な場所に集める事。

 3つ、詠唱をする事。


 その3ステップを経て魔法が発動するのだが、各個人には属性の適性があり、適性がない属性の魔法は発動しないようだ。適性のある属性の魔法を繰り返し使う事により、ようやくスキルとして習得する。

 スキルを発動すれば、細かい魔力操作をせずともスキルが勝手に最適化してくれて、詠唱さえすれば魔法を発動出来るそうだが、更に魔力を込めたりすれば魔法が強くなったりもするらしい。

 上級者となれば詠唱も破棄してイメージ力だけで魔法を使えるようになるそうだが……俺にはまだ早いだろう。


「なるほど、取り敢えず魔力を感じる所から試してみるか」


 初めて魔法を使うので、お手本通りにしてみるべきだと思って魔法発動までの基本にならってやってみる事にした。

 魔力を感じるとは、体内を血が巡っているのを感じ取るような事らしいのだが、そんなの分かるのか?


「魔力ってどうすれば感じ取れるんだ?」

「魔力を感じるだけなら簡単だよ! ほら、両手出してみて?」

「あ、あぁ」


 両手を出すと、カエデは両手を握ってきた。


「今から私の魔力を少しだけ流すから、両手から何かが流れ込んでくるのを感じ取ってみて」

「わ、分かった」


 女の子に手を握られるなんてあまり経験がなく少しドキマキしてしまう俺だったが、カエデは気にせず目を閉じて魔力を流し始める。


「……!」


 すると、カエデの手から暖かい何かが流れてくるのを感じた。


「分かる?」

「あぁ、分かる。両手から温かい物が流れ込んで来て、身体を巡ってる」

「そう、それが魔力だよ。ご主人様の魔力も動かしていくね」


 カエデがそう言うと、俺の体内にある魔力も動き出したのを感じ取る事に成功。これで第1ステップは完了だ。


「次は私に魔力を返してくれる? 流れている魔力を両手へゆっくり流し込む感じだよ!」

「カエデの手へと、流し込む……」


 教えられた通りのイメージをしてみると、苦もなく魔力を両手へ流す事に成功。カエデに魔力が返っていく。


「ご主人様、筋が良いね!」

「いやいや、ほとんどカエデのお陰だよ。でも、魔力操作ってこんなすぐに出来るようになるもんなのか?」

「初めての魔力操作って、すぐ出来る人と中々コツが掴めない人に分かれちゃうかな。一発で出来たご主人様なら、魔法も問題なく発動出来ると思う」

「だといいな。なら、まずはスキルとしても習得しているアイスショットの魔法を使ってみよう。えっと、詠唱は……」


 本のページを捲り、氷魔法であるアイスショットの詠唱を確認する。

 『氷よ、敵を貫く礫となりて』が詠唱らしい。

 アイスショットの名前と詠唱文からして、氷の礫を敵に飛ばすような想像をした。そのイメージをしっかりと脳内に思い浮かべる。

 杖先に氷の礫を生成し、そこから発射する事を想定して杖に魔力を集める事にした。


 杖を握り前に突き出し、体内にある魔力を杖に通していく。


「氷よ、敵を貫く礫となりて!」


 詠唱を完了させると、杖先に流していた魔力が消費され、氷の礫が発生した。


「アイスショット!」


 そう言い放つと、杖の先から氷の礫が発射されてザクッと木に深く突き刺さる。更に、礫の刺さった所がパキパキと凍っていく。


「さすがご主人様!」

「お、おおっ! これが魔法か! やっべぇ!」


 異世界と言えば、やはり剣や魔法のイメージが強く、特に魔法は皆が憧れる物だろう。

 それを自分の力で放ったんだ、浮かれるに決まっている。


「どう? 初めて魔法を使った感想は」

「最っ高だ!」


 語彙力が足りないのは許してくれ、それだけ嬉しかったんだ。


「私は魔法を使えないけど、初めてスキルを使えた時も嬉しかったから気持ちは分かるよ。嬉しいよね」

「そう言えば、前も魔法が使えないって言ってたよな。でも魔力操作が出来てるって事は、カエデも何かしら魔力を消費するスキルを使えるのか?」

「身体強化を使えるよ! 見ててね……」


 カエデが握り拳を作り腰付近に持っていき、身体強化! と発すると、微量の魔力が身体を纏ったように見えた。


「ハッ!」


 掛け声と共に地面を蹴ると、凄いスピードで俺がアイスショットを放った木へと駆けていく。


「てやっ!」


 カエデが拳を一突きさせると、アイスショットが刺さって弱っていた部分からメキメキメキと木の折れる音がし、バッターンと倒れた。


「凄い……なんてスピードとパワーだ」

「そんな事ないよ。ただ身体を強化させて、ご主人様が弱らせた部分を殴っただけだからね。私なんかより速くて力が強い人なんてごまんといるよ」

「……マジで?」

「うん」


 流石異世界だな……カエデのあれ以上に速くて力強い奴が沢山居るのか。

 魔法使いとはいえ、相手の一撃を耐えられるくらいには防御を……いや、いっそ回避を鍛えた方がいいのかもしれない。


「まぁ見てもらった通り、私は前衛で敵を殴り倒すスタイルだから、ご主人様が魔法の詠唱してる間は私がダケ取って敵を減らし、ご主人様の魔法で援護してもらう形が良いと思うんだけど、どうかな?」

「あぁ、それでいこう」


 あのスピードに加え、あれ程のパワーまで備わっているとなれば、相手にすれば中々に厄介だろう。

 特に、俺のような詠唱が要る魔法使いにとっては天敵と言える。

 だが、味方であれば逆に頼もしい。カエデが言うように魔法を発動するまでの時間を稼いでくれるからな。

 後はタンク的な役割の人が居れば、バランスの取れたチームになるかもしれないな。

ご覧頂きありがとうございます。


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