24話 帰還
陽の光が顔に当たり眩しさで目を覚ました。
寝る前に寝る方向を反対にすればよかった。
足下には陽が差していない。
『あ゛~っ』と思いながら寝汚くゴロゴロと所狭しと色々な物が置かれている物置き部屋と思われる6帖程のスペースを左右に転がった。
……だが、惜しいかな。
左右に転がっても陽の光は顔に当った。
「……もう少し寝かせて下さい。お願い致します。ひかり、日光様。」
誰にも届かない願いだが要は気分の問題だ。
もしかしたらという淡い思いも叶うはずもなく、司は渋々と体を起こした。
「あ゛~あ。起きちゃた……はぁ……。」
頭をボリボリと掻きながら周りを見渡すが寝る前と変わらず狭い部屋。
元の世界には帰れなかったようだ。
再び大きな溜め息ひとつ。
ぐ~ぐ~というお腹の虫も鳴いた。
両手を上にして背筋を伸ばした。
『う゛~ん』とある程度伸びを繰り返しある部屋で失敬した大きめの布を畳んで部屋の隅に置き、そろそろと部屋から出た。
家人は帰ってきているだろうか?
前後左右を隈無く見渡しながら泥棒の如く足音たてずに一階へと向かった。
向かうは昨日置いといたパスタのある部屋。
2階に人の気配は無く1階のパスタの部屋のドアの前で立ち止まる。
ヨーロッパ風のアンティーク調のこの家。
勿論、目の前に縦に大きくドンっと佇むドアも例に洩れずアンティーク調。
厚さもあり開く時には少し腕に力も入る。
中の様子も伺える隙間も無く聞き耳を立てても話し声すら聞き取れない。
分厚いドア。
この凝ったアンティーク調の家には文句は無いがドアくらいは軽い素材にして欲しかった。
隣のキッチンから食べ物を運ぶ時両手が塞がっていたら入れないじゃないか。
そしたらまたキッチンへ戻って一つを置いてこなければならないじゃないか。
この家に女の人がいないからいいけれどいたら文句タラタラだろうな。
私は悶々とドアの前に佇み余計なことまで考えた。
*****
昼過ぎに調査に出ていたカイル率いる第一騎士団がルイジーアナ森から帰還した。
カイルは団員達に騎宿舎へ戻っているよう言い、自分は城へ向かった。
馬の複数の足音と嘶き声。
ジャイルはカイルが帰還したことを知り騎宿舎から外へ出た。
案の定ルイジーアナへ行っていた団員達が馬を引いてこちらへ向かってくる。
先頭にいた団員にルイジーアナ森のことを聞くがルイジーアナ森が消えたこと意外で何も無かったとの事。
団員達を見ればいつもの3人が見当たらずカイルがルイジーアナ森に残してきた事も窺えた。
団員達に馬を休ませ休憩に入るよう促し、ジャイルは騎宿舎へ入る。
後はカイルからの報告を聞いて休めますと自分の部屋へ戻った。
カイルや団員達から『おかしい』と言われる自室に。
*****
「カイル団長、ご苦労だった。……そうか、結界は破られた様子は無いか。」
「はい。」
「わかった。ジャイル副長には休むよう伝えてあるがカイル団長も休みを取ってくれて構わん。当分はルイジーアナ森に関してはそのままで問題ないということだ。だが、直ぐに動けるようにだけはしといてくれ。他の騎士団には国衛大臣の方からすでに伝令書が行っているはずだ。第一騎士団にも後ほど届くと思うがそれまでは休めるはずだ。ご苦労だった。」
王は言い、カイルに退室するよう促した。
カイルは一度頭を下げてから謁見の間を出た。
直ぐにその足で第二騎士団の騎宿舎へ向かった。
*****
「団長!クロイ団長。いいかかげんにしてください!」
「………。」
「無言はやめてください。それよりも本当にいいかげんにしてください!報告が届いていません!」
「うるさい。だまれ。消えろ。」
「何がうるさいんですか!だまるわけないじゃないですか!それに俺が消えたら困るの団長でしょうがっ!」
「………伝令書だ。わかったならさっさと消えろ。うるさい。」
無言の圧力全開で上からの伝令書を一つまみし、ヒラヒラとさせ、ソファーに腰掛けているは銀色に見える色素の薄い青い髪を後ろで一つに無造作に括りつけ、男らしく精悍な顔立ちの男。
瞳の色はヴィルシュにしては珍しい紫瞳。
鷹のように鋭い目元だが、今は更に鋭さを増しているため近寄りがたい怖さがある。
鼻筋も高く、分厚い唇に引きしまっている頬。
細身に見えるが騎士団の黒い制服の上からでも分かる厚みのある胸板と腕。
足も引き締まり、焦げ茶の膝丈まであるブーツにインする黒いパンツの騎士の制服がよく似合っていた。
「何を言ってるんですか!それは大事な伝令書ですよ!」
「知っている。」
「だったらもっと早く渡してください!寧ろ着たらすぐに渡してください!」
「まだ、確認していない。だから消えろ。」
「消えません!早くそれを渡してください!団長に確認させてたんじゃ何時間後に報告が来るのか分かったもんじゃありませんっ!」
寧ろ報告すら来ない可能性の方が高い。そんな団長から伝令書を引っ手繰ると副長のネットは急いで報告書を読む。
伝令書を読むに連れ副長のネットの顔色が青くなっていく。
読み終えた頃には紙の様に顔は白くなり、ふるふると伝令書を持つ手が震えていた。