22話 消えたもの?
明け方、これから日が差すという頃合でカイルは第一騎士団を連れルイジーアナ森へ向かった。
薄暗く、霧の掛かるカミ湖から見えるルイジーアナ森。
カミ湖と奥のルイジーアナ森、この二つの湖と森が合わさっている風景を神々が作った栄華の傑作と人はいった。
まるで御伽噺に出てくる妖精の棲家。
ほとんどの芸術家が一度は筆をとる湖と森の色彩風景。
それが今ではその面影はなかった。
カミ湖に沿って垂直に広範囲で森の一部が消えていた。
ルイジーアナ森が消える直前までカミ湖にいた人々の話では音と共に一瞬で消えてしまったルイジーアナ森。
木の残骸もなく、ただ消えた。
明らかに人間に出来る範囲を超えていた。
カイルは団員達にルイジーアナ森の中には入らず手前までの詮索を命令した。
「どうだぁー!何かあったかぁー!」
「いえー!特に何も変化は見当たりません。」
「こっちも異常ありません。」
「………。」
「魔物が出てきた様子も見受けられません。」
「結界も破れた様子もなく縮んだようです。」
「………結界というのは伸び縮みするものなのか?」
「………わかりません。」
「そうか。他に何か変わったものとかは見つかったか。」
「無いですね。」
「こちらも同じです。」
「………。」
「団長、特に何も見当たりません。ただ、森が無くなった部分に広大な穴が空いたくらいでいつもと変わらないルイジーアナ森のようです。」
「結界以外変わった様子はないか。」
ルイジーアナ森から魔物や魔獣が出てくる様子もなく、ルイジーアナ森の結界が破れている様子も見られなかった。
ただ、森がかなりの範囲で無くなっているだけだった。
他国からの侵略の心配はなさそうな範囲で一応一安心しながらカイルは団員の中でも精鋭の3人をカミ湖手前の防壁に残し、ヴィルシュ城へ戻った。
*****
「神官長、女の言っていることは本当だと思うか。本当にクラウンド神が降臨したのか。」
王の政務室には神官長を始め、次期宰相のルドルフ、現宰相エンデオ、財務大臣サイト、国衛大臣ジルクロード、外務大臣ガレッドがいる。
重臣たちが王を中央に左に次期宰相のルドルフ、現宰相エンデオ、神官長ウランシード。
右に財務大臣サイト、国衛大臣ジルクロード、外務大臣ガレッドと3メートル程のテーブルに左右に分かれて席に着いていた。
勿論のこと、政務室にある3メートルのテーブルも椅子も名のある職人の最高傑作と言っても過言なく、テ-ブルの足には植物の蔦が絡んでいるように見える繊細で細かい模様の彫り。
テーブルの表面は人の顔が映るくらいピカピカに綺麗に磨かれていた。
そのテーブルの面に映った主々の顔は眉間に皺を寄せ、皆が険しい顔をしていた。
「その女性が見た夢見が本当のことかどうかは判りかねますがルイジーアナ森でしたらクラウンド神の仕業でしょう。」
「何故だ。」
「1300年前の文献によればクラウンド神が降臨された際に何等かの影響をルイジーアナ森は受けると記載されている箇所があります。ルイジーアナ森は神が掛けた結界に護られており、人の力でどうにか出来るものでもありません。現在のルイジーアナ森が無くなった部分の大きさを踏まえても人力の及ぶ所業ではございません。」
「…例えばだが、ルイジーアナ森に棲んでいる魔物の仕業とは考えられぬか?」
「一概にないとは言えませんが、そこまで魔力を持った魔物だった場合、ルイジーアナ森から既に結界を破って出てきていてもおかしくありません。」
「そうだな。その他の見解はないか?」
王が他の重臣に視線を向ければ「宜しいですか」と外務大臣から声が上がった。
「ルイジーアナ森に関しましては特に異論は有りません。我々でも、過去の書物を読むことで神の所業で有る無いしか判別出来ません。それに、まだ視察に出ている第一騎士団も戻って来ていないようですし、ルイジーアナ森のことは今はそれからでも大事ないと思います。他国に関しましては先ほど国衛大臣のジルクロード殿にいつでも動けるよう、示唆致しております。そうですな、ジルクロード殿。」
「総ての騎士団の準備は出来ております。……ただ、騎士総長のみが不在でして………。」
「……何ですと。」
「……一応、王には総長がいなくなった時点で報告させて頂いていますが…」
「ちゃんと報告は受けている。」
「では、何故!」
「それは、何故捜さないのかと言う意味か。ガレッド外務大臣」
「当たり前です!」
「必要性が無いからだ。」
「ですから、何故ですか!」
「先日、総長から懇願書を受け取った。内容はカナン町沿いの防壁に穴が空いているから修理して欲しいという内容であった。だが、その修理までには早くても半年以上掛かると伝えた。とたんに総長が消えた。ジルクロード国衛大臣、これをどう思う?」
「………総長はカナン町に……」
国衛大臣は憤りと呆れが混ざったなんとも形容しがたい顔をした。
逆に隣に座っていた外務大臣ガレッドは顔を赤くし、目に見えて憤慨した様子が窺えた。
「どういうことです!居場所が分かっているなら、何故動かないのです!もしも今、他国が攻めて来たらどうするおつもりですか!!」
「どうするも何も戦うまでだろう?」
「でしたら早急に総長殿を呼び戻して下さい。兵力は在れば在るほど他国にもわが国にとっても有利なのですから。それに総長殿はわが国の英雄とも言える人物。また他国にとってもそれと同じことが言え、他国への牽制にもなるでしょう。」
外務大臣のガレットの高圧的な態度と共に場の空気が凍ったように静寂に包まれた。