2話 初めての獣人
異空間から新しい世界へと飛び出したんだが、今何処にいると思う?
俺の目の前には、小さくだが木々と地面が見えている。木々と地面が見えると言っても……上空からだが。
そう……俺は今、空から地面へと一直線に落下しているのだった。
「嘘だろおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!?」
あまりの恐怖にギュッと目を瞑る。
といっても、身体に風圧はほとんど感じない。レアさんの計らいかどうかはわからないが、魔法の膜?的な物に包まれているのが微かに見えた気がするし、落下スピードも若干遅い感じがした。
怖い気持ちを抑えて恐る恐る下を見てみると、どうやら森の中にあるちょっとした広場へ落ちようとしている。
魔法?的なもので包まれているから死ぬことはないのかもしれないが……それでも怖いものは怖い。
落ちた時の事を想像すると、再度恐怖が襲ってきて叫んだ。
「た、助けてくれぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!」
恐怖で目を閉じながら大きく叫んだ俺の声が遠くまで木霊する。
地面に落下までもう少しだった所で……。
ガシッッ!
何かに抱きかかえられるような感覚がした。
地面に着地したのか強めの衝撃を受けるが、特に痛み等はなかった。代わりに何やら柔らかさを感じている。
「いっったったぁ……だ、大丈夫ですか!? 意識ありますか!?」
その声を聞いてゆっくりと目を開けると、目の前に女の子の顔が映る。俺はこの子に抱きかかえられている状態のようだ。
俺が目を開いたのに気付いた女の子は、安心したのか胸に手を置いて「はーっ」っと息を吐きだした。
「よかった……無事みたいですね」
そう言ってニコっと笑みを浮かべてくれたのだが、よく見ると頭の上にピコピコと動く三角のお山が2つあった。
「あ、あの……ずっと見つめて、どうかしましたか?」
「ふさふさな耳だ……これが、夢に見たケモミミ……」
「えっ? ゆ、夢に見た? この耳を見るのは初めてですか?」
きょとんとした顔で、頭にある耳を触りながらこちらを見つめてくる女の子。
「あっ」
しまった、異世界で獣人なんて珍しくないはずだ(ド偏見)。奇想天外な事ばかり起きてすぐだった為に、考え無しで素直に答えてしまった。
「いや、その、えっと……あっ、すみません! 重いですよね、すぐ退きます!」
誤魔化すようにガバっと飛び起き、少し体を動かしてみる。特に痛みもなく身体は大丈夫そうだ。
「助けていただいてありがとうございます、助かりました」
「あぁいえ、気にしないでください。それよりも、どうして空から降ってきたんですか?」
「それは、その……」
どうしよう、これどうやって誤魔化そうか? 転生しました! って堂々と言っていいんだろうか? この世界での転生者の扱いが分からないから答えられない。
どうしようかと考えていると、彼女の後ろの方面から男性の声が聞こえてきた。こちらに向かって走ってきている。
「カエデさん! 無事ですか!?」
「あ、ガルムさん! はい、何とか間に合って無事です! 落ちてきた方も怪我は無いみたいです!」
俺を助けてくれた女の子はカエデという名前らしく、男性の方に振り向いて元気に答えた。
尻尾が俺の見える位置に来てゆらゆらと揺れている。
もふもふだぁ……触りたい。
ガルムと呼ばれる男性がこちらに辿り着き、カエデさんと俺の姿を交互に見る。
「確かに大丈夫そうですね、良かった。そこのお方、お名前をお聞きしても?」
「俺は氷室高雅です。さっきの会話で聞こえましたが、ガルムさん……で、いいんですよね?」
「はい、そうです。わたくし、トライデント王国インカース奴隷商館で奴隷商人をやっております。カエデさんもご挨拶を」
「あっ、私は狼人族のカエデです! よろしくお願いします!」
片手を高く上げ、元気に自己紹介してくれたカエデさん。
狼の耳と尻尾が可愛らしく、服が薄い生地をしているからか少しスリム体型なのが見て取れる。
だけど痩せている訳じゃなく、胸も見た感じCくらいと割とあるし、脚の筋肉が発達しているように見えていいプロモーションだと思った。
動物の顔ではなく人の顔をしていながらもケモミミが付いているのを見るに、狼の要素を持つ人って感じか。どおりで脚が発達している訳だ。
それと何となーくとだが、カエデさんを見ていると懐かしさと縁を感じるような気がした。
カエデといえば前世の頃によく遊んでいたかえでが思い浮かぶ所だが……まぁ、偶然だろう。
奴隷商人であるガルムさんは背が小さいながらも貴族っぽい高級そうな服装していて、正直少し怖い顔に見える。
しかし、カエデさんとガルムさんの会話からして、ガルムさんが俺を助ける為にカエデさんを向かわせてくれたようだ。
ただ、奴隷商人か……奴隷と聞くと、ハッキリ言っていい印象ではない。小説でも悪い奴が多いのだが、良い奴を書かれる小説もある。ここではどうなんだろうか?
よく見るとカエデさんの首に首輪が付いているのが見えるので、この子も奴隷のようだ。だが、その割にはガルムさんに恐怖心を抱いてる様子もなく元気に受け答えしている。
洗脳されていたり、逆らえないように教育されている可能性も否めないが、そういう雰囲気ではないように感じる。もしかしたら、この奴隷商人はそれほど悪い人ではないのかもしれないと思える程だ。
「おや、奴隷商人と聞いて身構えましたかな?」
暫く黙って考え込んでしまっていた俺を見たガルムさんは、俺が何を考えているのか見抜いてきた。
「あぁ、すみません。奴隷商人と聞くと、やはりイメージが」
「そうでしょうね、構いませんよ。それよりも、この辺はあまり魔物が多くはないですが長々と立ち話するのは危ないので、わたくしの馬車まで付いて来てください、話はそこでしましょう。貴方を捕らえるつもりはありませんので、ご心配なく」
奴隷商人に付いて行っていいのか悩む所だが、ガルムさんの言葉を信じるならば、このまま森に残ると魔物と遭遇して危険な可能性がある。
ガルムさんに対するカエデさんの反応を見るに、多分悪い人ではないように思う。ここは色々情報を聞き出せるチャンスだと思い、2人に付いて行く事にした。
「分かりました、これからどうするか迷っていたので助かります」
「では参りましょうか。カエデさん、万が一の為にコウガさんをお守りしてあげなさい」
「分かりました!」
馬車はすぐ近くにあり、移動は特に何も起こらなかったので、そのまま馬車に乗せてもらい移動を開始する。
中にはカエデさんの他にも奴隷が6名と使用人らしき人が1名乗っており、外には護衛に3名が居た。護衛の人は装備を身に着け武器を持っている所を見るに、おそらく冒険者ってやつだろう。異世界の代名詞と言っても過言じゃない存在だ。
ちなみに、奴隷の中にはカエデさんと同じような耳が付いてる子だったり、蜥蜴や龍なのではと思われる尻尾が付いてる子も居た。他にも耳が尖っているエルフのような子も見受けられた。
これだけ色々な種族が居るのなら、もふもふ探しも期待していいかもしれないな。
ガルムさん曰く、これから向かうのはトライデント王国という国らしく、ここから大体2時間くらいで着くらしい。行く宛てが無いならそこまで連れて行ってくれるというので、お言葉に甘える事にした。
「ありがとうございます、何から何まで……」
「いえいえ、困った時はお互いですよ。さて、コウガさん。もしやと思いますが、その黒い目にここじゃ見られない服をみるに……転生者、流れ者ではありませんか?」
「っ!?」
「そうですね、私も獣人の耳を見るのは初めてとこの方から聞いた瞬間、流れ者ではないか? と思いました」
ガルムさんだけでなく、カエデさんにもバレてしまっていた。
カエデさんには口を滑らせたのもあるが、ガルムさんの目は人を見通している感じがして、さすが人を扱う商人だと感じた。
「これだと隠せそうにないですね……そうです。ニホンって所から転生して来たんですが、何故か空から落とされまして……」
「やはりそうでしたか。しかし、流れ者は皆あんな風に空からやってくるのでしょうか? 魔物が居る森に空から落とすとは……」
確かに、普通に考えて魔物がいる森にいきなり落とされてはたまったもんじゃない。俺は魔物と出会う前にガルムさん一行と出会えたので運が良かったが、一歩間違えたら魔物に襲われていた可能性だって否定出来ない。
まぁただ、俺の転生はかなり急ぎで行われたっぽいからな……もしかしたら、本来の転生場所の座標がズレてしまっただけなのだと思いたい。
「全員がこんな転生の仕方だったら、今までにも何人か犠牲になってる可能性はありますね……ちなみに、流れ者ってこの世界では珍しいんですか?」
これの返答次第では今後の立ち回りが変わってくる。この世界について今のうちにしっかり聞いておかなければ。
「珍しいのは珍しいですが、ちらほらとお見かけしますね。お客様にも流れ者がいらっしゃいますし」
「そうですか、安心しました」
取り敢えず、流れ者は捕らえろ! 的な世界じゃないのは安心した。
自分以外の流れ者がどうなっているかは気になる所だが、今は転生したばかりで余裕がないので自分の事優先で考えるとしよう。
この後も、ガルムさんからこの世界について色々教えてもらった。
この世界には魔王が存在したらしいが、20年前に勇者を含む5人パーティが魔王を倒して平穏が訪れたとのこと。
その勇者達は各地に散らばり、各々好きに生きているのだという。なんでも、勇者と魔法使いとの間には子供が出来たという噂もあるらしい。
「確か、その勇者も流れ者だと言われていましたね。流れ者は強弱問わず、ユニークな能力を持っている場合が多いようなのですが……コウガさんもそうなのですか?」
「あー、まだ確認していないので分かりません。どうやって確認出来るのですか?」
ガルムさん曰くステータス等は念じれば見られるとのことなので、試してみると難なく見ることが出来た。
基本他人には見えないが、見せたいときは見せられるようになる機能もあるらしい。
現状、俺のステータスはこんな感じになっている。
人族 称号(動物愛好家)
☆スキル
氷魔法 アイスショット、アイスウォール
空間魔法 ストレージ
☆その他スキル
危険察知
鑑定
☆固有スキル
トリマー
☆特殊能力
動物愛好家の加護(動物等に懐かれやすくなる)
STR G
VIT G
INT E
DEX A+
AGI F
よくあるゲームのステータスのような感じだが、レベル概念に体力ゲージやMPゲージのようなRPGでよく見るような物は無いようだ。
物理系スキルがなく攻撃力のSTRがG、知力であるINTが少しだけ高い所とスキルを見るに、俺は魔法使い系だろう。VITが防御力、DEXって確か器用さだっけか? なんかDEXがやばいくらい高い。最後にAGIが素早さといった所か。
レベルがないのに各種ステータスがあるって事は、現状の身体能力が反映されていると考えるのが妥当だろうか?
レベル概念があれば、レベルUPしていくとステータスも上がるのだろうが……現状の身体能力が反映されているのだと仮定すれば、身体を鍛えたりするとステータスが伸びるのかもしれない。
色々と試してみる価値はありそうだ。
空間魔法のストレージってのは恐らくアイテムボックス的な物だろう、想像通りのスキルであれば荷物に困ることは無いはずだ。
確認の為にストレージと念じてみると中身を確認する事が出来た。中身を見てみると、有難いことにこの世界のお金が入っており金硬貨2枚と銀硬貨60枚が入っているようだ。
ガルムさんに聞いたところ、流れ者との話によると地球の物価や通貨と似ているらしい。ただ紙幣はなく全て硬貨であり、銅1枚10ノルン、銀1枚1000ノルン、金1枚10万ノルン、白1枚1000万ノルンだとの事。という事は、今の俺の所持金は26万ノルンってことになるな。
……これ、俺の給料の手取りと同じじゃん。
そして、固有スキルにはトリマーがあった。
トリマーは俺の本職の名だが、発動したらどうなるのか想像が難しい。時間がある時に試してみる事にする。
そして異世界と言えば、やはり剣や魔法の攻撃系スキルだろう。
見る限り、俺が使える戦闘系スキルは氷魔法。名前が氷室だから氷魔法が使えるって事なんだろうか? まぁ取り合えず、人が居ない安全な場所で試す必要がありそうだ。
その他スキルも、異世界小説を見ていて良くある汎用的に使いやすい便利なスキルであり、特に鑑定にはお世話になる事だろう。
異世界転生の定番であるチートスキルと呼ばれそうなものは……鑑定とストレージくらいか? 実際に使ってみないとチートかどうかはわからないが、候補としてはそれくらいだろう。
チートって感じじゃなさそうだけど、珍しいスキルっぽいのはトリマーと動物愛好家の加護か。
空間魔法はチートと言われる作品も少なくないのと、加護も見られるとまずい気がするので、魔法が少し使える事とユニークなスキルはトリマースキルだけだとガルムさんに伝えた。
トリマーというスキルは仕事内容を考えても攻撃スキルでも魔法でもないので、周りに警戒される程でもないと判断したからだ。
「固有スキル、トリマー……ですか。初めて聞く名ですね」
「これは転生前にしていた仕事のスキルっぽいですね。トリマーっていうのは、動物の毛を整えたり健康状態を確認したりと、動物に携わる仕事の事なんです」
「ほうほう。動物に携わるのは獣医や調教師、牧師等なら居るのですが、聞く限り違うようですね」
「そうですね。獣医のような専門的な知識はないですし、お世話したりするものでもありません。人で言う髪を切って整えたり、マッサージしたりすると言えば分かりやすいでしょうか?」
「なるほど、そういう事ですか。そういった事を動物にもするのですね」
「はい、毛の状態からでも身体の調子が分かる事もあるんですよ」
こうして様々な話をガルムさんとしている内に、俺が乗せてもらっている馬車は順調に街へと進んでいた。体感的にも大体1時間以上は経過してるだろうし、もう少しで街に着くだろう。
そんな中、俺の目線はガルムさんに向きつつも、チラチラとカエデの耳や尻尾にもたまに向いていた。
カエデさんは他の奴隷達とワイワイ話しており、反応によって耳がピコピコ動いたりペタンとしたり、ずっと見ていても飽きなかった。尻尾も常にゆらゆらしており、凄くもふもふそうで触りたい衝動に駆られる。
そんな様子の俺にカエデさんは気付いたようで、こちらを向いた。
「えっと、コウガさん? そんなに見られると恥ずかしいんですけど……」
「すみません、耳や尻尾が気になったもので」
「……そんなに気になるのなら、耳を少しだけ触りますか?」
「えっ、いいんですか!?!?」
いいのか!? ほんとにいいのか!? 触っちゃうよ!? 初ケモミミ触っちゃうよ!?
興奮のあまり、ずいっとカエデさんに詰め寄る。
「す、凄い食いつきですね……好きなんですか?」
「大好きです!!!」
「っ!?」
こんなに食いついてくるとは思わなかったんだろう、少し顔を赤らめている。照れてるカエデさんが可愛い、早く触りたい。
「少しだけなら……いいですよ? ただし、耳だけですからね!」
「わ、分かった。じゃあ、少しだけ!」
さわさわ、さわさわ……。
「んっ……はふぅ……」
耳の穴付近にある毛が凄くふわふわ、触れる度にピクッとする耳介がかなり柔らかい。天にも昇りそうな触り心地だった。
何だかいけない気分になってきたので、今の心境を語るとしよう。
ケモミミやっふううううううううううううううううう!
もふもふやっふううううううううううううううううう!
「も、もうおしまい! 恥ずかしい……」
あまりに恥ずかしかったのか敬語じゃなくなってた、可愛すぎるお持ち帰りしたい。あー尻尾も触りたかったなぁ……。
「……っ///」
耳を俺に触られ、恥ずかしいのかもじもじとしているカエデさん。その様子をガルムさんはじっと静かに眺めていた。
「ふむ、カエデさんがこんなご執心になるとは。カエデさんの件は彼に任せておけば、もしかしたら……」
「ん? ガルムさん何か言いましたか?」
「あぁいえ、何でもございません。さぁコウガさん、そろそろ街に着きますよ!」
ガルムさんのそんな様子に俺は気付くこと無く、俺はガルムさんの指差す方向を見る。
そこには大きな外壁に囲まれた大きな街並みと、中心に大きな城が見えた。あれがトライデント王国らしい。
地球知識での王国と少し違うようだが、要するに日本でいう東京みたいなものだろう。
どんな所だろう? 獣人いっぱい居るだろうか? 美味しい食べ物いっぱいあるだろうか? 冒険者にも興味あるんだよな。
憧れの異世界、初めて会ったもふもふな狼人族、この世界のことを色々教えてくれた商人。これからもきっといい出会いが待っているだろう! ワクワクが止まらないね!
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