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24話 奪還

「んっ……」


 何だか騒がしい気がして目が覚めた、なんだか胸騒ぎがする。

 俺は嫌な予感を感じ、武器を取ってテントから出るとカエデの姿が見えなかった。シェミィを見ると眠ったままだ。

 慌てて馬車の方を見ると、暗闇の中で人を担いで運ぼうとしている集団を見つけ、狼人族に変身して走り出した。

 よく見ると、カエデやメイラン、奴隷2人が連れて行かれそうになっていた。


「アイ……パラライズサイズ!」


 アイスショットを放とうとしたが、万が一カエデやメイラン達を盾にされたらマズイと思い、パラライズサイズを放つ。

 1人拘束に成功させた瞬間、向こうがこちらに気付いた。


「睡眠魔法掛けたのに何で起きてんだ!? おい! 俺達がコイツらを運び出すまで、そいつを妨害しておけ! なんなら殺しても構わん!」

「へい! ボス!」


 俺は睡眠魔法を掛けられていたのか、何故効かなかったんだろうか? シェミィが今も眠っているのも、この睡眠魔法が原因のようだ。

 盗賊らしき奴らが俺の前に数人で立ちはだかる。


「くっ……」


 盗賊達が襲いかかってくる。

 俺は杖からナイフへ切り替えて防御し斬りかかろうとしたが、一瞬躊躇ってしまい防がれた。その隙を狙われて相手のナイフに腕を斬られてしまった。


「ぐあっ!」


 俺は腕を押さえながらバックステップとアクセルブーストで距離を取った。血が流れてきて身体が震えてくる。


「くっ……ヒール」


 腕を回復させると、傷は塞がったようで血は流れなくなった。

 攻撃を躊躇ってしまったのは、やはり人を斬ることに躊躇いがあったからだ。

 ジルさんとの模擬戦や魔物相手ではそれ程恐怖に感じなかった『斬る』行為が、見知らぬ人相手になると段違いに恐怖を感じたのだ。

 相手を殺してしまいかねないと頭によぎったのが原因だ。

 カエデやみんなが攫われている、躊躇ってる暇は無いはずなのに……!


「くそっ……」


 どうする……? 気絶させるか……?

 スピードを活かして気絶させるにも相手は6人居る、全て躱しながら気絶させるなんて出来るのか?

 ブリザードを放つにしてもジルさん並の耐久力でもなければ殺してしまいかねない……そう思っていると。


「にゃー!!」


 シェミィが盗賊達に立ち向かって行った。睡眠魔法が解けるのが早かったみたいで、今さっき起きたようだ。やはり高位の魔物だったからだろうか?

 シェミィが突進し、盗賊3人を地面に叩き付けて気絶させた。


「なんなんだ、あのストームキャットは! こいつも睡眠魔法効いてた筈だろ!」


 盗賊が慌てはじめたのを見計らい、俺はその隙を見てアクセルブーストで近付き、峰打ちを3人に打ち込んだ後に全員の首裏を手刀を放って気絶させた。

 シェミィが相手を動揺させてくれなかったら上手くいかなかっただろう……シェミィのお陰だ。


 全員をパラライズサイズで木に縛り付けた、取り敢えずはこれでいい。


「ありがとうシェミィ、助かったよ」

「にぃ!」


 シェミィも嬉しそうな顔をするが、すぐに顔が険しくなりカエデ達が連れていかれた方向を見た。


「そうだな、カエデ達を助けなきゃな」


 まだ逃げて間も無い、急げばまだ間に合う筈だ。

 ただ、この場をそのままにしておく訳にはいかない。急いでガルムさんを起こさなければ。


 魔法を掛けられたであろうガルムさんの元に向かい、大きく揺らすが起きない。

 俺はミラさんとの特訓の時から預かっていた初級魔法書があったので、状態異常解除する魔法を探すとレジストというのがあった。

 俺が魔法書を頼りに魔法を放つと、レジストをスキルとして使えるようになった。

 ガルムさんもレジストのお陰で目が覚めたようだ。


「んっ……コウガさん? 一体何が?」

「すみません……盗賊が現れて、女性陣みんな連れ去られました。盗賊の一味を木に縛り付けてますので、ロープで更に縛って輸送させる準備を。俺はみんなを助けに向かいます」

「えっ!? あ、はい分かりました! コウガさん、貴方はまだここに来て間もないので知らないかもしれませんので言っておきます。盗賊は大罪人で討伐対象です。殺す事が殆どです。もちろん、捕まえて然るべき場所へ突き出すのも良いですが」

「……やっぱりそうでしたか」

「コウガさんには酷かもしれませんが……カエデさんを助ける為に、覚悟をお決め下さい」

「……!」


 俺は何としてでもカエデ達を助けねばならない。

 自分が死んで周りが悲しんだように、カエデが死んだりしたら俺は……きっと生きていられなくなる。



 覚悟を決めろ!



 俺はカエデの顔を脳裏に浮かべて、カエデの連れて行かれた方向を見る。


「……良い顔です、覚悟を決めたようですね」

「……はい!」

「コウガさん、御幸運を」


 俺は荷台から降りてシェミィを呼んだ。


「シェミィ、すまない……乗せてくれるか?」

「にゃ!」


 シェミィが伏せの体勢になってくれたので、乗せてくれるみたいだ。

 シェミィに乗り、盗賊達が逃げたであろう方向へと向かう。


「シェミィ、匂いって追えたりするか!?」

「にゃ!」


 シェミィは頷いた。


「頼む!」


 シェミィは匂いを追って更にスピードを上げて、逃げたであろう盗賊達を追う。


 暫く走った先には洞窟があった。入口には盗賊が2人座り込んでいる。


「……っ!」


 俺は身体強化を掛けて入口にいる盗賊達を斬った、初めて自分から故意で人を斬った。

 多分殺してはいない、たが結構深くまで斬った感覚はあった。

 恐怖が再度襲いかかってくる。しかし、今はカエデ達を助けなければ。その想いが俺の身体を動かしてくれる。

 斬って倒れた盗賊達をパラライズサイズで縛り上げて洞窟の奥へ向かう。


 奥へと進んでいると、遠目でみても目を背けたくなる嫌な光景が広がっていた。

 そこには捕まっている3人の姿があったのだが……服は両胸の間から綺麗に縦に切られており、胸が晒け出されている状態で1人の男がメイランの胸をまさぐっていた。

 2人はまだ眠っているようだが、メイランは必死に抵抗しつつも……目には大量の涙が溢れさせていた。


「い、嫌っ! 誰か! 誰かあぁぁぁぁぁ!」


 その声を聞いて、俺は久しぶりに怒りを覚えた。女性をあんな風にするなんて……。


 許せない!!


「メイラン!!」

「!? 何者dがあっ!? がはっ……」


 俺は、身体強化とアクセルブーストで超加速し、男の頭を横から思いっきり殴り付ける。

 男は地面に叩き付けられて気絶した。


「メイラン! 大丈夫か!?」

「こ……コウガ、様……」


 メイランは両目から大量の涙が溢れさせて、こちらを見ていた。

 俺は自分の替えの服を空間魔法から取り出して、胸を隠すようにかけてあげた。2人の奴隷達にも同じように。


「コウガ様、ありがとうございます……! カエデが……ここのボスに連れて行かれたの! 助けてあげて!」


 メイランはカエデが連れて行かれたであろう方角へ指を指す。

 そこには更に奥へと進む道があった。


「メイラン、カエデを助けたらすぐこっちに戻る! 手錠の鍵も見付けてやるから待っててくれ!」


 俺はメイランの指差した通路へと走り出した。


「王子様……来てくれたのね。カエデの言ってた事が、本当になりそうだわ……」


 メイランは助けてくれた王子様の事を頭に浮かべて、王子様から借りた服を静かに抱き締めた。


 通路を走っていると、奥に扉が見えてきた。

 既に怒りは沸騰してしまっており、俺は部屋の入口を蹴り飛ばしてぶっ壊した。


「カエデぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」

「!? ご主人様!!」

「ちぃ、アイツら仕留められなかったのか! おい! こいつを抑えろ!」


 盗賊が1人俺の前に立つが、シェミィが俺の後ろから飛び上がって抑え込む。


「くそっ、役立たずめ……!」


 ボスは投擲ナイフを取り出して俺に投げ付けた。

 俺はナイフで全て弾き敵に詰め寄ると、ボスがカエデの首にナイフを当てて俺を制止させた。


「これ以上近付いたらこいつの命はねぇぞ」

「ご主人様!」

「くっ……」


 俺は近付けずにいた、カエデを助けるにはどうすれば……。

 暫く睨み合いが続く。


「俺が逃げるまで動くんじゃねぇぞ、そこに居ろよ」


 ボスはゆっくりカエデを連れて移動していく、早く何とかしないとカエデが……と思っていた、その時。


「そうはさせない」

「「「!?」」」


 俺とカエデとボスは周りを見渡すが何も居ない、この声は一体……?


「リ……リリィ……?」


 カエデがリリィと呼んだ。すると、洞窟の俺のやってきた方向から光が入ってきた。その光が俺とボスの間に来ると光を変化させて、小さいフェアリーが現れた。


「久しぶりね、カエデ」

「リ、リリィ……生きてたんだ……よかった……」

「ごめんね、墓にいた時に実は見てたんだけど……姿を見せるかどうか悩んじゃってさ。でも、カエデも生きてて私、嬉しかったわ。ついさっきカエデが危険なのを察知して急いで来たの」


 まさかのフェアリーの登場に、俺は驚いて固まってしまっていた。ボスも俺と同様に固まってしまっていた。


「ち、近付くんじゃねぇ! こいつが死んでもいいのか!?」

「良い訳ないじゃない、カエデを攫うなんてどういうつもりよ? そんな事……私とあの子が許さないわよ。出てきなさい!」


 リリィが叫ぶと、大きな銀色の狼がボスの足元の影から現れてボスを爪で切り裂く。

 あの銀色の狼は……もしや、フェンリルか!? 影から出てきたぞ!?


「ぐあぁぁ!」


 ボスが吹き飛ばされ、壁に激突して意識を消失させた。

 その反動でカエデがボスの手から解放され、カエデが俺の元へ駆け寄ってきて抱き締めてきた。


「ご主人様あぁぁぁぁ! 怖かった……怖かったよぉ……」


 カエデが大粒の涙を流しながら力強く抱き締めてくる。


「ごめんな、遅くなって……もう大丈夫だから……」

「あの男に、髪を触られたの……上書きして……?」


 俺はカエデを抱き締め返し、髪を優しく撫でてあげた。


 ボスを捕らえる為にカエデと一旦離れてから、俺は倒れているボスに近付き、パラライズサイズを放って縛り上げた。


「リリィ……フィル……」


 カエデが先程の妖精と狼に近付いていった。

 妖精はカエデの右頬に手を置いて撫でる、狼はカエデの左頬を舐める。


「無事でよかったわ」

「ありがとうリリィ、フィル。でも、あなた達はどうしてここに……? お父さんが亡くなってから、どうしてたの?」

「カエデが危ないって察知してここまで来たのよ。カエデの父親、マスターが亡くなってからは、ずっとフィルと一緒にこの森と村の跡地を行き来しながら暮らしてたの。あの墓に私達のマスターが眠ってるからね……テイムから解除されても、マスターはマスターだから、1人にはしたくなかった」

「そっか……」

「カエデ、ごめん。あなたの両親を、あのドラゴンから守りきれなかった……」


 リリィが俯き、悔しさを噛み締めた。


「ううん。家族の為に精一杯やってくれたって、見てなくても分かってるから……」

「ありがとう、そう言ってくれると有難いわ……カエデは良い人を見付けたみたいね」

「……うん! 私の素敵なご主人様なの! 奴隷なのに、ちゃんと1人の人として接してくれる優しい人だよ!」

「遠目から見てたから知ってるわよ。カエデを酷い目に合わせる主人ならぶん殴ってた所だけどね、ねぇアンタ」

「あっ、はい」


 話し掛けられるとは思わず固くなってしまった。


「カエデの事、頼んだわよ? カエデが信頼してる貴方だから、私も信じるわ。この子寂しがり屋だから……しっかり構ってあげなさい」

「分かりました!」

「も……もう! リリィ!」


 カエデが顔を赤くして怒る、リリィが笑う隣でフィルと呼ばれるフェンリルも優しい顔になっていた。


 再会を喜んでいる内にボスが目を覚ましたようだが、縛られているのに気付いたみたいだ。


「……何故俺を殺さない?」

「聞きたい事があるからな。黒幕は誰で、何のためにみんなを攫ったんだ?」


 その問いに、ボスは躊躇いもなく答える。


「フードの男に雇われて攫うように言われたからだ。ストームキャットを奪われて俺達を追ってくるって言われてな、この狼女はそのフードの男に引き渡す予定だった」


 フードの男……黒幕はそいつか。


「そいつは今、何処にいる?」

「さぁな。アイツは遠くにいてもこちらの状況を把握する事が出来るらしい。俺達が失敗したのにも気付いているだろうから、引き取りに来るって事は無いだろうぜ」


 遠くにいても状況を把握出来るって、どのような方法でだろう? 万が一に俺達の動きが見られる何かがあるのであれば、慎重に動かねばならないかもしれない。


「そうか、ならもう話は終わりだ。最後に、全員を解放する鍵はどこだ?」

「そこの机の中だ」


 ボスは直ぐ側にあった机を顎で指す。


「……案外素直に喋るんだな」

「俺達は雇われただけで、フードの男に慕ってる訳じゃねぇ。仕事は失敗した以上、フードの男だろうがお前達だろうが、どちらに転ぼうとどうせ殺される。隠す必要がないだけだ」

「なるほどな」


 机の引き出しを確認すると鍵を見つけたのでカエデの手錠を外した。

 シェミィの背中の上にボスを乗せ、メイランや奴隷2人を身体の大きいフェンリルが背負ってくれたので、馬車のある所まで運部のを手伝ってもらった。

 メイランはフェンリルを見てびっくりしていたようだが、カエデが説明してくれたのですぐに受け入れてくれた。

 奴隷2人はまだ眠っている。魔法がなかなか解けないようだが、眠って貰ってる方が楽なので眠らせておく。


 盗賊11名。全員魔法で縛り上げて更にロープで木に括り付けて放置だ、もちろん監視付きで。


「コイツらの監視と周りの警戒は私とフィルがやるから、あなた達は寝なさい。疲れたでしょ?」

「良いんですか? 確かに疲れてますけど……」

「いいのよ。妖精はそれ程睡眠取らなくても大丈夫だからね、魔物なら全てフィルがやってくれるわ」

「ありがとうございます。ではお言葉に甘えて……おやすみなさい」

「ええ、おやすみ」


 俺達はテントに戻ろうとするとメイランが荷台より出てきた。


「ねぇ……コウガ様、カエデ、ちょっと良いかしら?」

「メイランちゃん? どうしたの?」

「あの、その……私を買ってくれたり……しないかしら?」

「「えっ!?」」


 俺とカエデはお互い顔を見合わせてしまった。


「私……コウガ様に助けられた時、王子様が来てくれたって思ったのよ。カエデには話したのだけれど、私は王子様のように運命だと感じた人にもらわれたいって思っていてね。カエデからコウガ様を勧められた時は断ったのだけれど、今回の件で考えが変わったのよ。王子様だと思えたコウガ様と共に、人生を歩みたいと」


 メイランは俺に助けられた事によって、好意を寄せてくれているようだ。

 てかカエデに勧められたって、なんて話をしてるんだ!?


「か、カエデ……そんな話をしてたのか」

「えへへ、だってご主人様は良い人だからね。奴隷を1人の人として接してくれるし、優しいし……文句なしだからね!」


 カエデがそこまで俺を推してくれてたんだな、嬉しい限りだ。


「……メイラン、良いのか? 俺達の旅は、カエデの村を破壊した奴らへの仕返しと、俺がもふもふ好きだから獣人やもふもふに出会う旅、この2つに付き合って貰うことになるぞ?」

「コウガ様はもふもふが好きなのね。私はドラゴン族だからもふもふではないけれど、私の意志は固いわよ。コウガ様について行きます」

「……そうか、分かった。この依頼が終わったらガルムさんに掛け合ってみるよ」

「ありがとうコウガ様!」


 俺はメイランに正面から抱き締められた、カエデがあんぐりな口をした。


「あっ! ずるい私も!!」


 カエデも背中に抱き着いてきた、両方から柔らかい物が身体に当たる。

 気持ちはいいが動きにくい……もっとお願いします!


 満足したメイランは荷台へ戻り、俺達もテントに入ると、俺とカエデが寝袋状態でくっ付いて寝る事になり、カエデの匂いと傍にいる安心感を感じながら眠りについた。

 後に聞いた話、メイランは胸をまさぐられ気持ち悪い気分ではあったが、ずっと俺の服を抱き締めて気持ち悪さを幸せで上書きしながら寝ていたんだそうだ。

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