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21話 直属冒険者の旅立ち

「なるほど。召喚されたとかではなく、死んじまった後に神様に連れてこられたと。にしても空上から投げ出されるとは! 神様もイタズラ好きだな!」


 転生した時の状況を話していたのだが、ギルマスに笑われてしまった。


「笑い事じゃないですよ! 落下で死ぬ事はないように魔法はかかってたみたいですけど、カエデが居なかったら大怪我してましたよ、あれは……」


 落下中の事を思い出しブルッと身体が震える。


「近くに居合わせて良かったよ……助けに向かってる時、間に合わなかったらどうしようかと思ったもん」

「ほんと、カエデとガルムさんには感謝だな」


 ガルムさんにも旅へ出る前に挨拶しなくちゃな、めちゃくちゃお世話になったし。


「ガルム? ガルムっていやぁ、インカース奴隷商館の?」

「はい、そうです」

「そうか、アイツと顔見知りだったんだな。そういやアイツ、今日護衛依頼出してたぞ? 隣街のサンビークまでだが」

「ほんとですか?」

「あぁ、感謝してるなら旅ついでに受けてやったらどうだ?」


 サンビークはここから東方面にあるといい、向かいたい方角と合致する。金銭的な余裕もない今の俺達には丁度いいかもしれないな。

 護衛依頼を受けるとすれば護衛対象はガルムさんと奴隷達になるんだろうか? カエデの知り合いがいれば楽しい旅になりそうだし、旅の初出にはもってこいかも。


「そうですね、なら今から……」

「まてまて、まだ話は終わってねぇぞ」


 ギルマスが俺の肩を両手で抑え、座らせてきた。

 話の流れでそのまま退散出来たら良かったんだけどな……さすがに逃がしてはくれなかった。


「コウガ、お前の変身には制限とかあるのか?」

「制限?」

「あぁ、誰にでも変身出来るのか? それとも限られた誰かにしか出来ないのか? 他にもカエデのスキルを使えるのは変身時だけか? スキルは全部使えるのか、それとも一部だけか? 他にも聞きたい事は沢山ある。場合によっちゃあ、厄介な奴らに狙われるかもしれねぇからな」

「厄介な奴らに、狙われる……?」

「お前の変身スキルの似たような物ならあるが、変身した相手のスキルまで使えるようになる変身なんぞ、見た事も聞いた事もない。こんなのが世に知られたら……戦い好きな国や研究者に狙われる可能性がある、それは避けなきゃならん」


 カエデも言っていたが、俺の変身はユニークスキルである可能性が高く、かなり強力なものらしい。

 厄介事に巻き込まれる可能性も確かに考えていたが、ギルマスがここまで細かく聞いてくるあたり、本当に厄介な事に巻き込まれかねない強力なスキルなのだと感じさせられる。

 これは正直に話しておくべきか……? こうして聞いてくるって事は、対策も考えてくれているかもしれないしな。


「……分かりました、お話します。この変身スキルは、俺以外には使えないものであり、対象に取れるのも今の所はカエデだけです」

「何故そう言い切れる?」

「それを話すなら、まずは変身を手に入れた経緯からですかね。変身を習得する前まで、このスキルは『?』という名前の分からないスキルだったんです」

「は? 名前の分からないスキルだと?」


 ギルマスはかなり驚いたような顔をしてこちらを見た。

 ギルドカードを作る際も受付嬢が初めて見たって話していたし、名前の分からないスキルなんて今までに存在した事無かったのだろうと予想していた。


「はい。最初こそよく分からないスキルは使わない方がいいと思って使っていませんでした。ですが、カエデとの絆が深まる事によって加護を授かった際、その加護の獲得と同時に?スキルが変身へと生まれ変わったんです」

「まてまてまて、加護を授かっただと!? しかもスキルがそれによって変化しただぁ!? 意味が分かんねぇ……」


 頭を抱えて混乱するギルマスを他所に、対面に座っていたミラさんが手を挙げた。


「えっと……コウガくん、その?スキルはいつ習得したの?」

「えっと確か……一昨日、カエデと手を繋いで冒険者ギルドへ向かおうとした時ですね」

「え、手を繋いで歩いただけ?」

「はい」

「どういう事……? 手を繋ぐなんてありふれた行為だし、そんな事で習得出来るならほぼ全ての人が習得しているはず……って事は、流れ者が持つというユニークスキルって事なのかしら……?」

「俺以外の流れ者にこのようなスキル持ちがいなかったのだとすれば、ユニークスキルだと仮定した方がいいかもしれませんね」


 そう仮定すると俺はユニークスキルを2つ持っている事になるが……そこまで言う必要はないよな。

 トリマーは世界に何か影響を及ぼすようなスキルではないし、ユニークスキルが2つあると思われる方が問題になるだろう。


「私達が知らないだけで隠し持っている可能性も否定は出来ないけどね……それで、変身の対象がカエデちゃんだけなのは、その手に入れたっていう加護が関係しているの?」

「そうですね、変身対象に関する加護を授かっている必要があります。なので、加護がない限り使う事も出来ないスキルになりますね」

「なるほど……誰にでも変身出来る訳じゃないってのが救いかしらね。加護持ちなんて極わずかしかいないのに、手を繋いだだけで加護を授かるだなんて未だに信じられないけど」

「ですよね……多分、流れ者だからって所でしょうけど」


 まぁでも、動物愛好家の加護でカエデとの仲が急激に深まったからって可能性もあるんだよな。

 その加護も、言ってしまえば神様からの贈り物って事になるのだが……神様が何処まで関与しているかはもう分かりえない事だし、考えるだけ無駄な気がする。


「スキルに関してはテイムは試してませんが、それ以外なら変身時のみ使えるのは確認済みで変身を解けばカエデのスキルは使えなくなります。?スキルが知られていない事や加護ありきで使えるようになるスキルですし、俺以外には使えないものだと思います」

「お前以外には使えない。その変身対象も限定的って分かっただけマシだな……うぅむ」


 ギルマスは顎を手で支えながら目を閉じて暫く考え込むが、何か決断したようで「よし」と呟きながら目を開いた。


「なぁコウガ」

「はい、何でしょう?」

「お前、トライデント王国直属の冒険者にならねぇか?」

「王国直属の、冒険者?」


 冒険者というのは、何処かに属するというよりは各地を回って活躍しているイメージだ。

 直属ってことは、トライデント王国に身柄を置く冒険者として、その地域密着で活動するようなイメージでいいんだろうか?


「あぁ。直属認定すると、お前のギルドカードに王国印が押されるんだ。その王国印があれば、他国がお前に手を出そうとしてもトライデント王国の後ろ盾があるって事の証明になり、手を出されにくくなる訳だ」

「なるほど……それは有難いんですが、直属になった際の制約とかあるんですか? 王国周辺地域に縛られたりとか、指名依頼とかで連れ戻されたりとか……」

「特に制約はねぇよ。まぁ、過去には緊急で王国に戻って来てもらったりって事があったらしいが、お前達には迷惑掛けないよう善処するさ。それに、他にも利点があるんだ」

「利点?」

「あぁ。ギルドカードに押される王国印には術式を組み込んでいるんだが、それには連絡機能が備わっているんだ」

「連絡機能……なるほど、それで離れていても王国に戻ってくるよう連絡が取れるって訳ですか」

「そうだ。本来の使い方はまさしくそれなんだが、お前に渡す目的はそれじゃない。その連絡機能を活用すれば離れていても近況報告が出来る上に、他国との絡みで何かあっても俺がいつでも介入して守ってやれるからな。勿論、お前達の旅を妨げる事はしないと約束しよう」

「……」


 俺達からすれば、ほぼほぼデメリットのない最高な条件なのだが……ギルマスがそこまでする理由はないよな。


「そこまでして、ギルマスに何かメリットはあるんですか?」

「まぁ……正直言うと、メリットはない。だが、お前の能力が悪用されるのを防ぎたいんだ」

「悪用されるって……さっき言っていた、戦い好きな国や研究者に、ですか?」

「そうだ」

「それってどういう?」


 どういう事か分からず首を傾げると、それを見たギルマスは両肘を付いて語り始めた。


「とある国では、非人道的な実験が行われていると聞く」

「非人道的な、実験?」

「あぁ。人から人へスキルを移し替える実験や、自分と同じ能力を持ったクローンを生み出す実験をしている組織がある。そこでは生きた人間で実験が行われ、沢山の人間が犠牲になっているんだとか」

「そんな実験が……?」


 日本でも人体を使って効果を試す治験ってやつもあるが、聞いてる限りだとそんな生温いものじゃなさそうだよな。

 動物実験でやっている事を人間にしている……そんな感じなのだろう。

 強力なスキル等であれば絶やさないように引き継ぎたいという考え自体は、まぁ理解出来なくもないが……そのやり方には全くもって賛同出来ない。

 人間のクローンも論理的にアウトだしな。


「そんな事するような奴らは、俺の知る限りだとここから少し離れた場所にある帝国より更に向こうにある国や組織だ。そこまで行かなきゃ問題はねぇとは思うが……まぁ、念の為だ」


 俺達の旅は、カエデの言うドラゴンの討伐とフードの人の捜索だ。

 何処へ行ったかも分からない以上、もしかしたらギルマスの言う国のある場所へも行く可能性はある。

 ギルマスがここまで言ってくれてるんだし、ここは有難く受け取る方がいいかもな。

 

「……分かりました。直属の冒険者になろうと思います」

「よし、なら登録させてもらうぞ」


 俺とカエデのギルドカードをギルマスに手渡すと、登録をしに部屋から出ていった。

 待っている最中、対面に座って話を聞いていたミラさんが口を開いた。


「そうだ。コウガくん、カエデちゃん。これ受け取ってくれる?」


 ミラさんがアイテム袋からアンクレット的な装備を出して手渡してきた。


「ブレスレット……いやアンクレット? しかも2つで1つになるような柄に見えますけど」


 銀素材で出来ていて、片翼がデザインされていて綺麗だ。

 2つを合わせると湾曲がピッタリ合わさるようになっていて、片翼同士がくっつくと翼を広げた様なデザインになるペア物だった。


「えぇ。これの効果が2人にピッタリでね、装備したペア同士が近くにいるとステータスUPや耐性UPしてくれる装備よ」

「おお、良いですね! 貰って良いんですか?」

「もちろん! お守りとして持っといてもらえると嬉しいわ」

「「ありがとうございます!」」


『銀片翼のアンクレット(素早さ小UP、対となっているこの装備を2人が着けて近くに居ると状態異常耐性小UP)』

 早速2人で装備してみる。


「ご主人様! どう? 似合ってる?」

「あぁ、翼のイメージとも合っていて似合ってるぞ!」


 カエデは狼人だから、風のように走る姿が翼と良く合うんだよな。

 俺も変身で狼人になれば今よりも似合うかもしれないな。


 そうこうしてる内にギルマスが帰ってきた。


「これで登録完了だ。連絡のとり方は、この王国印に指を当てて魔力を流すと俺に繋がる。連絡がかかってくると相手の流した魔力が知らせてくれるから、すぐ分かる筈だ」

「分かりました、ありがとうございます」


 これがあれば、何か困った事があればギルマスに相談出来る訳だ。

 ギルマスの情報に助けられる可能性もあるからな、有難い。


「これで少しはお前を守ってやれるが、あまり変な事に首を突っ込むんじゃねぇぞ?」

「分かってますよ。助かります」


 ギルマスから念を押されて話は終了し、執務室から出た。

 ミラさんとジルさんはやる事があるそうで、ここでお別れとなる。


「2人共、大変な旅になるだろうけど頑張ってね!」

「これからの鍛錬次第で何処までも強くなれるだろう、鍛錬を怠るなよ?」

「はい! ありがとうございます!」


 2人から激励を貰い、手を振って別れる。


 その後、クエスト板を見に行くと、ギルマスの言っていたガルムさんの依頼があったので受注することに。


「さて、ガルムさんの所に行くか」

「うん!」


 奴隷商館へ向かうと、玄関近くに馬車が用意されていた。

 商館の中へ入って依頼を受注した事を伝えると、待合室に通されてソファーに座る。

 暫くするとドアがノックされ、カエデの耳がピンと立ち期待した目でドアの方へ振り向く。


「失礼します」


 その声に聞き覚えがあった、ドアが開かれるとそこにはドラゴンの尻尾と角が特徴的だったメイランの姿があった。


「あ、メイランちゃん!」

「あら、カエデじゃない」


 カエデがソファーから立ち上がり手を振る。

 尻尾がブンブン振られて俺の顔にファサファサと当たる、ここは天国か?

 メイランがお茶を並べ終わると同時に、カエデがメイランを抱き着きに行った。


「メイランちゃん! 元気にしてた?」

「えぇ、勿論よ。カエデも元気そうで何よりだわ」


 カエデがメイランに抱き着いてるのを見て興味が湧いたのか、シェミィがメイランに近付く。


「にぃー」

「ストームキャット、貴方が噂のシェミィね? カエデがテイムしたっていう」

「にゃう!」


 シェミィが返事するとメイランに近付きスンスンと鼻を鳴らす、カエデが親しくしているので気になったのだろう。


「シェミィの事、もう知ってるの?」

「えぇ、ガルム様の情報網は優秀だからね。私に興味あるみたいね、撫でていいかしら?」

「うん、シェミィが嫌がらなければいいよ!」


 メイランがシェミィの顎の下を優しく撫でるとシェミィが気持ちよさそうな顔をした。


「にゃ〜ん」


 シェミィは御満悦のようだ。


 和気あいあいとしてる所を見ていると、ガルムさんが部屋に入ってきた。


「お待たせしました。っておや、コウガさんではありませんか。護衛を引き受けてくれたのはあなたでしたか」

「はい、そうです。ガルムさん、この前はお世話になりました」

「いえいえ。2人共ご活躍されているようで安心しました、2人の活躍は小耳に挟んでますよ」


 ガルムさんがシェミィを見る、シェミィはカエデとメイランの2人に全身を撫でられて気持ちよさそうにしていた。


「この従魔が噂のストームキャット……確か、シェミィって名前でしたか。カエデさんがテイムしたのですよね?」

「はい。かなり知性が高いようで、即忠順テイム出来たんですよ」

「ほう、元々ストームキャットは知性が高いと聞きますが、忠順テイムを即行えるほどとは……余程、カエデさんに惹かれたのでしょうな」

「かもしれませんね」


 その辺は色々と事情があったんだが、まぁ言わなくていいよな。


「では、改めて依頼内容の確認を致しましょう。目的地はテラー大森林の先、隣町サンビークにあるインカース奴隷商館支店です。護衛対象は私達だけではなく、奴隷3人と積荷を乗せていますのでよろしくお願い致します。馬車は使用人が操るので、皆さんは魔物退治と護衛に集中して頂ければと」

「分かりました」


 商館から出て馬車の中身を確認。護衛対象の奴隷3人を見ると、見知らぬ奴隷2人しか居なかった。


「あれ? ガルムさん、3人と聞いてましたが、もう1人は?」

「すぐ来ますよ」


 すぐ来るって事で少し待っていると、先程までお茶を準備してくれていたメイランが荷物を持って商館の中から出てきた。


「お待たせしました」

「これで揃いましたね」


 あと一人はメイランさんだったか、これで揃ったな。


「メイランちゃんだ! 依頼中、一緒に居られるね!」

「そうね、楽しみだわ」


 他の奴隷達にも挨拶に行き、皆でワイワイと話していた。

 これなら旅中も心配要らないだろうな。


「さぁ、行きましょうか。コウガさん、カエデさん、シェミィさん、よろしくお願いしますね」

「はい、任せてください!」


 俺達は馬車の横に並んで歩く。



 転生してきて5日。

 俺は、この世界で初めての旅に出る。

 1つはカエデの為、1つはシェミィの為、1つは自分の為。

 色んなもふもふ達と出会えたらいいな。

ご覧頂きありがとうございます。


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