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この問題の存在を再認識したい。

 前回のペットの社会学(3)に続き(4)は現在の競争社会は繁殖産業にも及び、常に効率と経費削減が求められそのしわ寄せが一気に犬猫に降りかかってきている。この実態を白日の下にさらす。この視点から今の人間のペットへの拘わり方に触れ問題点を探っている。

承前

動物愛護管理法

 環境庁の管轄で動物の虐待等の防止に関する法律は『動物愛護管理法』である。 この法律が目的として謳われているところは、動物虐待等の禁止、「生命尊重、友愛及び平和の情操の涵養に資する」こと、となっている。

 まことに立派な立法の精神であるが、如何せん(残念ながら)この法律は2005年、20012年、20019年と主なものでも幾度となく改正されているが法律だけが先行しているという実態がある。何故か。

この法律は当然ながら全動物の生命に被せられた網である。特に愛玩動物ペットをターゲットにしている。

 主として、ペットショップから売りに出され、ペットとして飼い主に買い取られる以降の犬猫に多くあてはめられ、ペットショップ以前のまだ繁殖犬と呼ばれている段階の犬猫に及ぼす恩恵は少ない。繁殖産業に関しては規定が抜け穴が多く極めてあいまいなのである。何故か。

 それは、一言で言い切れる。『動物愛護管理法』という捕虫網は完璧なのだが、環境省の部屋の片隅に置かれっぱなしで。補注網が振るわれることが少ないからである。

 繁殖産業とは

 繁殖産業とは、利潤を得る手段として犬や猫の繁殖を組織的にかつ継続的に行こなっている業界を指す。この業界に携わっている繁殖業者はブリーダーまたは「第一種動物取扱業者」、と呼ばれている。

 繁殖業者は犬や猫の繫殖させ商品としてペットショップを通してで売りに出され、商品として、飼い主に買い取られる。いうまでもなく売買されるものは一義的には生命である。

 繁殖された生身の犬や猫が商品化され、それがビジネスになるということに、不思議な心象を受け、これを心の何処に置けばよいのか置き場所に迷う。

 それではまずペット産業で商品である犬猫の生産(繁殖)はどのように行われているのだろうかを見てみよう。

 犬は大まかに言えば約6~12ヶ月の周期で発情期を迎え、妊娠期間は約2ヶ月である。多くのブリーダーは、犬猫が繁殖期を迎えるたびに受精・妊娠・出産を経て仔犬や仔猫を製品として手中にするが、ブリーダーによってはかなり手厚く、或いはある程度の手厚い管理下のもとで繁殖・飼育がおこなわれ諸管理面(環境、給餌、健康、安全面等)が充実しているところも存在する。ここでは法令で定められた「動物愛護管理法」が確かに生きている。


 ”パピーミル”とは          

 しかし必ずしも上記の管理下において犬猫の生産(繁殖)を行っているとは言い難いブリーダーが一定数存在する。繁殖施設のうち特に劣悪な生活環境下で繁殖を強いられている犬や猫が存在する。このような施設を指して”パピーミル”(子犬畜産施設)と呼ばれている。

 このパピーミルとはどのような所で、どのように生産(繁殖)が行われる所なのかを説明しなければならない。

  “パピーミル”とは市場の競争原理にさらされ利益を最優先とし、愛玩動物を劣悪な環境で大量繁殖させる繁殖工場なのである。


 その実態としては、繁殖期を迎えるたびに受精・妊娠・出産を繰り返えされる。これは一般のブリーダーと変わらないがここでは、効率と、採算性からの処遇が厳しく犬たちは狭く不衛生なケージに閉じ込められ、散歩や適切なケアを受けることもない。ひたすら繁殖のためのみに扱われる。


 繁殖は突然変異を期待され親が持っていなかった性質や、特異な容貌を持って生まれてくることが望まれている。このため、近親交配が二代三代と繰り返し行われ、生まれさせた仔犬の容姿が五体に偏りがあって、親と似ておらずとも珍しがられれば市場で高く売れる。

 例えば体毛が長かったり、毛並みがや体型が独特であったりすれば、奇形奇躯として珍しがられ珍重される。四肢が短いもの、耳の大きいもの、眼の大きいもの、顔が絞られたようで眼、鼻、口が寄ったものでも容姿に愛嬌があれば商品としての価値判断に晒され評価を受けるのである。

 とても自然界においては生存出来そうになくても、それは人間が介在することによって生存し得れば、いわば人間依存動物として生かされる。飼い主の胸三寸で「生」も「死」決まるのだ。

 どの犬を種犬として残し、どの犬を市場に流し、どの犬を殺処分にするかはひとえに業者の手にかかっているが、まさにこれが人間の神をも恐れぬ瀆神的行為で繁殖業者はギリシャ神話の「モイライ」(注1)にも似た采配を振るう。


  パピーミルの生殖環境についてもう少し包み隠さず言えばこの社会では、妊娠、出産、養育が繁殖が人の手で計画され実行される。犬、猫の個体は単なる生殖の道具となっている。

 業者の多くは規模としては小規模から中規模で多くは個人経営である。その環境は劣悪で酸鼻を極めている。狭いゲージにぎゅうぎゅう詰めにされ集団として飼育され犬は、横になることもできない。排泄物の堆積した状態または他の動物の死体が放置された状態にもなる、これは現代の悲惨極まる残酷物語である。

 市場競争の激化が、最小限の投資で最大限の利潤を生むよう常に行動しそのしわ寄せが動物たちに来る。狭い部屋に放り込まれ、生きるに必要な最小限の食料があてがわれるのみである。まさに、出産機・種犬としての利用価値に特化しているのである。太らせることや飼育の環境改善は、投資効率の低下を招く。

 そもそも命たる動物たちを、商品として資本主義のルールに乗せ流通されるこのが誤りであって、神への冒涜であり、すべての誤りの根源である。

パピーミル の哲学は、犬や猫に他の体験させないことである。一度いい体験を経験すると、現状への不満が認識されストレスが倍増する。

 生まれ落ちた世界が犬や猫たちにとってすべてであり全世界である。なんでこんな世界に生まれてきたのか、などという考えを持たせないことだ。これがすべてという認識を与えればストレスもある範囲内で収まり増加することはない。一度いい思いを体験すると、犬や猫は現状の厳しい環境になじめず、吠え、噛みつき、自損行為をし、反抗的になり飼育に困難さが生じるという考えである。

 簡単に言えば繁殖犬にいい体験をさせてはいけないという、認識する個体を厳しさに馴らそうというもので、それは環境を変えたり管理の手数を増やすより容易であるからだ。

 これが長年にわたり繰り返され、母なる犬猫は何度も出産を強いられ、体は汚れ、ストレスで精神を害され、栄養不足で健康を害し、表情も暗い。仔犬・仔猫も健康問題を抱えて生まれて来るケースも少なくない。

 吠え声がうるさいと声帯がカットされ、老齢、怪我等によって、あるいは病気や感染症などによって繁殖能力を失うまでこのような環境下で飼育される。


 成犬・成猫は繁殖能力を失えば彼らはたちどころに不要犬として処理される。彼ら犬・猫の生存の選択肢は仔を産む他に持たされていない。まさに一択である。また生まれてきた仔の生命も、時の市場の好みの可愛らしさ、従順さ、珍奇さ、毛並みの良さなどの評価に曝され、選外となってしまえば、倫理的な配慮や健康への配慮を受けることなく、余剰犬として処理される。

 ここでいう「処理」とは、一つは野山へに捨てられるか、置き去りにされる。棄てられても人里に住み、人の施しを受けながら長らえる犬猫は野良犬、野良猫と呼ばれるが、人の施しを受けず、自力で野山に生きる犬猫は野犬ノイヌ野猫ノネコ呼ばれる。

 または同業者に安く売り渡されるか、動物愛護管理センターでは公的に不要犬の引き取りを行っているので、ここに持ち込まれる犬・猫が多い。

 センターには繁一般の飼育者からの持ち込みが多いが、その主な理由は転勤先で飼うことが出来ない。老犬になって世話が大変になった。愛情が持てなくなった。飼育者が入院することになった。などなどの理由から持ち込まれる。持ち込む際の犬猫の引き取りの費用は自治体によって異なり犬や猫は1匹あたり数千円程度らしい。

 センターがやむを得ないと認めると。まず「動物愛護管理法」に基ずき公開で、譲渡会を開き里親探しをする。

 譲渡会で里親なりたいと名乗り出ても諸条件をクリアしなければ譲渡は受けられない。主たる飼育者は誰か、アパートやマンションの場合飼育が許容されているか、居住空間はあるか、日中無人になった場合放置できるか、病気の際は、狂犬病の予防接種は、などなどの経済的負担も覚悟しなければならない。そして何よりも愛護精神の有無が問われる。時にはセンター職員の確認の家庭訪問もあり得る、という。


  (注1)ギリシャ神話において、運命を司る神。「モイライ」と呼ばれる三人の女神で、人間の生涯を支配し、人間の運命を決定する役割を担う。

つづく

 次回はペットの社会学(5)である。この(4)おいてわれわれはより深刻なペット繁殖の過酷な実態を知った。実態を浮き彫りにして改めて問題をとらえ直す試みをして見る。

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