聖女は地に足をつけている
久しぶりに文字が打ちたかったのでリハビリ
「やっほー、おひさ」
「は?」
軽い挨拶をしたにも関わらず、呆然とこちらを見る幼なじみの顔に、ようやく帰ってこれたんだなぁと私は実感する。
ちなみに、私ことセリスタは山々に囲まれた小さな村の村娘であったが、何故か『貴女は世界に選ばれました。勇者と共に魔王を倒してください』と聖女として見出だされてしまい、魔王を倒さなければならなくなったのである。あらすじ終わり。
そして聖女となってから8年後、あれやらこれやら細かいことは省くが、仲間を集め等いろいろ無事とは言いにくいものの何とか皆で魔王は倒すことができた。
苦節8年、自分達は本当に良くやったと思う。
では魔王を倒した後どうしたかというと、勇者以外の仲間全員(一人残して)が自分達のこれからについて意見が一致していた。
古来より伝わる伝説の技、The 逃亡である。
「セリスタ!?は?何でいるの?」
「逃げてきちゃった☆」
一拍置いてようやく私が目の前に居ることを認識してくれた幼馴染みに、渾身の可愛いポーズを取る。
なぜか仲間受けは悪かったが、幼馴染みには効いてくれないかなという望みだけは込めた。
「逃げ…!?え?だって勇者と婚姻を結ぶって」
「ないない。それただ教会が王家を取り込みたいから言ってるだけだし、嫌よ。私じゃ世界が違いすぎるわ。眩しいし」
「眩しい?」
首をかしげる幼なじみに私はにっこりと笑う。
選ばれた勇者こと、この国アストニアの第二王子リュナシーク・アストニア。
ちなみに魔王を倒す旅のうちの最初の1ヶ月は彼が野営に慣れるための訓練に費やされた。
由緒正しき王族が急に野生の中のサバイバル生活で生きれるわけがない。
聖女の役割を与えられたとはいえセリスタは村娘である。生まれや育ち方で所作や価値観など諸々がそれぞれで違うことを、仲間同士で嫌と言うほど知ったのだ。
うん、無理。
夢は叶えてこそとは言うものの、もろもろの事を経験し一介の村娘にお貴族様は合わないと結論をつけた。見ただけで満足できる夢も世の中にはある。
だからこそセリスタは魔王を倒した褒美に、ちょっとのお金と自由を王家に求めたのだ。
もしかしたら手が滑って魔法が市街地に叩き込まれるかもね…なんて間違っても言ってない。言ったのは魔法使いの方だ。
ちなみに他の仲間達も魔王を倒した希望報奨は王子様以外は皆似たり寄ったりだったものの、魔法使いだけは少し系統が違っていて本人の憧れである魔術学院の教員採用だった。
何しろ魔法使い曰く、魔法使いの定職は席が少なくコネ無しで自力で就くのは難しいとのこと。
なお魔法使いは単体で山を抉れる火力を持っている。というか旅の途中に何回か抉ったほどの実績があるというのに、それでも定職に就くのは難しいのだから魔法使いとは面倒な職業だなとセリスタは思う。
兵器扱いなら各国スカウトの引く手数多らしく、魔法使いの方がドン引きだったらしい。気持ちは良くわかる。
なぜならセリスタ自身も騎士団の移動可能な回復魔法起動装置にされそうだったのだ。誰がそれをやりたいと思うのか奴等の正気を疑う。
皆もう、使われるのはこりごりなのだ。
「よく教会でも『白く輝く勇者の力は魔王を~』って言ってるじゃん」
「うん」
「多分、勇者を見つけるためなんだろうけどさ、選ばれた仲間達は常時勇者が光って見えるの。ピカピカ眩しくて鬱陶しい」
「はい?」
予想外な言葉だったのか幼なじみは変な声を出す。
「魔王を倒しても光は消えなかったから、結局仲間の誰も王子の顔知らなかったし、ご飯が不味いってベソベソするヤツに惚れようもなくない?貴方がくれた目の保護具が無かったら正直明るすぎて夜も寝れなかったわ」
「ええ…」
私の説明に幼なじみは呆れた声しか出てなかった。
世界に選ばれたとはいっても、どうやら私達は勇者基点の集団だったらしく、中心である勇者は常に光っていた。
ピカピカと朝も夜も関係なく太陽も真っ青になるような派手さで、変装しようが闇堕ちしかけようが魔王が死んでもその光は失われなかった。
まあ、そのお陰で魔王が放ってきた偽者勇者は一発でわかったのだが、当の王子からは仲間の姿を傷付けて平気なのかと後でグチグチ言われた。女々しい男である。
そういえばあの偽勇者、服装だけ一緒で勇者とまったく顔が似てなかったのだけど一体何を参考にしたのだろうか?
比較が出来なかったため今までは疑問にも思わなかったが、魔王を倒してしまったために永遠の謎となってしまった。
どうでもいいと言えばどうでもいいが、気になると言えばちょっと気になっている。
ちなみに勇者の顔については報酬を貰いに王家に言った時、城に飾っていた肖像画でようやく知った。
確かに貴族らしい感じでそれなりに整っているような顔だったが、物理的に光っているのでセリスタ的に評価はマイナスである。
いくら整っていようが見れなければ意味はない。
あんな王子様よりもずっと大事な人物がセリスタの心の中には居るのだ。
「ねえ、ヒノア。私、貴方の願いを叶えに来たの。だから一緒にこの国を出てくれない?」
「セリスタ…?」
そう言って私は幼なじみに手を伸ばす。
「隣の国のある港町にね、昔に国から勲章を貰ったほどの優秀な錬金術師だった人がいるの。あなたが昔会ってみたいって話してた人。あなたに会って欲しいって頼んだらこんなロクでもない人間で良ければって」
「それって…」
私の説明に彼は大きく目を見開いた。
幼馴染みであるヒノアは家族のことをほとんど知らない。
物心がつく前に今の家族に預けられた。
「ロクでもないなんてとんでもないわ。妬まれて家族まで殺されそうになったから失踪するしかなかったって。だから持てる財産と一緒に大事な子どもをウチに預けたんだって」
世界中を巡る旅は私には都合が良かった。
一部は許可が要るところもあったけど、どこにでも行き放題。
魔王についての調査云々と言えば、ついでに探し人も尋ね回っても怪しまれなかった。
きっと神様はこのために私を選んでくれたのだと思っている。
だってヒノアは、こんなにも真面目で良い子なんだもの。
もう少しくらい幸せになったって全然良いと思うじゃない。
というか絶対私がしてやるもの!
「ヒノア、ようやく見つけたよ君のお父さん」
小さい頃、ヒノアが自分のお金を出して私のお母さんを助けるための薬を買ってくれた事は忘れない。
ただの農民には絶対届かない高額で貴重な薬のおかげで、お母さんは助かった。弟だって生まれた。
だからずっとずっと恩返しがしたかった。
それにもう生まれた村で慎ましく生きたいなんて、もはや無理な願いだということはセリスタだって分かっている。
だって聖女認定されているセリスタには利用価値がある。
利用できるならどんな形でも…と考える人間が居ないなんてお花畑な考えは今はもう無理だ。
大事な幼馴染みを人質に取られるかもしれない可能性なんて絶対に赦さない。
奇しくも旅の中で色々な繋がりが出来た。
王子以外の仲間達も助けてくれると言っている。
きっときっと大丈夫だ。
魔法使いが作ってくれた特注品の収納鞄の紐を私は強く握り締める。
「じゃあ、さっさと行こっか」
「待って、まさか今から⁉」
「今すぐじゃなくて、準備してから行くに決まってるでしょ?」
よくあるやつを書いてみたかったのです