4話 トリマースキル
「んーっ……良く寝た」
俺は身体を起こし、グッと背中を伸ばす。慣れない寝床ではあるものの、身体に痛み等はなく疲れもきちんと取れているようだった。
隣に居るカエデを見ると、まだ寝ているようでスヤスヤと寝息をたてている。
「やっぱ可愛いなぁカエデ。耳がピコっと動くのが堪らない……ちょっとだけ触ろうかな」
カエデの耳を軽く触れてみる。
「んんっ、すぅ……すぅ」
「はぁぁぁぁぁ、可愛い……」
ってイカンイカン、欲望丸出しは嫌われそうだ、控えよう。
今日の予定は、冒険者として仕事していく為に午前中で装備とアイテムを整えて、午後からは依頼と魔法の練習をしようと思う。
っと、その前にギルド資料を見なくちゃな。初日にルール違反して冒険者カード剥奪! とか嫌だもんな。
昨日受け取ったギルド資料を手に取り、じっくりと目を通していく。
書いている事と言えば、規則としてギルド員同士での乱闘や殺し合いは禁止だとか、ギルド報告に偽りは禁止だとか、ギルドランク以上の依頼は基本受けられないとか、そのような当たり前な規則がズラズラと書かれている。その他にも、ギルドのランク規定や昇格条件等々も書かれていた。
ランクはGからSランクまであり、Bまでは実績による昇格、Aランクは実績+ギルド長の推薦。そしてSランクは実績+ギルド長と国王から認められる必要があるらしい。
ギルド資料を読み終えた頃、ベッドの方でモゾモゾと布の擦れる音が聞こえてきた。
「んっ……」
寝ていたカエデは小さく息を漏らしながら、頭だけを起こしてきた。
「おはようカエデ」
「んんーっ……おはよう、ご主人様」
猫が伸びをするように四つん這いになり、身体を下げつつお尻を上げて伸びーっとする。まぁ、ベッドの中でだから見えないけど。
窓の近くで吊り下げていた服に手を伸ばし、ベッドの中でモゾモゾ。服を着た後にベッドから降りて来た。
尻尾も機嫌よくふぁっさふぁっさと揺れており、寝起きのカエデが凄く可愛い。
「早起きだね、ご主人様」
「たまたま目が覚めちゃってさ。今日は午前中に装備とアイテムを揃えてから依頼に行きたいんだけど、いいか? 余った時間に使った事のない魔法を試してみようと思うんだ」
「分かった。魔法に関してはさっぱりだけど、それ以外なら任せて! 知識はあるから、しっかり教えてあげるね」
「頼もしいな、頼む」
お互いに身支度を済ませ、食堂へと向かって朝食を食べる。今日はベーコンエッグとパンとポタージュスープだった。
「ん〜っ、美味しい! このスープ好みかも!」
「そうだな、今度真似してみるか」
「ご主人様って料理作れるの!?」
「あぁ、ここに来るまでずっと1人で暮らしてたからな。こっちの食材と向こうの食材の違いを把握出来れば、俺の世界の料理も再現可能かもしれないぞ」
カエデの目が輝き出す。耳と尻尾がピンと伸び、こちらへ身を乗り出してきた。
「ほんと!? 私、結構食べるの好きなんだ! ただ、料理は全然出来なくて……」
「なら、今日は準備する時間ないけど、明日のお昼ご飯用に簡単な物作ってあげるよ」
「やった! 楽しみにしてるね!」
カエデがルンルンと上機嫌に朝食を食べ進める。
カエデは食べるのが好きなんだな。それならば一緒にいられる間、なるべく美味しい物食べさせてあげよう! となれば、依頼終了後に食材を買いに行かなきゃな。
と、ここでとある疑問が思い浮かぶ。
「そういえば、俺の魔法にあるストレージスキル、時間経過とかあるんだろうか?」
「す、ストレージって、まさか空間魔法の!?」
ここは食堂なのもあり声は控えめにしてくれているものの、顔が凄く驚いている。
「そう、だから周りには内緒な?」
「わ、分かった。えっと、それでストレージが……なんだっけ?」
「ストレージに入れた物の時間経過があるのかどうかって話だ」
「あぁそうだったそうだった。私の聞いた話だと、アイテム袋と同じように収納するだけって聞いた事あるけど……どうなんだろうね?」
アイテム袋も異世界でよくあるアイテムだよな、ストレージの安易版みたいなやつ。ストレージがあるって事はアイテム袋もあるんだろうな、とは思ってた。
だからこそ、ストレージの詳しい効果ってのは知れ渡っていないようだ。
「ま、この辺は試してみるしかないな。当たり障りないアイテムか何かで今度実験してみよう」
「だね。ご主人様は他には何のスキルを持ってたりするの?」
「えっと、氷魔法のアイスショットとアイスウォール、鑑定に危険察知とかもあるぞ」
「鑑定スキルあるんだ。なら、自分のスキルも鑑定出来たはずだから、ストレージを確認してみたらどうかな?」
「そうなのか! なら試してみるか」
「あ、ついでに謎スキルも確認してみようよ!」
「確かに、鑑定出来たら詳細が分かるかもしれないな。よし……」
ステータス画面を開き、各スキルに鑑定掛けてみる。
アイスショット(氷塊を形成し放つ)
アイスウォール(氷の壁を作り出す。魔力を込めた分、大きく作れる)
ストレージ(容量は1スペースで2階建ての家相当。10個のスペースがある為、振り分け可能。各スペースに時間経過ありと無しを設定可能、使えば使う程スペース数が増えていく)
??(???……)
鑑定(目に映る物の詳細を確認出来る)
危険察知(危険を察知する事が可能)
トリマー(トリマーとして必要な道具を呼び出せる)
動物愛好家の加護(様々な動物から好かれやすくなる)
「おお、見れた!」
各スキル説明を読んでいくが、?スキルの詳細が分からずじまいだった。
ただ、トリマーのスキル詳細が判明。トリマーとして必要な道具を呼び出せるというものだった。
これは、この世界でもトリマーとしての技術を遺憾無く発揮せよ! っていう神であるレア様からのお達しだろう。
道具があるのならもふもふ達をキレイキレイにしてやれるぜ……ふふふっ。
「……ご主人様、顔がイヤらしくなってるよ」
「え、マジ?」
「うん」
いかんいかん、不審者で捕まってしまう。トリマーについて考えるのは後にしよう。
「しっかし……?スキルは鑑定しても分からないとは……」
「分からなかったんだ、一体何なんだろうね?」
「さぁなぁ……でも、ストレージは分かったぞ。ステータスを鑑定結果を添えて見せるから、見てくれ」
「えっと、ご主人様。そんな軽々と他人にステータスを見せるのはどうかなと思うんだけど」
本当にいいの? と言いたげな顔をしながらこちらを見てくる。
確かに、見知らぬ他人に見せるのはよくないだろうが……カエデなら大丈夫だと信じてるからな。
「カエデならいい、みて」
「……分かった。それじゃ、失礼して」
俺の表示した鑑定済みステータスをまじまじと見つめる。
「え、凄い! このストレージスキル、時間経過無しにも出来るんだ! これなら採取した素材を高値で売れそう」
「やっぱり新鮮な方が価値は高いのか」
「うん。鉱石系ならともかく、ナマモノや薬草系は劣化しやすいからね」
「確かにそうだな」
そして、まだ誰にも見せた事がない謎スキルと固有スキル、加護への話に変わる。
「やっぱり謎スキルは詳細すら分からないね。……うん? 動物愛好家の……加護!? ご主人様って加護持ちなの!?」
カエデはビックリした様子でずいっと俺に詰め寄ってくる。それも、先程より少し大きい声で。
「ちょ、カエデ、声が大きい!」
「あっ、ご、ごめん……」
幸いにも、こちらに顔を向けてくる客は居なかったので良かったものの……聞かれてたら面倒だった。
「もふもふや動物好きな所を気に入られて、神様から頂いた加護なんだ。効果は動物から好かれやすいってだけらしいけどな」
「そ、そうなんだ。加護……好かれやすい加護、かぁ……」
カエデは少し考える仕草をするも、ブンブンと首を振ってから再度俺のステータスに目を通していった。
今の仕草何だったんだろう? 可愛いから良いけど。
「うん? 固有スキル……トリマー?」
「転生前は動物の毛を綺麗に整えたりする仕事をしていてな、その仕事がトリマーって名前だったんだ」
トリマーとしても個人的な好みとしても、カエデの尻尾を櫛で毛繕いしてあげたい。何ならカットやら手入れもしてあげたい。
「そうなんだ。でも、聞いてる感じだとトリマーって冒険者や商人的な仕事の肩書きって感じだよね? それがスキルになってるって……何か変な感じだね。道具を呼び出せるってだけみたいだし、危険はなさそうだからちょっと試してみない?」
スキル発動したらどうなるかは何となく想像出来るが、固有スキルって事は唯一無二的なスキルな可能性がある。
それを見知らぬ他人が居る場所でお披露目は避けたい。
「試してみたいが、ここじゃあれだしな……一旦、食べ終わってから部屋で試そうか」
「そうだね、了解」
食事をいそいそと食べ終え、部屋へと戻ってきた。
「よし、試してみるぞ」
「うん」
「トリマー!」
スキルを使ってみたものの、何も起きなかった。
「あれ、発動しないな……」
「不発?」
もう一度、トリマーに鑑定をして説明文を読んでみる。
必要な道具を呼び出すって事は、トリマーに関する物で何が欲しいのか思い浮かべないといけないのか?
であれば、取り敢えず俺の愛用品達を思い浮かべてみようか。
「もう一度、トリマー!」
すると、俺が愛用しているトリマーの必需品である、各種シザー、爪切りとヤスリ、スリッカー、コーム、バリカンが一式、腰袋と共に俺に装備された。
それぞれの道具達を手に取ってみると、俺が使い込んで手に馴染ませた道具達で間違いなかった。同じ種類の新品ではなく、自分が長く使い込んだ相棒達だ。
「お、おおっ! これはまさしく、俺が愛用している道具一式だ!」
「これは……ハサミ?」
「あぁ、動物の毛をカットする為のハサミだな。このハサミ達はシザーって言うんだが、毛の硬さや長さ、どのように切るかによって使い分けるんだ」
「毛を切るだけなのに、これだけのハサミを使うんだね」
「まぁ、厳密に言えばシザー1本でも出来なくはないんだが、セニングシザーで切った毛を普通のシザーで真似するのはほぼ不可能に近いからな」
「せ、セニング……?」
言葉の意味が分からないようで、カエデは首を傾げる。
「あぁ、悪い悪い。セニングシザーってのは、髪の毛でいうスキバサミみたいなもんだ」
「スキバサミ……?」
またしても首を傾げてしまうカエデ。もしかして、髪を梳くという概念がないのか?
「要するに、髪の量を減らす切り方が出来るハサミって事だ」
「髪の量を減らすって……薄毛になっちゃうよ!?」
「実際はそうでもなくてな。髪の毛を梳くと、髪の毛が多くてモサっとした重い印象から一転、スッキリとして髪の毛がまとまって綺麗に見えるんだ。それは動物の毛でも一緒で、セニングシザーで毛のボリュームを調整してやると、もふもふでふわっとした触り心地に大変身も出来るんだぞ!」
「も、もふもふ、ふわっと……!」
カエデの目が輝いて見える気がする。
そう言えば、狼人って尻尾の綺麗さや美しさを誇りにしている作品もあったな。
カエデの反応を見るに当たりだろう。
「ね、ねぇ、ご主人様。私が商館に帰るまでに……お願いしても、いい?」
少し上目遣いで俺におねだりしてくるカエデ、可愛すぎて鼻血が吹き出しそうになるが我慢した。
「あ、あぁ。いいぞ」
「やった!」
小さくガッツポーズして喜ぶカエデも可愛い。
「そうと決まれば、張り切って買い物と依頼をしに出掛けよう!」
俺の手を引いて歩き出す。その姿はやる気に満ちて嬉しさオーラが満開だ。
これで、カエデにとって良い思い出になればいいなと思う。
誰かに、買われてしまったとしても、ずっと……。
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