58話 メイランの飛行能力
ーーーメイランsideーーー
「メイラン殿、飛行能力に自信はあるか?」
「飛行能力に……? さっき負けたから少し自信持てなくなったわね」
先程負けたのがよっぽど響いてるみたいで、自信が持てなくなっていた。
頭の中もモヤモヤしていて頭が回らない。
「大丈夫、この特訓すれば機動力を手に入れられる」
「機動力を?」
どういうことだろうと一瞬だけきょとんとしてしまった。今、私に足りないのは攻撃手段と言われていたので予想外だった。
「えっと、私に足りないのは機動力ではなく攻撃手段じゃ……?」
「そう、だからこそ機動力を高める。空を飛べるならこれを活かすべき」
「???」
攻撃手段と機動力がどう繋がるかわからず、顎に手を付けて頭を少し捻らせる。
「先程の模擬戦を思い出して、メイラン殿はどんな攻撃をしたかを」
「んーと……」
模擬戦をよく思い浮かべる。
空を飛び上がり、炎勝負して、火球放って、真っ直ぐ突っ込んで……。
「……!」
頭の回らない状態だったが、ようやく理解した。
「理解した?」
「回避以外だと、直線的な攻撃や移動しかしてない……」
「そう、だからさっき言った、読まれやすいと」
ツバキから弱点を言われ、ぐっと唇を噛む。
私自身、戦い方なんて考えたことも思い返したこともなかったから、こんな単純な動きしかしていたとは思わなかった。
「ごめん、これはきちんと意識してもらわねば困るから」
「大丈夫よ……それで、機動力とどう繋がるのかしら?」
「飛行状態の機動力を上げて、動きに変化を入れる。これだけでも充分読まれにくくなる」
凄く単純な話であり、誰でも思い付きそうな内容である。
「そんなの、誰でも思い付くわよ……でも、難しい。出来れば苦労しないわ」
「だから、出来るようにする」
「何か秘策でもあるのかしら?」
「これを使う」
ツバキは何かを取り出したようだが、よく見えなかった。近付いてよく目を凝らしてみると、何か細い物がきらんと光った。
「これは……糸? さっきの小道具にくっ付けてた物かしら?」
「そう、これに魔力を流すと自由自在に動かす事が出来る。これを飛行状態で避けながら私に突進してもらう」
「えっ!? こんな細い物を見極めて避けるの!?」
近付いてよく目を凝らさないと見えない糸を避けろって……これは余りにも厳しすぎるのではないかしら。
「大丈夫、最初は魔力を色濃く出す。慣れてきたらどんどん動かすスピードと魔力の色を薄くしていく」
「なるほど……段々と素早く見えにくくなるって事ね、かなり厳しい特訓になりそうだわ」
「当たり前、さぁやるよ」
ツバキはクナイや手裏剣に糸を括りつけている、その間に身体を動かして解していく。
「準備はいい?」
「ええ、良いわよ」
「ふっ! はっ!」
ツバキはクナイと手裏剣を私に目掛けて数多く投げ付けた。更に糸へ魔力を纏わせたことで色濃くなって糸が見えるようになっている。
クナイと手裏剣を避けると、背後で闇の空間が広がってクナイと手裏剣が中に入っていく。
闇の空間にクナイや手裏剣も取り込まれたのに糸は消えていない。
簡単に今の状況を説明するならば、ツバキと闇の空間で糸を引っ張り合っている状態で、私の周りにはピンと張られた糸が何十本もある状況だ。
「お覚悟!」
「っ!」
糸に張り巡らせた魔力が自由自在に動き出した……んだけど、見極めて避けるだけで精一杯だった。
「うっ!?」
「しっかり糸を見る! それをかいくぐって突っ込む!」
「む、無理よこんなの!?」
言い表すなら、大縄が自由自在に暴れ狂う中、ずっと中で飛び続ける大縄跳び的な感じが1番近いかもしれない。
「ぐっ! あぁぁっ!」
糸が1本メイランの背中に当たってしまい、動きが止まった瞬間に袋叩きに合う。
「ぐぅぅぅ……」
袋叩きに合って地面へとゆっくり落下。痛みで立ち上がるのに少し時間が掛かってしまった。
遠目で見ていたミツキさんが私に駆け寄り、手に持っていたポーションを飲ませてくれた。
「うーん、ただ避けるだけじゃなく、身体を回転させたり、くねらせたり出来る?」
「む、難しいこと言うわね……飛んでる最中って微調整が物凄く難しいのよ、いきなりあれだけの糸がある中でやるのは無理よ」
ツバキがおでこに手をついて溜息を吐く。
「む……仕方ない、まずは2本くらいからいく。そして避けるのに集中する」
「それでお願いするわ……」
張り巡らせていた糸を2本だけ残して、全て地面に降ろす。
私も空へ飛び上がり、糸2本の間に位置取ってスタンバイする。
「いく」
ツバキが魔力を流して糸を操りだす。
糸を鞭のように動かして私を叩きつけようとする。
先程言われた回転を試そうと、背面跳びのように身体を反らせてやり過ごそうとするが……。
「いっ! いたた……」
身体を反らせた瞬間に翼が糸に当たってしまい、バランスを崩して墜落して尻餅をついた。
「んー慣れるしかないか……やれる?」
「何回でもやってやるわよ……えぇ! やりますとも!」
出来なくて悔しいって思ってしまったからなのか、心の闘志に火がついた。
何度も何度も撃ち落とされるものの、諦めずに何度も繰り返した。
2時間程やっていると、糸4本くらいなら身体を反らせたり回転させて回避出来るようになった。
外部からみたらアクロバティックな飛行技を繰り出しているように見えているはずだ。
「はぁはぁ……」
「まぁこんなものかな。次は少しスピードアップさせる、今度こそ私に突進して」
「わ、分かったわ……ふぅ……」
私は再度空へ飛び上がり、糸の準備が出来るまで待機する。
「うん、いく」
「!」
糸4本が変則的に動きながら私に襲いかかる。
糸が襲いかかってくる方向から直角方向へ避けながら、ツバキに突っ込める隙を伺う。
「……大丈夫、だいぶ分かるようになってきた」
背後や視覚外から来る糸も見ることなく避け続ける。
何が起きているかといえば、あの2時間の間に感覚や精神を研ぎ澄ませて回避していた事により、魔力の探知と危険察知が出来るようになっていた。
『危険察知』
『魔力探知』
危険察知はカエデとコウガ様が持っているものと同じ。
魔力探知のスキルにより、周辺にある魔力を探知出来るようになったり、その魔力の位置や量が感覚的に理解出来るようになった。
右からと上から糸がクロスするように迫ってきていたが、上から来るのは視覚から、そして右から来るのは魔力探知で察知した。
上からの糸を左へ回避すると、すぐさま右から糸がやってくるが、それを飛び越えるように身体を反らせて回避する。
2本の糸が一度に攻撃へ回ったことにより、ツバキを守る糸が2本になる。
「今よ!」
「!」
今しかないと判断し、身体を反らせて回避した勢いのままツバキへ突進を開始する。
「やっときた、ふっ!」
ツバキは残り2本の糸を操り、突進を妨害しようと糸を振るう。
「糸は真っ直ぐ張られてる、来る方向が分かれば避けられるわ!」
左右から挟み込むように糸が振るわれるが、上方向へ身体を回転させて回避する。
「……っ!」
「喰らいなさい!」
私は勢いを乗せた渾身タックルを繰り出した。
「っ!」
タックルが当たる前にツバキはステップで回避行動を取ったが、私はすぐ近くにあった糸を掴み、ツバキごと糸を引き寄せた。
「なっ!?」
ツバキはこれ以上の回避が出来なかったようで、私のタックルが命中した。
「やった……!」
確かに当てた感覚、初めて打ち勝ったと確信した……が。
「……お見事。でも……」
そう聞こえた瞬間、確かにあったツバキの身体がボフッと霧に消えたのだった。
「えっ……!?」
一体何がどうなって……と頭の中がパニックになった瞬間、背中に不意打ちの肘鉄を喰らって地面にめり込んだ。
「がっ!?」
背中の痛みで起き上がることも出来ず、うずくまることしか出来なかった。
「くっ……そ……」
それをみたミツキさんが駆け寄って来てくれて、私にポーションを飲ませてくれる。
「ツバキ! カウンターは流石にやり過ぎだよ! メイランさん、ごめんなさい。ちょっと過激すぎますよね……」
「大丈夫、私の為にやってくれているのだから……責めないであげて。私は頑張りたいの」
「メイランさん……」
ミツキさんは不安げに私の顔を覗き込んだ。
「だから、ミツキさんも気にしないで。怪我したらまた飲ませてくれると助かるわ」
「……分かりました、任せてください!」
ポーションで身体が癒えたので立ち上がり、また最初の糸を避ける所から訓練を再開する。
途中でおやつ休憩を挟んだ後も訓練が続き、最終的には糸6本を避けながら突進する事に成功した。
しかも、その糸は今までは真っ直ぐな糸を操っていただけだったが、曲げたり直角に糸をくねらせたりさせてきて難易度が上げてきた攻撃を回避した。
「これだけ機動力があれば、攻撃も様々な状態から繰り出す事が出来る。相手を撹乱しながらも可能……」
「はぁ……はぁ……や、やったのね……私……」
「よく頑張った」
「私……やりきっ……」
言葉を言い切る前に視界が揺らぎ、体力の限界だったのか倒れ込んだ。
「あっ……」
ツバキが気付いて手を伸ばそうとしたが間に合わなかった。
それを見たミツキさんがこちらに駆け寄ってきた。
「ツバキ、お疲れ様。ヴィーネ、メイランさんを頼むよ」
「かしこまりました、ご主人様」
ヴィーネが私を抱き上げてベッドへ運び込む。
「主人、それがしがやった事……まずかった?」
「まぁ、ちょっと厳し過ぎるよね。カウンターが発動してしまうにしても、当てる必要はないはずだよ?」
「うっ……」
やりすぎたと再認識したようで、ツバキは俯いてしまった。
「まぁでも、本人もあれだけやる気だったから大丈夫だと思う。必要な事だったんだよね?」
「うん……」
ツバキは俯いたまま、暗い顔をさせていた。
そこに駆け寄ってきた影が1つ、コウガだった。
「大丈夫だ、ツバキ」
「コウガ殿……」
「メイランの為にやってくれたんだよな? 本人がやる気だったなら俺も咎めはしないよ」
「……うん」
「ありがとう、ツバキ。メイランを強くしてくれて」
「……うん」
普段はくノ一らしく、クールで寡黙な印象を受けるツバキ。
しかし、顔を伺うとツバキが少し涙目になっており、不安そうな顔になっていた。
「さ、今日の特訓終わって休もう」
「ですね。今日は泊まっていきますか? ソルトさんはすぐ目を覚ましましたが、メイランさんはすぐ目覚めるかは分かりませんから……」
「ん……そうだな、すまんが頼めるか?」
「分かりました、ヴィーネに頼んでおきますね」
「助かる」
訓練していた皆もゾロゾロと家の中に入っていく。
ツバキも家に入ろうとしたが、ピタッと足を止めた。
「……目が覚めたら謝らないと」
ツバキは上を向いて、紅く染まった空を眺めたのだった。




