25話 第二騎士団の団長と副長
すみません。一切主人公が出てきておりません。
それでも宜しい方のみ読まれる事をお勧めいたします。
カイルが第二騎士団の騎宿舎へ着くと騎宿舎の中から『ドォォォン』と何かが壊れるような物音が聞こえた。
カイルは特に気にすることも無く目的の部屋へ向かう。
4階建ての騎宿舎の最上階4階の奥の部屋へと足を進めるにつれ物音と人の怒鳴り声が大きく響いてきた。
だが、騎宿舎にいるはずの騎士達は部屋から出てくる様子も無く、すれ違う騎士もさして気にした様子は見せなかった。
ここでは日常茶飯事の光景だった。
目的の部屋の前に着けば物音と怒鳴り声はその部屋の中から聞こえてくる。
だめもとでノックをしてみるが返事は無く、怒鳴り声が響いている。
このままでは埒が明かないと部屋の主の了解も無くドアを開けた。
「ふざけるなぁー!!!!!!」
「知らん。」
「知らんじゃないでしょうがっぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
「今、知った。」
「だから、いつもいつもいつもいつも言ってるじゃないですかっ!!!」
「何をだ。」
「報告、伝令書は速やかにこちらに引き渡せっていつも言っているでしょうがぁぁぁぁぁぁ!!!」
「確認もしていないのに渡す馬鹿がどこにいる。だから消えろ。」
「馬鹿はあんたですよ!!ええ、もう上司でもどうでもいいですよ!!あんたは馬鹿です!!」
ピクッ
「………なんだと。」
「馬鹿って言ってるんですよ!!」
「貴様、上司に向かっていい度胸だ。死んでも文句は言えんぞ。」
「あんたが馬鹿なのは否定しませんが文句は言いますよ!!」
「貴様、覚悟はいいか。」
言うや否や、テーブルの上に置いてあった銀製の竜の置物を躊躇せず副長ネットの頭へ投げつけた。
当たればたんこぶでは済まされない。
打ち所が悪ければ最悪死ぬことも考えられる銀製の凶器が派手な音を立ててタイルの床に転がった。
「なぜ避ける。」
「アホですか、避けなかったら痛いじゃないですか!?」
「死ねるように投げたんだ。有り難く死ね。」
「殺されるのに有り難る人なんていませんよ!!」
「では、貴様が第一号だな。喜べ。」
そして、今度はソファー横のサイドテーブルに置いてあった山羊と熊が合体した体は熊で顔が山羊の2足歩行らしき生き物の置物が凶器と化す。
びゅーーーーんドスッ
山羊らしき顔の生き物の置物の鋭い角が副長ネットの後ろの壁に深々と突き刺さった。
「……なぜ、避ける。」
「まだ、死ぬ予定ではありませんから、それよりもこの伝令書どうするんですか!」
「問題ない。」
「どこがですかぁぁぁぁ!!問題有りまくりですよ!!!」
「じゃあ、返せ。」
第二騎士団長クロイが寄越せと副長ネットに手を差し出す。
「……一応お聞きしますがどうするつもりですか。」
「燃やす。」
「燃やしてどうするつもりなんですか。」
「どうもしない。燃やして終わりだ。」
副長ネットは「そうですか。」と急に笑顔になった。
第二騎士団副長といえばヴィルシュ国で生を受けたが母親がイヴィン国出身なため身長が高く、2メートルもあり、髪が淡い黄金色とイヴィン国の特徴をしている。
それに加え秀麗な顔立ちと怜悧で空のような蒼緑の瞳なため町では王子様と噂されている程の顔立ち。
そんな秀麗な顔に爽やかさを更に加えた目の前の男は笑顔で国から騎士団に入隊する時に作った自分唯一の一振りの剣を鞘から引き抜こうとしていた。
「……お前、それでどうするつもりだ。」
「ええ、これから自分に害をもたらす害虫を駆除をしようと思いまして。」
「ほう、害虫とは。」
「ほんとに嫌な害虫なんですよ。騎士の風上にも置けない虫なんですよ。これはもう駆除しかないじゃないですか。」
すでに目の前の害虫もとい上司を斬る気満々な副長ネットは一言も無く、物音も立てず、素速い動きで相手との距離を詰めると脇腹から上へ凪払い斬りつけた。
*****
ネットの腕には剣が肉を斬った時のあのめり込む感触が伝わって来ず、空気を切った。
既にクロイ団長はソファーには居なかった。
副長ネットは後首の産毛が逆立つ嫌な感じを受け、素速く横へ避けた。
直ぐにヒュンっと風を切るような音と風圧が副長ネットが今までいた場所から発生した。
発生主は害虫上司のクロイ団長しかいない。
「さすが、腐っても上司ですか。」
副長ネットは溜め息をこぼし再び剣を鞘にしまう。
それを見届けてから、団長クロイも剣を収めた。
「………つまらん。もう、終わりなのか。」
恨めしそうな顔で後ろを振り返ると勝ち誇った顔の男がこちらを見ている。
「ええ、勝算は今の一撃だけでしたから。」
「……お前は騎士として終わっている。」
「………。」
「何時まで経っても副長止まりだろう。」
「別に俺は出世欲は無いので構わないですよ。」
この話は終わりとばかりに再度副長ネットが件の伝令書を目の前に突き出そうとしたら二人しかいなかったはずの部屋から聞きなれた声が挙がった。