10話 魔法とスライムとサンドイッチと
奴隷商館にてカエデを購入した後、俺達は一旦宿屋へ戻っていた。その理由は、昨日約束していたお昼ご飯を手作りする為だ。
異世界で初めての料理として選んだのは、パンと食材の数々で作るサンドイッチ。
昨日カエデが美味しそうに肉サンド食べていたので、これから作るサンドイッチもきっと気に入ってくれるはずだ。
食堂の調理室の隅を借りて、カエデと二人で作る。
「まずは野菜を洗って切っていこうか」
「はーい! レタルとキューとトメトでいいの?」
名前を見たら分かると思うが、レタルがレタス、キューがキュウリ、トメトがトマトだ。
各食材の味もお店で試食させてもらっており、前世の食材と似ていることがわかっているので失敗はしないはずだ。
「ああ。洗ったら俺にキューとトメトを渡してくれ、カエデはレタルを半分に切ってから一口サイズに千切ってもらえるか?」
「りょうかーい!」
じゃばじゃばと野菜を洗って俺に渡してくれるので、俺は受け取ったキューとトメトをスライスするように切っていく。
トントントントン。
「おお、切った後の薄さが殆ど一緒! 凄いね!」
「たまに自分で作ってたから、慣れてるってのもあるかもな」
「羨ましいなぁ……っと、取り敢えずレタルを千切っていくね?」
「あぁ、頼む」
2人で協力して野菜たちを千切って切ってしていく。
「よし、野菜はこんなもんだな。次は肉だ」
「お肉はどう調理するの?」
「肉はタレにつけて焼く、昨日の焼串肉と似たようなものだな」
肉屋でタレも手に入れていたので、これをつけて焼いていく。
ジュウーーーーッ。
「これだけでも美味しそう……」
「確かにな。そろそろパンの準備を頼む、並べて野菜を乗せてくれ」
「はーい!」
カエデが食パンによく似たパンを取り出して並べ、野菜達を乗せていく。
「こんな感じでいい?」
「ああいいぞ、肉乗せたら挟んでくれ」
「はーい!」
俺が焼き上がった肉を野菜の上に乗せ、カエデがパンで挟んでいく。
「うわぁ、これ絶対美味しいやつ……」
出来上がったサンドイッチを、よだれを垂らしそうな感じのうっとり顔でじっと見つめていた。
「うーん、肉だけじゃ飽きそうだな……そうだ、あれも使っちゃおうか」
「なにを使うの?」
「クックの卵だ」
クックとは前世で言う鶏に似た空飛ぶ生き物の卵だ、栄養価があって美味しいらしい。
「この卵をかき混ぜて……調味料を入れてから焼くんだ」
溶いた卵に牛乳らしきものとほんの少しの砂糖と塩を入れ、フライパンに流し込む。
本当なら卵に白だしだとか顆粒ダシ的なものを入れて、パンにはマヨネーズを塗るんだが……流石にこれらの代わりを見付けることは出来なかった。また時間ある時に試行錯誤とか出来ると良いな。
厚焼き卵風に焼き上がったので野菜の上に乗せる。そしてケチャップによく似たトメトソースをかけてパンで挟むと出来上がり。
「よし、サンドイッチの出来上がりだ!」
「あぁもう早く食べたい! けど今日のお昼用だし、我慢我慢……。パンに野菜や卵を使う料理はあまり見ないから、楽しみ!」
出来上がりを食べたくなるが我慢し、道具屋で買っていたバスケットの中にサンドイッチを入れ、ストレージの時間経過無し設定にした空間へ入れた。
「このサンドイッチを楽しむためにも、今日もクエスト頑張ろうか」
「うん! 確か、あと3件FランククエストこなすとEランク行けるんだったよね?」
カード発行の時に貰ったギルド資料集によると、討伐クエスト3件を含むクエスト5件達成でEランクへ昇格らしい。
昨日で討伐クエスト1件と採集クエスト1件を終わらせたので、残りは討伐クエスト2件とその他クエスト1件で条件達成だ。
「そうだな。少し路銀を稼いでおきたいし、3日くらいクエストをやる期間を設けてEランクになったら旅へ出ようか」
「そうだね! それならクエスト3件はさっさと済ませて、残りの時間は特訓しようよ! これからドラゴンのような強い敵と戦う旅になるんだし、少しでも鍛えておかないと」
これからの目標の1つであるドラゴン討伐、これを達成するためにも強くならなければならない。
ドラゴンは危険度A~Bランク相当の危険な魔物であり、上位種になってくると確実にAランクになるらしい。
「そうしようか。それなら……今日は2件クエストこなして、明日はクエスト1件と特訓に時間を当てる。明後日も朝から特訓して、夕方くらいから旅の準備ってことにしよう」
「それでいこー!」
そうと決まれば、宿屋の延長料金を支払ってから早速ギルドへと向かった。
掲示板でクエストを探してみると、魔力草10個採集クエストがあった。前日に魔力草も一緒にいくつか採集しており、現状で6つがストレージに入っているからすぐに終わりそうだ。
もう1件はスライム10匹討伐、数が増えてきた為に討伐して欲しいって内容である。
その2件のクエストを受注し、俺達はテラー大森林へと向かった。
「スライムは森の奥地に住まう魔物らしいし、まずは魔力草を先に採集してしまおう」
「わかった!」
テラー大森林へと入って行き、昨日薬草採集した場所付近に向かって歩いていく。
「っ!」
急にカエデが立ち止まり、手を広げて俺を静止させる。
「どうした?」
「奥に何か居る気配がする」
「っ!」
姿勢を低くしつつ敵の正体を探るも、目視では確認出来なかった。
「何処だ……?」
「向こうだよ。私が先導するから、付いてきて」
「了解」
敵が居るであろう場所へゆっくりと近付いていると、カエデが何かに気が付いたようで指を指した。
「……ご主人様、多分スライムだよ。あれを見て」
カエデが指さした先にある木をよく見ると、粘っとした粘液みたいな物が張り付いていた。
木に張り付いてから時間はそれ程経っていないようで、粘りがまだ真新しい感じがした。
「なるほど、確かにスライムのものっぽいな……という事は粘液を吐き出す攻撃をしてくるのか?」
「そうだね。これ自体は対した攻撃ではないんだけど……ネバネバヌメヌメして気持ち悪いから、なるべくは当たらない方がいいよ……」
寒気がしたのか両手で身体を抱いてブルっと震えるカエデ、粘液まみれになった事あるみたいだな……気を付けよう。
しかし、森の奥地でもないのに何でスライムが居るんだろうか?
まず考えられるのは、単純に数が増えてきて生息域が広がった説。これであれば依頼通りなので倒せば良いだけだが……もう1つの可能性も脳裏に浮かんでいた。
それは、強い魔物が現れて生息域から追い出された説だ。
仮に強い魔物が現れていたとすれば……もしや、カエデの村を襲ったドラゴンだって可能性も? いや、変な憶測は止めておこう。
隠れながら近付いていると、一瞬だけ草木の隙間からスライムの姿を確認出来た。
「居た、やっぱりスライムだ。でも草が邪魔だな……魔法が当てられない」
「わざわざ魔法を使わなくても杖で殴るだけでも倒せるから、魔力の節約の為にも魔法は使わないほうが良いかも」
「そうなのか、分かった。それじゃ杖を出して……いくぞ!」
「うん!」
カエデが身体強化を発動し、2人でスライムの群れがいるであろう所に突っ込んだ。
「ぷるっ!?」
スライムがこちらに気付いたようで、草木の合間から粘液を吐き出してきた。
「うおっ!? 結構勢いよく飛ばしてく……って、うおぁぁぁっ!?」
1つ目の粘液は避けたが、避けた先にも粘液が飛んできて身体中がベタベタになってしまう。
「アァァァァァァッ! 気持ちわりいいいいいいい! ぬめぬめするうううううううう!?」
「ご主人様、我慢して……これが初めてスライムと戦う人みんなが通る道、洗礼だから……」
こちらを心配しながらもスライムを殴り飛ばしていくカエデ。
俺が粘液で悶えてる間に6匹全て討伐して魔石回収もしてくれていた。
「ご主人様、一応水で洗い落とせるけど……どうする?」
「顔と腕周りだけは落としとく……」
昨日使えることが判明した水属性魔法で水を出し、顔と腕だけ綺麗に洗った。服を濡らすと動きづらくなるからな。
洗い終わるも服に張り付いたものはある程度しか除去できなかったので、少々気持ち悪さが残ってしまった。
まぁこういうのも慣れなきゃいけないと思い、我慢しながらも探索の為に動き出した。
運良くすぐに魔力草を発見した為、元々6つ持っているので4つを依頼用に採集。そして自分用に5つ程採集しておいた。
「何とか魔力草は回収出来たな、後はスライムか……うぅ」
「早く片付けて湯浴みしたいね……拳がベタベタして不快だよぉ……」
カエデも耳をペタンとさせて元気がなくなっていた。
心なしか尻尾も力なく垂れ下がっているように見える、これはこれで可愛いが……やはり元気がないのはいただけない。
早く片付けて帰ろうと思っていた所、遠目からゴブリンの姿が見えた。
「カナデ、ゴブリンが来た」
「ホントだ。依頼にはないけど、一応討伐してくるよ」
「ありがとう、頼むぞ」
カエデがゴブリンの元へ駆け抜けて行った。
「魔法使いだからってスライムすら倒せないのはやばいよな……小さい敵を倒す手段を何か見つけないといけないな」
一応属性はほぼ全種あるんだし、氷以外にも何かしら使えそうだよな。
魔法の発動は魔力操作にイメージと詠唱が大事。だけど一応詠唱破棄も出来る人も居るようだし、使ったことがない魔法でもイメージ力があれば詠唱なしでも発動できるんじゃないか?
魔法で拘束系魔法を使えたら便利だろうなぁ……拘束して、身動きが取れない相手に別の魔法を当てる。これなら魔法使いでも危険がなく倒せそうだよな。
杖を前に出し、相手を紐で縛り上げるイメージを浮かべる。
動きを阻害出来るよう、無理やり拘束を解こうとすれば電気で痺れるようなギミックもあれば尚良いかもしれんな。
だとすれば、雷のイメージするのが良さそうか?
雷は……電気。電気による感電、身近なものでいえば静電気。
静電気って意外と痛いよなぁ。バチバチッって弾けるような痛み……運が良ければ電気が物体間を走る所も見えるときもある。
あれが身体に巻き付くような……そんなイメージで強く頭に思い浮かべると、なんとスキル名が脳裏に浮かんできた。
「っ!? パ、パラライズサイズ!」
そう言い放つと、目の前に立っていた木に雷撃が絡み付くように巻付き、それがバチバチと音を立てている。
「これは……雷属性の束縛魔法か? 捕まえて痺れさせる感じか、使えそうだな。それにしても、まさか本当に雷属性の拘束魔法を使えてしまうとは……詠唱無しで」
思いがけない出来事に驚いている内に、カエデがゴブリンを倒したようで戻ってきた。
「ご主人様、終わったよー! って、うん? 何これ……木に雷みたいなのが絡み付いてるけど」
「あ、あぁ。これはパラライズサイズって魔法で、雷属性の束縛魔法みたいだ。今さっき何となくで使ってみたら発動しちゃってさ……」
「属性があるのは分かってたけど、まさか雷まで使えちゃうなんて……これで派生属性と言われる氷と雷を習得したわけだし、もしかしたら基本属性の4つもどれかは使えるんじゃ? 氷と雷なら、水と風とか……」
「なんで水と風なんだ?」
「氷は水の派生、雷は風の派生した属性って言われてるんだよ。一般的には氷は水が得意でないと使えない、雷は風が得意でないと使えないって言われてる。まぁ、一部例外は居るからその限りではないんだけどね」
「そうなのか……まぁ、それは今度試すことにしよう。今はそれよりも範囲魔法とか出来ないか試したいかも」
もうあんなベタベタにはなりたくないので、範囲魔法になりそうな魔法を考えてみる。
「俺の得意な氷で範囲攻撃と言えば……吹雪か? イメージすれば何か出来そうだな……試すか」
杖を掲げて吹雪のイメージをするも、スキル名が脳裏に浮かぶことはなかった。
「浮かんでこない……イメージが足りないか?」
パラライズサイズを発動した際、雷を直接イメージしたのではなく、電気や静電気のイメージをしていた。
となれば、ただ単に吹雪のイメージをするだけじゃなく、吹雪の際に吹き付ける物な何なのかまで詳細にイメージする必要がありそうだ。
「吹雪は……氷というよりは雪だよな」
雪は水蒸気が空気中で冷やされて作られ、それが強い風によって吹き荒れると吹雪になるはずだ。
そんなイメージで杖を掲げると、またしてもスキル名が頭の中に浮かんできた。
「っ! ブリザード!」
目の前が吹雪に見舞われる。雪が吹き荒れて範囲を傷付けていくのを見るに、吹雪自体にダメージがあるようだ。
「おお! これは使えそうだ」
「む、無詠唱!? 凄いよご主人様! これならスライムも難なく倒せそう!」
「だな。これで対多数相手でも戦えそうだ……っと、カエデ、向こうにスライムが居るぞ」
丁度目の前の草木の先にスライムの姿を発見、まだこちらに気付いて居ないようだった。
「むぅ、喜ぶ暇も与えてくれない……でも、何で森の奥地でもないのにスライムがこんなに?」
「数が増えてきたって依頼だが、もしかしたら奥地に何か強い魔物が巣食った可能性もあるな……調べる必要があるかもしれない」
「そうだね。ただ調べる前に身体を綺麗にしてお昼ご飯食べてからにしようよ! お昼の時間回っちゃってお腹が空いちゃったのもあるし、ご主人様と作ったサンドイッチが楽しみでしかたないんだよー!」
日が真上を通り過ぎており、大体昼1時くらいだと思われる。
このスライム倒して帰ったとしても調査する時間が微妙な気もするし、明日調査するって形でも良いかもしれない。
最悪ギルドに報告して判断を委ねるのも手だな。
「わかった、スライムを倒したら一旦戻ろう。身体を綺麗にしてからご飯だ!」
スライム達もようやくこちらに気付いたようで一斉に襲いかかって来るが、俺はすかさず杖を突き出す。
「まとめてやってやる、ブリザード!」
吹雪がスライムを包み込みズタズタにしていき、1匹も逃すことなく討伐はあっけなく完了した。
「さすがご主人様、一瞬だね!」
「ありがとう、ベタベタにならず済んで良かったな」
「だね。もうあんなベタベタは勘弁だよぉ……」
「分かる。一旦、湯浴みしに戻るか」
「うん」
俺達は一旦街に戻って湯浴みをした。
身体中がベタベタな為、カエデにも手伝ってもらって身体を拭いていく。
もちろん、カエデの奴隷服ではなく今日出せることに気付いたタオルでだ。
「すまんなカエデ、手伝ってもらっちゃって」
「ううん、背中拭くくらいはやらせてほしい。奴隷なのに奴隷らしいこと全然指示したりしないからね、ご主人様は」
「いや、カエデを奴隷と思ってないからな……」
「わかってるよ」
言葉を交わしつつ身体を綺麗に拭き終わると、カエデが自分の身体を拭き始めた。
「俺も背中拭くの手伝うぞ」
「え、でも……」
「いいからいいから! 早く拭いてご飯食べよう」
「……ならお願い、ご主人様」
「じゃ、拭いていくぞ」
カエデの背中をふわふわタオルで優しく拭いていく。尻尾を見ると気持ちいいのかゆらゆらと嬉しそうに揺れている。
「力加減どうだ? 大丈夫か?」
「大丈夫だよ。ただ、前は見ないようにして欲しいかな……」
「分かってるよ」
背中から腰へと移動していき、尻尾も拭いていく。
カエデから預かっている櫛で軽く尻尾を整えている内に、前を自分で拭いてもらう。朝にやった手入れのお陰で、多少櫛を入れるだけで綺麗でふさふさな尻尾が再君臨した。
「今日の手入れのおかげで未だに綺麗だね!」
「やっぱり尻尾が綺麗だと嬉しいのか?」
「もちろん! 狼人は尻尾に誇りを持ってるからね、綺麗であればあるほどいいの」
「なるほどな。さて、湯浴みも終わったし飯にしようか!」
「待ってました!」
ストレージよりバスケットを取り出すと、時間停止の能力によって出来立てほやほやのサンドイッチが姿を表す。
「わぁ……早く食べよ食べよっ!」
「そうだな! いただきます!」
「いただきまーす!」
カエデは肉入りのサンドイッチを手に取り齧り付き、俺はたまご入りサンドイッチを掴む。
「んんんんん~♪ おいしい! このタレがお肉と相性が抜群な上にレタルともめちゃくちゃ合う! シャキシャキ触感も堪らないよぉ」
「あぁ、このたまごもかなり美味いぞ。トメトのソースも良い味だ!」
「そっちも食べるー! あむっ」
カエデは俺の持っていたたまごサンドにも齧り付き、美味しそうに頬張った。
「って、あぁ! 俺の食ったな!?」
「えへへー食べちゃっ……あっ」
「うん? ……あ」
カエデの顔がどんどん赤くなっていく。俺も食べられた瞬間は何も思わなかったが、ようやく間接キスしたことに気が付いた。
「あ、あぅ……気分上がり過ぎて、つい……」
「いや……俺は気にしないぞ?」
「ぷしゅう……」
顔が蒸発しそうなくらい赤くなり、後ろにひっくり返って目をグルグルさせた。
「おーーーいカエデ! かえってこーーーーーい!!」
色々ハプニングが起きたが、カエデも何とか意識が帰ってきて騒がしいお昼ご飯が済んだ頃には夕方前になっていた。
お互い気分をしっかり落ち着かせ、この後どうするか話し合うことに。
「それじゃ、もう時間も遅いし今日は調査を無しにして、ギルドへクエスト達成報告しに行こうか。ついでにスライムが奥地ではなく森の入口付近にまで出現するようになっているのも伝えようと思うんだが……」
「それでいいんじゃないかな。調査隊が出るのなら私達が行く必要もなくなるし、わざわざ危ない道を渡る必要はないと思う」
「そうだよな、それで行こう」
俺達はギルドに行き、スライムの件で気になる事を話す事にした。
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