27話 国の未来
第一騎士団団長カイルが部屋へ入って来た時から気付いていたが特に興味も無かった為、声も掛けなかった。
カイルからは何度か声が挙がったがこれも特に問題なくやり過ごした。
副長のネットが余計なことを言ったため少し苛ついたので側にあった置物を投げて遣った。
ついでにその後ろの奴も死ねばいい。
その内、副長のネットの言葉にカイルは茶々を入れてきた。
それでも気付いていない様子の副長に溜め息をこぼしたくなる。
お前、ソレでも副長かと。
気配くらい読め。
出世の話をしだせば副長は強引に話を終わらせた。
どうしょうもない奴だ。
話しが済んだところを見計らってカイルが話し掛けてきた。
驚きを顕わにする副長に更にやるせなさが積もる。
寧ろ、自分こそが害虫を飼っているのではないだろうか?
「クロイ、話がある。」
奴が何故ここに来たのかはだいたい見当がつく。
副長が手にしている例の伝令書だ。
奴の視線もそこにある。
「それには何と書かれているんだ。」
「………。」
知るか。
伝令書の内容を確認していなかった我の代わりに副長が内容をカイルに伝える。
「……すみません。俺から内容を話させて頂ます。クロイ団長はまだ確認もしていないので。」
最後に余計な一言を付け加えた副長がクロイに話している。
「この伝令書を簡潔に言えば大国の二つの国のどちらの国もが国境を越えてくる可能性があるので早急に第二騎士団はヴィルシュ正面にて備えろ。と書かれています。」
本当に簡潔に言い終わると副長は我へ向き直った。
「クロイ団長。因みにこちらの伝令書はいつ届きましたか?」
「2時間ほど前に受け取った。」
「……お前「やっはり。早々に死んでいただくべきでした。」」
「無駄な事を。」
「ええ、俺には無理でしょうけども、ここには第一騎士団団長のカイル団長がいられますから。」
「おい。」
「………。」
「さあ、カイル団長も何か言ってやってください。こんな人が第二団長では組織としては困るでしょう?それに人としてもすでに腐りきっていますから。なんせ害虫ですし。」
『さあ、さあ、どうぞどうぞ。』と副長はカイルを前に出るよう押し出している。
実力の差からは申し分ないが2メートルを超えた男が自分より数センチ低い男を押している図はハッキリ言って気味が悪い。
副長に舞い上がっている町の娘達にこの光景を見せたらさぞや蜂の巣のように逃げだすだろう。
寧ろ反対に嫌悪の対象にすらなりえる。
目の前の光景から目を逸らしながら我関せずに部屋の窓辺に置いてある自分専用の机に向かう。
後ろから「おい!」や「ちょっ、ちょっと待ってください。」と聞こえたようだが気のせいだ。
机に置いてある時計を見れば時刻はすでに1時。
とっくに昼時は過ぎていた。
「そろそろ食事にする。」
「……お前。それ本気で言ってんのか。」
「勿論だが。」
「カイル団長。やっぱり害虫でしょう。」
「……まあ、否定はしないが。それよりもクロイ、お前は早く団員を集めてヴィルシュ町へ向かえ。」
「なぜ、我が行かなければいけない。」
「お前がこの国の騎士団長だからだ。」
「………。」
「ああ。それとクロイ、アイツの居場所を知っているか。」
「あの総長の事だその辺にいるだろう。」
「………。その伝令書は国衛大臣直々の伝令書だろ。」
「起こるかどうかもしれない戦の準備をしろと?馬鹿馬鹿しい。そんなものは戦が始まる時にでも言え。」
「それでは遅すぎるだろう。もし、戦が始まったら一番被害を受けるのは民だ。民を見殺しにするつもりか。お前は。」
「……誰もそんなことは言ってない。」
「だが、そういうことになるだろう。結果的にな。」
「……チッ……この借りはあのオヤジに支払わせてやろう。」
「それは好きにすればいいさ。」
話は終わりとばかりにカイルは部屋を出て行くカイルに声を掛けた。
「おい、カイル。」
「ん。なんだ。」
「ルイジーアナ森はどうだった。」
「森の4分の1が無くなっていた。」
「……そうか。」
「ああ。」
それで終いとばかりにカイルは部屋から出て行った。
「副長。急ぎ団員達に装備を急がせ、騎宿舎前に集めろ。」
「……相変わらず仲がいいのか悪いのか分かりませんね。」
「………。」
「……急ぎます。」
副長ネットも部屋から出て行った。
一人になった部屋でクロイは伝令書を確認する。
「こんなに我を働かせるとはいい度胸だ……。覚えておけ。」
*****
ヴィルシュ国には王以外の王族は存在していなかった。
そして現王の御世継ぎはまだいない。
現王が討たれるようなことにでもなれば次の王位継承者はこの国からは消える。
そして国の存在自体すら危ぶまれ、最悪は国自体が無くなり、国境も無くなるだろう。
側近の誰かが王に成り代わることは出来ない。
そんなことをすれば神の怒りを買い国が滅びると神話では言われていた。
嘘か真か定かではなかったがルイジーアナ森が消えた今となっては真実と言えるかもしれない。
ルイジーアナ森が例え4分の1だろうが消える日がこようとは誰も思わなかったはず。人の仕業では出来ない。
神の存在が薄い現国。
人々からは神話すら忘れ去られ廃れつつにある代物。
そんな現時に神の存在が証明されるかもしれない今、王族の血を引いているのは今では現王のみとなっていた。
この国の王族は王自身ですら愛妾を作らない。
生涯ただ一人のみ。
特別、国で決まっているわけではなく王族は一人を深く愛するがゆえ他にいかないらしい。
そのため、名ばかりの愛妾がいても子が出来るはずもなく、王に会えるのは初めの顔合わせのみ。
それで子が出来るはずもなく、後は実家に帰れるはずも無い愛妾は後宮にて好きに暮らすしか生涯がない。愛妾を哀れに思った王の側近達が200年前の王から愛妾制度を廃し、今では王は生涯一人しか娶らない。それゆえ王族の人数も年々少なくなり、今では王一人となってしまった。
そのため今の王に愛妾を宛がおうと側近達は躍起になっていた。
王に女の子供が出来ればそれは政治の道具。
もしも男なら次期王と控え。
それが分かっている現国王は今年で30歳になったのにもかかわらず嫁の一人も愛妾ですらいなかった。