4話 プラス妄想壁追加される
足を舐め終わって数分も経つのに反応がない私に痺れをきたしたのか、奴から話かけてきた。
「治療おわったよ~♪大丈夫?痛みは無いようにしたはずなんだけど…痛かった?」
私に話かけていることは分かっていたが既に私は現実を逃だし廃人の世界に逃避中だ。
奴の言葉も右から左に流れ通り過ぎて行った。
この時点で私は奴の存在自体も無いものとした。
もちろん、目に奴が映っていてもあえてスルーする。
(私には見えない。私には聴こえない)ある意味オバケだ。
こんな状態の私にまだ、奴は何か色々と言っている。
「何か、君、さっきから動かないね~、あっ!もしかして、僕に見惚れてる~♪ちょっと時間はかかったけどいいよ~♪許すよ~♪好きなだけ僕を見ていいからね~♪なんてたって僕のお気に入りなんだから君は♪」
「………」
「もちろん君以外のお気に入りはいないよ~♪安心してね~僕は浮気はしないよ♪君一筋だから!」
「………」
「僕達が両思いって分かったことだし~、やっぱりここはこの間読んだ絵本の通り、王子様が眠り姫に目覚めのキスをしたほうがいいよね~♪君はすでに僕に惚れて目覚めているけどそれは些細なことだよ♪最初が肝心でしょ♪」
奴はそう言うと私の頬に手を持って行き、もう片方の手を顎に当て、私の顔を上げさせる。
正面に奴の整い過ぎている超絶美形な顔がある。
「………」
「僕の愛しい人。」
奴はいつものヘラヘラした顔とは違い真剣な表情だ。
顔を近づけてくる。
奴と私の顔の間が10センチ程になり、奴の吐息が私の唇に届いた。
あと数センチで唇が合いそうになる寸前、私は奴の鳩尾を渾身の右ストレートで撃つ。
「…つっ!?」
かなり効いたと思う。
奴は私から手を外し、鳩尾を押さえながら地に這いつくばった。
苦悶の呻き声も聞こえる。いい気味だ。
「さっきから聞いていればなに勝手なことばっか言ってるんですか!?いい加減にしてください!なんで治療で人の足舐めるんですか!この変態がぁー!?おかげで廃人寸前まで逝っちゃたじゃないですか!!それに人が動かないのをいいことにキスまでしようとするなんて!婦女暴行罪で訴えますよ!(もちろん両思いうんぬんは初めからスルーだ)」
………私は切れた。
さすがにキスまでされそうになって奴の存在を無いものには出来ない。
現実逃避している場合ではなかったのだ。
「っ!あ゛ー、凄い右ストレート持ってるね。効いたよ~。君、やっぱり変わってるね~。僕にこんなことするなんて君くらいだよ。僕の目に狂いはないなぁ~♪」
………もう一発喰らわすか?私は心の中で物騒なことを考える。
このストーカーには何を言っても無駄なような気がしてきた。
初めから分かっていたが話が通じていない。
まあ、変態と通じても困るだけだが人としてのコミュニケーションぐらいは誰か出来るようにしてくれ!むしろ教えろ!
切実な願いだった………。
「…妄想してる所すみませんが治療でなぜ足裏を舐める必要が、まさか、唾つけとけば治るなんてことで舐めたわけでは無いですよね。」
もし、その通りだったら……埋めてやる!
私の後ろには黒いものが見えているはず。
霊媒師でもいれば今の私を見たら裸足で逃げ出すぐらい私は邪悪オーラを出していると思う。
残念なことに心の中では奴を10回は埋めていた。
もちろん、生き埋めだ。
「あれ~、気が付かなかった?足痛く無いでしょ~♪僕が舐めたから治ったんだよ♪僕の唾液って人間の体には毒にも薬にもなる優れものなんだよ~♪僕の気持ち次第だけど。足動かして見たら♪」
*****
奴は信用できなかったが念のため足を動かしてみる。
………。
さっきまでの痛みが嘘のように消えている。ついでに足裏も見てみるが傷は見当たらなかった。
マジで舐めたから治ったのかよ!!
一人でツッコミをいれる。
………にしても、唾液で傷が治るなんてありえない!!本当に人間ですか!?と私は問いたい!!だが、奴はありえなくらいの美形で髪の持ち主だ。不思議な力を持っていたとしても仕方ないのかもしれない。なんてたって奴はストーカーだ。色々なものに手を染めていそうだ。黒魔術とか。のぞき術とか。ストーカー術とか。すでに私を拉致したという犯罪歴もあるのだから。
治療の仕方は微妙だけど(実際、足を舐めたのは変態だからだと思っていた。かなり、舐め方が妖しかったし、指の間まで舐められればコイツ変態だと思うのも仕方がないといえよう。)唾液しか治療の方法が無かったみたいだから仕方無い。
だからまあ、お礼……はね。一応治療して貰ったわけだし。
「ありがとうございます…」
「どういたしまして~♪どうせならせっかく両思いになったんだからお礼はキスがよかったな~♪」
………プラス、妄想癖のストーカーだ。
奴の中ではきっとどんどん妄想が膨らんでいるのだろう。
………五分後には嫁にでもなってそうだ。
「両思いになった覚えはありません。」
一応、訂正と釘をさしておく。でないとストーカー行為が進みそうだからだ。
「…、まあ~、そんな些細なことはいいよ~♪君、僕の事が好きになるし♪時間は関係ないよ♪」
………やっぱり、言葉が通じない。
何を言ってもこのストーカーには通じないようだ。
ある意味、ポジティブだ。
こんだけハッキリ好意がないと伝えても分かってもらえない。
どこでこんなに好かれたのだろうか?もしかして私のファンだったのだろうか?それが想い過ぎてストーカーまでいってしまったのだろうか?
「あなた、私のファンだったんですか?」
こんなファンは嫌だが時々奴みたいなストーカーになってしまうファンがいるのも確かだ。
一度、赤井さんとテレビ局の食堂で赤井さんのマネージャーの樹さんも一緒にランチを食べていた時に私のファンとかゆう男性が近づいてきて『司ちゃんは俺の彼女なんだ!気安く一緒に飯食ってんじゃねー!!』と言い赤井さんに殴りかかろうとしたことがあった。もちろん、すぐに警備の人に捕まえられ、大事には至らなかったが。
彼は私のことを本気で彼女と思っていたらしい。
後から知ったが一度サイン会で一緒に撮った写真をコピーして部屋中に貼っていたらしい。
現実と妄想がわからなくなってしまったようだ。
奴も彼と一緒かもと思ったのだ。
「違うよ~♪だって僕、君の事昨日知ったばっかだもん。」
「………」
昨日知ったんかいっ!!ちょっとショックだった。一応これでもそこそこ売れて来ていたはすだ。そりゃ全ての日本国民が私の事を知っているとまでは思ってはいないが十、二、三十代、はかなり私の事を知っていると思っている。
………今までは思っていたんだが………………違うようだ……………。
「僕てさ、昔から何にも執着することが無いんだよね。ほとんどの事は出来ちゃうし、それにこの顔でしょ、君は僕の髪にしか興味を示さなかっなたけど大抵の人は僕に興味を持つんだよ。で、僕は興味無いのに勝手にハーレム状態になるんだから勘弁してほしいよ。別に優しくした覚えもないんだけどね。寧ろ消したり、滅ぼしたことの方が多いのにね。そんな感じで僕は生きていることにも執着は無かったんだよ。言っとくけど、自殺志願者とかじゃないから。まあ、死のうとしても死ねないけどね。そんな僕は昨日も普段と変わらずつまらない1日が過ぎていくんだと思ってたんだ。」
「………。」
奴の表情からさっきまでの笑顔が消え、話を進めるにつれ無機質で作り物みたいな表情になっていた。
私は声を掛けれなかった。
遅くなってすみません・・・ペース遅くなっています・・・(泣)