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23話 腹黒か?全て黒なのか?

 


 誰もが声を発することの無い空間に『はぁ』と場違いな溜め息が執務室の氷った空気に響いた。

 王の左席に座り事の成り見ていた宰相エンデオ。

 齢60歳という年齢ながら立ち姿、座った姿すら姿勢正しくきりっとしており実際の60歳という年齢には見えず。40代でも軽く通るくらい若い容姿をしていた。

 髪の毛も白髪が混じることなく青みが増しており、額を出し後ろへ流されている。

 目許はすこし吊り上っていたが彼の精悍な顔にはあっていた。

 一見して宰相などの役職には見えず、どちらかといえば騎士団のお偉いさんと言われた方がしっくりくる男だった。


「ガレッド外務大臣殿、あなたの言いたいことは分かります。総長殿の存在は他国への牽制になる事で我が国への関心、干渉が違うことは分かります。ですが、総長殿、お一人が抜けたからといってなんだというのです?それともあなたは総長殿がいなければこの国の兵力は他国に劣っているとでもいうのですか?そうではないでしょう。総長殿が何らかの理由でいなくなる時だって、もしかしたら不慮の事故で亡くなる可能性だって有るのですからそれを踏まえて然るべき外交をなさるのが貴方の腕の見せ所でしょう?それに総長殿がいなくても他国からの侵略を防げる騎士団を構成すべきです。まさかと思いますが、我が国の騎士団は総長殿の一騎当千の構成では無いですよね。国衛大臣のジルクロード殿。」


 現宰相エンデオの辛辣な言葉と冷淡な視線に晒され、外務大臣のガレッドは口を噤む。

 外務大臣の隣に座っている国衛大臣ジルクロードは顔色悪く、汗を拭き取っていた。


「えっ…、いやっ、だっ大丈夫だ…。ああ。勿論、総長一人が欠けたとて我が国の騎士団に支障ない。」


「それを聴けて安心しました。」と再び現宰相エンデオは外務大臣ガレッドに視線を戻す。


「ああ、それと外務大臣殿。あなたはもう少し、顔の筋肉をどうにかしたほうがいいですよ。そんな顔の筋力の緩みでは、我が国の考えが全て他国に丸分かりです。それにすぐに冷静さに欠ける性格も外務大臣としてどうなのでしょう?そろそろ退臣を考えたらどうですか。」


「なっ!?」


「ああ、それと貴方が退臣したら次期外務大臣にはシレール家からではなく、一般からも公募者を募り、それなりの試験、面接をするつもりですのであしからず。勿論、シレール家の方々も試験を受けて下さって構いませんよ。外務大臣ガレッド伯の御子息様やガレッド伯爵、自ら目に掛けている者でしたら勿論、逸れなりの結果だと云うことは分かっております。ただ審査は公平にさせて戴きます。私はガレッド伯爵が推薦した者は必ず良い結果を出してくれることと思っていますよ。」


 悠然とした微笑をガレッド外務大臣に向け、宰相エンデオは口を閉じる。


 宰相エンデオの余りの発言に再び場の空気が凍った。

 誰一人、口を開こうとはせず。王ですら目線を在らぬ方へ向けていた。





 時間にしたら5分も経っていないだろうが政務室にいた人物たちには何時間も経ったように感じていた。

 宰相エンデオを覗いては。

 その凍った室内の中、しびれを切らしたのか、ある意味、空気が読めたのか、読めなかったのか声を出した強者がいた。


「王、本日は失礼ながらこの辺で退室しても宜しいですか?朝から体の具合が不調でして…後日、他国との案件をお持ち致します。」


「あ…ああ。分かった。」


「失礼します。」とガレッド外務大臣は普段の悠長な貴族然とした動きが嘘のように素晴らしく素早い退室をした。


 ガレッド外務大臣が退室すると直ぐに宰相エンデオから辛辣な言葉が掛けられた。


「アレでよくいままで他国との外交が出来ていましたね。寧ろ、他国は我が国の事を侮っていたと思う方がしっくりきます。しかも、体調管理も出来ない大臣なんてあり得ません。王、早めの外務大臣の退臣、降格を検討したほうが宜しいかと思います。」


 急に話を振られた王は慌てふためく。


「え…ぁ…そ…そうだな……。」


「分かりました。」


「?」


 何が『分かった』なのか、解らず、皆、宰相エンデオを見る。


「王の承諾を得たことですし、この件に関しましては早急な対応をさせていただきます。」


「いいですね。」と宰相エンデオは有無も言わさぬ笑顔を王に向けた。

 それはもう素晴らしい邪気のない笑顔で………とこの場にいた全員はあとで語ったという。

 いつ王が承諾したのかと。

 そして王自身も覚えの無い承諾に戸惑っていた。


「……だっだがな、本人の承諾無しに退臣や降格させるのは問題ではないかな……エンデオ殿。」


「ああ、それならご心配に及ばずとも何とか成りますので大丈夫ですよ。」


 邪気の無い笑顔のまま答えた宰相エンデオに皆の心の声は統一した。

『何とかとはどうするのだろう』と。


「……まあ、外務大臣の件に関しては後日、本人を交えて再び議会で検討しようではないか。それよりも今はもう一つの問題が残っているだろう。神官長ウランシード殿、ルイジーアナ森の森が消えた時にいた女の言っていたという神の啓示をどう捉える?」


 王の真剣な声音に釈然としないながらも宰相エンデオは口を噤み神官長を覗った。

 この質問にはこれからの国の行く末、如いては王位継承問題へ発展する虞もあった。



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