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12話 夢と想い

 ーーーカエデsideーーー


『んん……? ここは?』


 気が付くと、目の前には床に三角座りで座っている女性が見えた。


『……誰?』


 そう言葉を発しようとしても、声が出ない。

 見える範囲を見渡してみると、見慣れない家の中だという事にはすぐ気付いた。

 周りには見たことのない物が沢山置かれており、それらがどういうものなのか想像も出来なかった。


『これは、夢?』


 これほど現実味のない状況に、これは夢なのではと推測した。

 それに、視線の位置がかなり床に低いような?


「わうん……」


 鳴き声が聞こえた。犬や狼のような鳴き声? 私の住んでる世界にも従魔に出来る犬魔獣や狼魔獣がわうがう言っているので違和感はない。


「かえで……なんでこうなっちゃったんだろうね……?」


 かえでって……私の名前だ。

 この人は暗い顔をしながらも、かえでと呼ばれた自分の頭を撫で始めた。


「かえでを助けてくれた高雅くんが川に流された時……私は、何もできなかった。あの時すぐに手を伸ばせていれば、間に合ったかもしれない……亡くなったら、もう2度と触れる事さえできないのに……」

「くぅん……」


 コウガくん……? ご主人様の名前だ……え、川に流されて亡くなった……?

 ご主人様は流れ人だったはず……もしかしてここ、ご主人様が私の住む世界へ来る前に住んでた世界?


「かえでも、高雅くんにいっぱい遊んでもらってたのにね……もう遊べないんだよ」

「……」


 このかえでは、ご主人様にいっぱい可愛がられていたんだと読み取れる言動だった。

 ご主人様が動物好きなのも分かる気がするくらい、このかえでにいっぱいの愛情が注がれていたのが私に伝わってきた。


『このかえでも、ご主人様が大好きだったんだね』


 ……かえで(も)?


『いやいやいや、私達は出会ったばかりだよ!? まだ好きってことは……』

『……まだ?』

『……』


 顔が熱くなってくる。気になっている……だけではなくなってきているような気がする。

 かえでが飼い主に寄り添り、たまに手を舐めて慰めているようにも見えた。

 飼い主がかえでを抱き締める。


「ごめんね、高雅くん……ごめんね、かえで……」


 この女性は大粒の涙を流しながら泣き始め、かえでも涙が出ているのか視界が少し見えにくくなった。


「わうぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅん」


 かえでの感情も爆発したようで、遠吠えに近い鳴き声を上げた。


 どんどん流れ込んでくる……ここにいる飼い主と思われる人とかえでの想いが、感情が、全て私へ流れてくる。何かを託すかのように。


『そっか……そうだったんだね』


 2人の気持ちが分かった瞬間、夢から覚めそうなのか頭上が光り始めた。私の意識がかえでから離れ、その光に引き寄せられている際に1人と1匹の姿が目に写った。

 そして、何故かかえでと目が合った。偶然か勘違いかもしれないけど、任せたと、そう言わんばかりの真剣な眼差しで見ている気がした。


『……任せて。みんなの想い、受け取ったよ』


『私は……!』


 覚悟を決めた。貴方達の分まで、私は彼と幸せになることを。


◇◇


 気が付くと、私の視線の先にはご主人様の顔があった。


「おはようカエデ。涙が出てるが……何か嫌な夢でも見たか?」


 ご主人様は私が起きたのを確認したのか挨拶をしてくれる。私、どうやら泣いているみたいだった。


「大丈夫、嫌な夢じゃないよ……大事な夢だった」

「大事な夢?」


 ご主人様が不思議そうな顔をしている。


「……私以外に、かえでって名前の4足歩行の動物に覚えはない?」

「!?」


 ご主人様の目がぎょっと見開いた。やっぱりあれは夢の作り物ではなく……本物みたいだね。


「ご主人様は川に流されて……亡くなった。そして、転生してこの世界に来た……違う?」


 ご主人様が信じられないと言いたげな顔をして、口をあんぐりと開けていた。


「なっ!? 俺まだその話は誰にもしてないぞ!? なんでそれを!?」

「会話を聞いたの、かえでの中からね。かえでって子の目線で、ご主人様の住んでいた世界の状況も見てきた。かなりご主人様に好意持ってたみたいだね、かえでも……かえでの飼い主も」

「梨沙とかえでが……?」


 ご主人様の顔が切ない顔へと変わっていく。


「多分、ご主人様が転生して間もないくらいの時間軸だったのかな。飼い主のりささん? って人とかえでが慰め合って泣いてたよ……2人の感情が溢れ出して、夢で一緒にいた私にも伝わってきたんだよ」

「……」


 ご主人様が黙って私の話を聞いてくれているけど、切ない顔なのは変わらない。こっちに転生してしまって会えない故に、凄く複雑な想いなのかもしれない。


「私、向こうのかえでに託されたんだ。ご主人様を任せたってね」

「……!?」

「だから……私は1歩踏み出すことに決めた。2人の分まで、ご主人様に尽くすことを決めたの。私の気持ちを2人が後押ししてくれた感じだけどね」

「……」

「ご主人様は、前世で自分の命を犠牲にかえでの命を救った。そして転生してきて、私というカエデに命を救われた。2人のカエデ(かえで)……これって、運命だと思わないかな?」


 偶然には出来過ぎてる。これは私たちが出会うべくして出会った、そういう運命だったとしか思えない。そして、私の気持ちがご主人様に向いたのも……きっと。


「確かに、偶然には出来過ぎてる……よな」

「ご主人様もそう思うよね。ご主人様と出会ってたった数日……たった数日で、私の気持ちがご主人様に向かって動いた。数日共にして、ご主人様に買ってもらったあの付近から、一緒に居たい尽くしたいって思うようになった。ついさっき見た夢で託された想いをこの胸に刻んだ今、その気持ちが更に大きくなったの……」

「……」

「だから、ご主人様……ずっと一緒に居ても、いいですか……?」


 ご主人様に近づいて反応を待つ、想いはちゃんと伝えた。

 ご主人様は私を見るや、すぐに私の頭を優しく両腕で包み込み抱き締めてくれた。


「向こうの2人の分まで、カエデを守ってみせる。一緒に居よう」

「ありがとう……」


 二人で抱き締め合う。その間には……りささんとかえでがいるような、そんな気がした。


『?スキルの条件クリア。スキルを解放、変身を習得しました』(コウガ)

『加護、託された想いが追加されました』(カエデ)


ご覧頂きありがとうございます。


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