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短編にもならない小説を書くだけ

作者: 志方内

 題:夜の帷


「聞いたことがあるかい?」


 ある村にて、噂がたった。

 森には、怪物がいて、見つかると四肢を千切られ食されると。


 一方森にも、東の地に人間という残酷な種族がおり、見つかると命を奪われると噂されていた


 両者、共々恐れていた。


 そして、ある日の朝。人間と怪物が出会ってしまった。


 人間は、()()()()であった。


 そのニンゲンは、何もしない。するとすれば

 怪物の真似事。

 このニンゲンは、森に入ってきた人間を殺し、四肢をもぎ、あえて「死体を残す」という行為をしていた。

 そのニンゲンは怪物に強い憧れを持っていた。


 なぜ、ニンゲンはそのようなことをするのか。己を人間とは思わないニンゲンだからだろうか。まだ答えを得ていない。


 怪物は()()()()である。


 そのカイブツは、森の中では異端であった。

 他の怪物は、怪物同士で守らない、守られない。

 だが、そのカイブツは違った。

 人間の真似事。

 食べる必要も無い作物を食らい、言葉を覚え、怪物に強い仲間意識を持ち、助ける。そのカイブツは、人間に対する強い憧れを持っていた。


 なぜ、カイブツはそのような憧れを持っているのか。己を怪物らしくないそう思っているからだろうか。まだ答えを得ていない。


 ニンゲンはいつもの様に森で人を待ち殺そうとしていた所だった。そんな日にカイブツに出会った。会ってしまった故に自分は殺される、そう確信し、憧れの存在に殺されること、この世の全ての幸福より勝るものと感じていた。

 カイブツは、初めて会う人間に、喜びを覚えていた。

 憧れの存在、その憧れの存在が目の前にいる。

 同族が言う。

「人間を見ると、殺したくて殺したくて、喰いたくて、堪らなくなる。」言うなれば殺人衝動、それが何故か起きなかった。

 カイブツは、その事に更なる喜びを覚え、''アイサツ''をしようとしていた。


 ────天敵を目の前にした兎が逃げずに直立不動するだろうか。獲物を目の前にした狼がただジッと見つめることはあるだろうか。獣は、ただ己に従うのみだろう。


 会って5分が経過した。両者動かずに静止していたところに感じた。


 死の恐怖。

 生まれて初めて感じる死という感覚、生存することに突出した人間の本能。

 憧れ、そんなものどうでも良いと走り出す。


 カイブツも逃げるのを視認した時点で、逃げる獲物を追いかける。


 ヨダレが口から溢れ、味を確かめたくなる。あれより美味いのか?


 そう考えながら徐々にニンゲンに迫っていく。

 ニンゲンが通り抜けていく細い道を木々をなぎ倒しながら追いかける。巨大な体が邪魔に感じるがただひたすらに追いかける。ニンゲンに対し咆哮を浴びせ、徐々に逃げ場が無いように追いかけ続ける。

 カイブツは考える。

 森の噂にある何かを撃つもの、形を見たことがある、その物は持っていないようだ。

 なら、殺せる。殺す。コろス…


 カイブツは怪物と化した。


 ニンゲンは、考えていた。


 どうすれば助かるのか。

 村に向かって走る。足が痛かろうと腕に枝がぶつかり多少よろけようと、ただ走る。

 奴がどこまで接近しているか、後ろを振り返ろうにも、恐怖によって振り返れない振り返ると死ぬ。そう、確信していた。

 ニンゲンは常日頃思っていた。

 怪物になるには、何が足りないのか。

 怪物のように殺しても、怪物には、なれない。

 そんなの分かりきっている。

 怪物になれないなら、自分自身が怪物と人間に呼ばれるようになればいい。

 どのようになろうと────

 俺は生きる、生きる…


 どんなことだってしてきた、怪物になるために。死ぬのかこんなところで?嫌だ死にたくない、絶対に怪物になってやる


 ニンゲンは夢を持った。ニンゲンは人間になった。そんな夢も虚しく、怪物は追いついた。


 だが、そこで怪物は手が止まった。止まった…止めた?怪物はそんな止めた手を動かした。


 目の前にある手は、異形の手をしている。手指は太く、爪は簡単に木を切り裂くほど鋭く大きい


 気付いた、自分は怪物だと。

 本能が刺激され、目の前にいる人間を殺そうとしている時、怪物はただ冷静に淡々と、そう…思った。

 そう思った事で一瞬動きを止めた。

 理解ができなかったからだ、自分は怪物?なら自分が殺そうとしている人間とはなんなのだろうか?そうして、怪物は考え、人間たちの言葉を思い出しながら言葉を発声するには適していない口を開く───────────────


 今後、使うこともないであろう喉を震わせなれないように────

「あ、あ、あ゛、あな゛なだたちは゛な、ん、だ?」


「………?」

 人間は、止まった。震えが止まった訳ではない。追いつかれ、今にも逃げ出したい気持ちを抑え、目の前に止まっている怪物の言葉を思い出す。

 

 ────────あなたたちは、なんだ?


 それはなんだろうと。

 自分たち人間を知ろうとしている?

 なんで?意味がわからない。


 こいつは…?

 何を知ろうとしている…?


 そこで人間は、気付かされた。

 先程、「自分たち人間を知ろうとしている?」


 人間は、自分を人間と思っていたと。

 人間はこの、怪物に気付かされる。自分は人間だと。


 人間は、数分程考えた後に口を開ける。


「俺は、俺た、ちは…お前たち…と変わらない」

「常に…」


 ──────────怪物は、答えを得た。

 それなら、この生命体はもういらない。

 獲物から目を離し森の奥へと向かっていく。そういえば人間たちが食べるあの草にミズをあげていない。枯れると困る、あれは美味いんだ。もったいない。なぜ枯れるのか。


 怪物はカイブツに戻っていく────────


 そしてまた、生きたこの人間も答えを得た。未だに震えは収まらない、恐怖が足を震わせる。さらに実感する自分は人間なのだ、いくら怪物の真似事をしてもそれはただの真似事。

 怪物になろうだなんて、馬鹿なことだった。だから、この日に感謝しようと思った、彼と出会ったことに。

 それはニンゲンが得たニンゲンなりの答えなのだろう。───────────────


 木々が揺れる、朝の光が森を照らし隙間から通る光がやけに輝いて見える。一日が過ぎていく


 そうして、また今日も夜の帳が降りる。

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