20話 旅支度
明るい日差しが窓から入り込み、その日差しで俺は目を覚ました。
カエデとシェミィは既に起きていたようで、シェミィは陽の当たる場所でゴロゴロ、カエデは自分の荷物をアイテム袋へ詰めている所だった。
「あ、おはようご主人様!」
「おはよう」
お互い挨拶を済まし、着替えて朝食を取ってから部屋の片付けを行う。
今日から旅に出るからな、引き払う部屋はなるべく綺麗にしなくちゃな。
掃除をして忘れ物がないか確認。
最後に部屋の鍵を宿主に返し、5日間のお礼を述べてから宿を出た。
「さて、まずは旅の道具を買いに行くか」
「了解! 旅道具専門店が確かギルドの隣にあったはずだよ!」
「分かった、それじゃいこうか!」
俺達は旅道具専門店に向かって歩きだしたのだが、周りからかなりの注目を浴びている。
「おい、あれストームキャットだぞ」
「スカルがボコボコにされたっていうあれか!?」
「あんな魔物をテイムしたってのか……」
「可愛い……」
「撫でたいなぁ……」
「あの2人、ギルマスのお気に入りらしいぞ?」
「あの男、人族の姿してるが本当は狼人族らしいぞ」
「は? そんな訳ないだろ」
「いや、アイツに狼人耳が生えたってダチから聞いたんだよ!」
「どう見たって普通の人族じゃねぇか、変身でもしたってか? 冗談も程々にしろよ」
「いや、本当だって!」
通り過ぎる度に何かしらの反応が聞こえてくる。
言いたい放題な上に俺の変身の噂まで流れているな。宿の裏庭でも変身していたし見られていても不思議ではないが、これだけの騒ぎになるのなら人前での変身は控えたほうが良さそうか……?
「やっぱり噂になってるね、変身だったりシェミィだったり」
カエデは俺にだけ聞こえるくらいの小さめの声で言った。
「まさかこれ程に噂になるとは……シェミィはもう隠せないから仕方ないとして、俺の変身はあまり人に見せるべきじゃないかもしれないな」
「うーん……だけど、あんなに強い能力なんだし、人目を気にしてずっと使わないってのも勿体ない気がするんだよね」
「そうなんだよなぁ……でも、次の街でも噂になったりするのは正直避けたいし、どうするべきか……」
「それかいっそ、噂は本当ですって明言してユニークスキル持ちとして堂々とするのも手かも?」
「噂にビクビクするくらいなら、隠さずに堂々とした方が確かに精神的にはマシか……面倒事にならなきゃいいが」
「その時はその時だよ。噂は噂で他の面倒事になるケースもあるだろうし、どのみち一緒だと思う」
「まぁ、それもそうか」
折角の能力なんだし、使ってなんぼだよな。
いざって時に周りを気にして能力が使えないとなったら、この世界だと死にかねないしな。
必要な時には気にせず使う、だけど不必要な時はわきまえる。これでいいか。
そんなこんな話している内に、目的地である旅道具専門店へと到着。
店に入り、テントや照明魔道具、サバイバル用ナイフ的な物や調理道具の様な旅の必須道具を買い揃えていく。
「最低限揃えるならこんなもんか? カエデ、確認頼む」
「はーい! んーと……うん、これで最低限揃ってるね」
「ありがとう。そんじゃこれらを買ってから挨拶周りに行くか」
「うん!」
ギルドには昨日も挨拶したけど、一応顔を出しておこう。
もしかしたらジルさんとミラさんもいるかもしれないしな。
ギルドに顔を出すと、レイアさんがこちらに気付いたようで駆け寄ってくる。
「おはようございます、コウガさん、カエデさん。確か今日から旅に出られるんですよね?」
「はい、一言挨拶をと思いまして」
「わざわざありがとうございます。ギルマスは今面談中でして……待ちますか?」
「いえ、ギルマスには昨日挨拶してありますから大丈夫です。ジルさんとミラさんは今日来てますか?」
「あぁ、ちょうど今その2人がギルマスと話をしている所ですね」
「もしかしてスカルさんの件ですか」
「お察しのようで、その通りです。もうそろそろ話し終わると思いますが……」
やっぱり、思った通りだ。
最近の出来事であの2人がギルマスと話す事と言えばアイツの件だろうからな。
もう少しで終わるなら少しだけ待つとしよう。
ーーーミラリアsideーーー
スカルの件について話があると言われ、私とジルはギルマスに呼ばれて執務室に居た。
予定通りアイツは昨日から騎士団に放り込まれ、徹底的にシゴかれているんだという。
これで腐った性根が叩き直ればいいけれど……どうなるかしらね。
私達も連帯責任としてランクがDになってしまったけれど……それ以上のお咎めはなかった。
アイツを再度パーティに入れるにしろ入れないにしろ、ちゃんと実績を積んで信頼を取り戻せられればBに戻してもらえるみたいだし、また1から這い上がる気持ちで頑張りましょうか。
そういえば、今日からコウガくん達は旅に出るんだったわね。
あの変身能力……今までに見たことのない能力を持っている上に、魔法使いとしても物凄いセンスを持っている。
ギルマスの目には、コウガくんはどう映っているのかしら?
「ねぇギルマス! コウガくんのことでちょっと話があるのだけれど、いいかしら?」
「ん? あぁ、アイツか。何かあったのか?」
「コウガくんって、ギルマスから見てどう思う?」
まずは何も聞いていない状態で印象を聞いてみる。
「……まぁ、1番印象深いのが、あの変身だな。俺ですらあんな能力を見たことがねぇ……ちょっと異質に感じてるくらいだ」
確かに私たちの常識から外れてるわね……姿を変えたり、姿を少し消すくらいの魔法なら確かに存在してるけども、能力までコピーするなんて聞いたことがない。
「あれは確かに異質ね。私って魔法使いの中では割と知識ある方だと自負はしてるけど……それでも見た事がないわ。しかもカエデちゃんが持っているスキルまで使っていた、私からすれば有り得ない」
「他人のスキルを使えるなんて、こんなの世間に知られたらまずい事になりそうだよな」
「そうね、武力主義な国とか研究者は黙ってはないでしょうね……あの変身って誰に対してでも使えるのかしら?」
「さぁな……アイツは今日から旅に出るって言っていたが、まだ出ていないのであればその辺もしっかり話を聞いておくべきかもしれん」
「そうね。早速探しに……」
と言いかけた瞬間、ドアからノックが聞こえてきた。
中に入ってきたのは受付嬢であるレイアさんで、コウガくんがギルドへ挨拶回りに来たとの報告だった。
ギルマスは握りこぶしを作って小さく「よし!」と呟き、ここに連れてきてくれとレイアさんに伝達した。
「ラッキーだ、探す手間が省けたぜ」
「そうね! あと、私が気になるのは他にもあって……」
「まだあるのか……なんだ?」
「コウガくんの魔法方面でもヤバいことが分かって……」
「ヤバい? 確かに無詠唱で魔法を使っていたような気もするが、それだけでヤバいって言うほどでは……いや、お前がそういうってことは、まさか全属性か!?」
ぎょっとした眼差しでこちらを見るギルマス。
さすが、察しが良いわね。
「えぇ、その通り全属性持ちよ。氷以外の属性は全て初級魔法止まりなのがまだ幸いかしら?」
「マジかよ……アイツ、一体何者なんだ?」
「……多分だけど、コウガくんって流れ者じゃないかしら? 特殊な能力、ユニークスキルを持ってこちらに来た……これしか考えられない」
ちょっと教えるだけで即座に身に着けた魔力操作も、最初は全然ダメで基本すらなっていなかったこと。そして強力なスキルを持っているにも関わらず、戦い方の初々しさが目立ったことが気になっていた。
更に言えば、力を持っているにしては知識が全然追いついていない割に、奴隷上がりや孤児上がりのような良い育ちをしてこなかったような気配は感じられず、普通に問題なく育ってきたかのような立ち振舞をしている。
それらを結びつけて考えた結果、流れ者として力を持ってこちらの世界にやってきた。そう結論付けた。
「やっぱりか……まぁ流れ者は昔からちょこちょこ居るからな、流れ者だからと珍しがられて捕まえられるとかはねぇだろうが……」
ギルマスが話している最中、コンコンとノックの音と失礼しますとの声が聞こえてきた。
「後は本人の口から聞きましょうか」
「そうだな」
ドアを開けば、そこにはコウガくんとカエデちゃん、ストームキャットのシェミィちゃんが立っていた。
さぁ、色々吐いてもらおうじゃないの。
君は一体、何者なの?
ーーーーーーー
ギルド内でギルマスやミラさん達を待っていると、レイアさんよりギルマスが呼んでいると聞き、執務室へと案内された。
「失礼します」
ノックをしてひと声掛けてから部屋に入ると、そこにはギルマスだけじゃなくジルさんとミラさんも一緒だった。
「おぅ、来たな。まぁ座れよ」
ギルマスは自分が座っている長椅子の隣をトントンと叩く。
その場所には1人分座れそうな空きがあるから、そこに座れってことだろう……何か嫌な予感がするものの断るわけにもいかず、仕方なくそこへ座ることに。
カエデはその長椅子の背後で立っている事になり、シェミィは体格が大きいので入口近くの空いている場所に座っていてもらうことにした。
「さて、コウガ。お前に聞きたいことがある」
ギルマスに肩を組まれ、逃さないぞと言わんばかりに詰め寄られる。
「えっと……何でしょう?」
「お前、流れ者か?」
「えっ?」
流れ者、要するに転生や転移してきた者を指す言葉だ。
俺がこの世界に来た際、偶然出会ったカエデや奴隷商のガルムさんにはボロを出してバレてしまったが、ギルマスに対してはバレてしまうような言動は言っていないはずだ。
前世と関わりのあるスキルであるトリマーだって披露していないし、冒険者登録の際も加護や固有スキルは表示されていなかったから、情報でギルド側に知られることもないはず。
ならなぜ、俺が流れ者だと?
もしや……変身か?
「……」
黙ってしまっては流れ者であると言っているようなものだが、どう返事すればいいかすら思い浮かばず、口が開かなかった。
その様子を見たギルマスは、俺の肩を2回トントンと叩いてから肩を組んだ状態から離れた。
「やっぱりそうだったか。まぁ、コウガが流れ者だったからって何もしねぇよ。なぁ、ミラ?」
「ええ、安心していいわよ。こうしてここに呼んだのも、コウガくんの持っている魔法やスキルについて少し聞きたいことがあるのと、忠告しておきたいことがあったからなの」
「魔法やスキル……もしかして、変身のことですか?」
「そう。そのスキルって言わば、相手の能力全てを扱えるようになるスキルと言っても過言じゃないわ。そんな強力なスキルなんて……見たことがないの。きっと特殊な能力……要するに、流れ者が持っていることの多いと言われてるユニークスキルなんじゃないかって思ったの。魔法も全属性持っているとなれば、ほぼ確定じゃないかって話になったのよ」
「なるほど……そういうことでしたか」
流石にここまで言われてしまうとごまかしようがないな……これはもう正直に話すしかない、か。
俺は流れ者だと自白し、この世界に来た経緯や自分の持つ能力を洗いざらい話すことにしたのだった。
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