18話 2人の特訓
眠りから覚めると、まだ外は薄暗く朝日が登り始めようとしている所だった。
カエデはまだ寝ているが、シェミィは既に起きていて毛繕いをしていた。
「おはようシェミィ」
「にゃー」
カエデを起こさないように小さめの声で言うと、シェミィも小さめの声で応えてくれた。
静かに着替えを済ませ、裏庭で素振りしてくるとメモを置いてからシェミィと共に裏庭へ出た。
昨日は1日大変で寝る前の鍛錬出来なかったので、朝からする事にしたのだ。
「さて、素振りするか」
少しずつ日が昇ってくるのを見ながら素振りを始める。
シェミィは邪魔にならない所で日向ぼっこしていた。
狼人族の姿に変身し、黙々とステップを踏みつつナイフも振るう。素早さが上がっている為に身体を慣らさないといけない。
シェミィとの戦いの時は集中していたからか気にならなかったが、今のように何も無い時に変身してみると速度の違いに少し戸惑ってしまう。
「これがカエデの見てる速度、これが更にアクセルブーストで加速するんだもんな。なんでシェミィと戦ってる時にアクセルブースト使って問題なく動けたんだろう?」
あの時はもう必死で、あれやこれやと考える余裕もなかった。その時の集中力のおかげだろうか?
まぁ今更考えても仕方ない、今は慣れることが先決だな。
そんなこんなで狼人族の姿で動き回ること数十分、カエデが起きてきたようで裏庭へとやってきた。
「ふわぁぁ……おはよう、ご主人様。朝から元気だね」
「おはよう! 昨日鍛錬出来なかったからな、今の内に少しやっておこうと思ってさ。まぁ、カエデも起きたし、そろそろ良い時間だろうから切り上げるか」
軽く汗をタオルで拭った後に朝食を頂き、特訓の待ち合わせ場所へと向かった。
「あっ、コウガくん! カエデちゃん! こっちこっち!」
「おはようございます! ジルさん! ミラさん!」
「おはようございます!」
俺とカエデが挨拶すると2人共おはようと返してくれた。
「さて、訓練場所なんだが、トライデント王国の西側にあるジオラル草原へ行こう。そこは見渡しも良くて動き回るにはもってこいなんだ」
「なるほど、ではそこへ行きましょう!」
ジルさんが草原へと案内してくれて、大体1時間もしないくらいで到着した。
シェミィは少し興奮気味に走り出して高くジャンプしたり、芝生の上でゴロゴロしたりしていた。
伸び伸びと動き回れるのはシェミィも気持ちがいいんだろう。
「ここなら思う存分動けるだろう。見渡しもいいから魔物が来ても気付きやすいからな」
「そうですね。それじゃミラさん、特訓お願いします!」
「分かったわ。カエデちゃんはジルと模擬戦よ」
「分かりました、よろしくお願いします!」
「あぁ、よろしく頼む。少し離れた所で始めるとしよう」
こうして、ジルさんとミラさんによる特訓が始まった。
ーーーコウガsideーーー
「コウガくん、氷魔法以外に使える魔法ってあるのかしら?」
「氷魔法以外だと雷属性ですね。属性の適正自体は他にも沢山あるんですが、スキルとして習得しているのはその2属性です」
氷と雷以外に火、水、土、風、光、闇の属性を持っている事を話す。
聖属性を調べるには教会へ出向く必要があるので、これだけはわからない。
「えっ、ちょ、ちょっと待って!? そんなに属性を持ってるの!?」
ミラさんが驚いた顔をしている。
確かカエデの話だと、全属性持ちって希少ではあるものの全く居ないわけじゃないはずだよな? 別に驚くような程じゃないと思うんだが……。
「えっと、スキルとして持っている魔法が4属性以上あるとやばいのは知ってますけど、ただ属性が多いだけであればそれほど珍しくないのでは?」
「普通の人ならそうなのだけど……コウガくんの場合は話が変わってくるのよ」
「と、いいますと?」
「コウガくんって無詠唱で魔法を放てるわよね?」
「そうですね」
「じゃあ、無詠唱ってどうやっているの?」
「イメージするだけで使えたんです。俺も最初は氷魔法しか使えず、更に詠唱しながら魔法を使っていたんですが、こんなに属性に適正あるのなら他にも魔法が使えるんじゃないかと思いまして……様々なイメージを頭の中で考えて試行錯誤していたら、スキルにもなっていないのに初めて無詠唱で雷魔法を使えたんです。そこから所持している魔法は全て無詠唱で発動できるようになりました」
「やっぱりねぇ……それがやばい所なのよねぇ……」
頭に手を付いて深刻そうな顔をするミラさん。
「えっと、もしかしてイメージだけで魔法を使えるのがおかしいってことです?」
「いえ、おかしいってわけじゃないわ。無詠唱はイメージ力の強さ次第で出来るようになると言われているからね。ただ……無詠唱で魔法を使える人がそもそも少ない上に、その魔法が中級以上となってくると極わずかしか居ないのよね」
「え? じゃあ、俺が中級のブリザードを無詠唱で使っちゃったのは……」
「ええ、やばいわよ。それだけで魔法使いとしては上位クラスに分類されるわね」
「マジかぁ……」
無詠唱も可能だと本に書いてあったから油断してたけど、それって初級だから可能って意味だったのか……。
「中級の魔法を無詠唱で発動しようと思ったら、相当なイメージ力が必要になるはずなの。しかも初級とはいえ、そのイメージ力だけで習得していない魔法まで具現するとなれば……自分のヤバさに気付いたかしら?」
「……はい」
俺の魔法に対するスペックは高いらしい。
イメージしているのが前世の物なのも影響しているのだろうか?
「普通はスキルにもなっていない小さな属性魔法を長く使い続け、属性ごとの特徴をしっかりと熟知。そこからイメージ力を補う魔法詠唱を挟み、ようやく初級魔法が発動してスキルとして習得する。コウガくんはそれをイメージ力だけですっ飛ばしているの。そんなコウガくんが属性適性を大量に持っているとなれば……君、賢者にでもなるつもりかしら?」
「け、賢者って、そんな大層な……」
「コウガくん、現実を見なさい。君はもうその道に片足を突っ込んでいるのよ?」
「……」
俺にここまでの強さがあるとは思いもしなかった。
もしやレアさんが密かにチートを授けていたのだろうか?
この辺りはもう分かりようもないが、これから俺はどう立ち回るべきなのかを真剣に考えるべきかもしれない。
「取り敢えず、コウガくんのまだ引き出せていない力がどれ程までに強大なのか……偶然に力を引き出して問題を起こしてしまう前に調べる必要があるわね。1つ1つ、引き出しをこじ開けていきましょうか」
俺はミラさんの指導と、彼女から手渡された魔法書を読んで魔法のレクチャーを受けていくのだった。
一方のカエデは、少し離れた所でジルさんと模擬戦を繰り広げていた。
ーーーカエデsideーーー
ご主人様と少しだけ距離を取って、対戦相手であるジルさんと対峙した。
「ジルさん! よろしくお願いします!」
「あぁよろしく。まずは実力を見る、遠慮なく来るがいい」
ジルさんが大きな盾をドシンと構えた。
凄い威圧感……盾を構えただけなのに、まるで不動の要塞のように感じた。
実際にシェミィとの戦いでも、全ての攻撃を盾と防御スキルで防いでいた。
消耗こそしていたもののダメージ事態は大きく負っていなかったし、これがBランクの実力者なんだね。
「ふぅ……はぁ!」
まずは身体強化を掛けた。
如何にあの防御を崩すか考えたけど、そんなすぐに思い付くはずもなかった。
取り敢えず、まずは1手を入れてみよう。
「アクセルブースト」
私は加速してジルさんの真っ正面から突撃した。
「……!」
ジルさんの盾も私の速度に反応して防ごうと一瞬で動く、それならと盾に全力でひと殴りしてみる。
しかし仰け反る事もなく、足元が抉れる事もなく、完全に受け止めきった。
私の拳が防がれて盾で振り払われた為、バックステップで距離を取った。
「ほんとに要塞みたい……」
「ふむ、純粋な力比べと来たか。俺を崩すには力が足りないな。あと、本当の模擬戦なら反撃も受けただろうな」
「そうですね。でも、ジルさんの防御力を1度体験してみたかったんです。対人は初めてなので」
「ふっ、そうか。ならばどんどん来るがいい。俺は防御と振り払いしかしない、防御を崩してみろ!」
「はい! 行きます!」
私は再度アクセルブーストを使い正面から殴りつけるようにフェイントを掛けつつ、真横を通り過ぎて後ろから肘鉄を喰らわせようとするが、ジルさんの反応がかなり速く、すぐに振り向かれて盾で防がれる。
「っ!」
「まだ遅いな、もっと速くなれば俺も反応しきれない……かもな」
再度盾で振り払われて身体が空を舞うものの、体勢を整えて着地する。
「反応速度が一級品……フェイントも見極められてるし、中々厄介かも」
私は間合いを図りつつ少し考えた。
魔法とか使える訳じゃないから、純粋に身体1つであの防御を崩す他ない。
今は実力を見る為に、防御と振り払いだけという縛りをしているジルさん。色々試すなら今しかないね……胸を借りるつもりで行こう。
私はアクセルブーストで詰め寄り、盾の振り払いを避けつつ連撃を喰らわせる。
スピードを活かして左右や後へと移動を繰り返しながら殴りつけ、蹴り技も入れ込む。
「全て防がれるなんて……」
「ふっ、だがいい動きしてると思うぞ。盾の振り払いにも対応出来ているしな」
「ありがとうございます。でも、もっと強くなりたいんです。ご主人様と一緒に旅をして、黒幕を倒したいんです! そして、ご主人様と共に……」
心に秘めた想いを口にしそうになって言葉を止めた。
ジルさんはその一言だけで察したようで、優しい顔になった。
「そうか、決意は固そうだな」
「……はい」
「良かろう、もっと来い! 俺がお前を強くしてやる! その拳でアイツを守り通せ!」
「はい!」
ジルさんが優しい顔になったかと思ったら、見た事ないくらい熱くなっていた。私自身もそれに引き寄せられるように熱くなっていった。
後に聞いた話、遠目からミラさんもこの様子をチラ見していたらしいけど、あれだけ熱くなったジルさんを見た事ないという。
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