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20話 屋台のオヤジと私③

 


 屋台のオヤジは私を肩に座らせて色々なところを周ってくれた。

「知っている所に出たか?」「見知った場所はないか?」と何度も聞いてきてくれた。

 その度に私の胸が痛んだ。

 私にはこの世界に帰る場所なんてない。

 それに両親は昔、交通事故で亡くしている。

 例え生きていたとしてもこの世界じゃ会えるはずも無い。

 私はこの状況をどうしようかと悩んだ。

 今更親はいませんなんて2時間も私を肩に座らせたまま私の家や両親を真剣に探してくれている人に言えるわけが無い。


 さて、どうしようか。




『う゛~ん。う゛~ん。』と悩んでいると前方の方からドタドタドタと言う複数の動物が走る音がした。なんだろうと顔を上げると中世の騎士らしき格好の馬に乗った人たちが駆けてきていた。

 屋台のオヤジは私の腰を両手で掴み私が肩から落ちないよう固定すると急いで騎士の人たちに道を譲った。

 こんなに建物に寄らなくてもいいのに。

 走る屋台のオヤジの頭に両腕を回し、揺れに耐えた。

 騎士達が居なくっても屋台のオヤジはまだ動こうとしない。


『どうしたんだろう?』


 屋台のオヤジの顔を覗いた。

 屋台のオヤジの肩に座っているためオヤジの顔は近過ぎるくらい近くにあった。

 屋台のオヤジも私のほう驚いた様子で見ていた。


『何かあったのだろうか?』


「どうかしましたか?」


「………いや。なんでもねぇ。」


 そう言った屋台のオヤジの耳がなぜが赤くなっていた。

 どこか具合でも悪いのだろうか?


「それよりもお嬢ちゃん、両親に似た人や見たことある景色だったら遠慮せずに言えよ。そうすればすぐにでも家に帰れるからな。それにこんな遅い時間じゃ両親もさぞ心配しているだろうよ。」


 そう言うとまたもや私の頭をわしわし撫でた。

 屋台のオヤジは元気付けてくれているつもりだろうが私の髪、今ひどい事になっていませんか?

 そして私の胸もチクリと痛んだ。



 更に1時間経過してしまい、時刻も深夜になっている。

 屋台もちらほら片付けている処も所々ある。

 このままでは屋台のオヤジは私の家が見つかるまで探してくれそうな勢いだった。

 私はそんな迷惑を掛けるわけにもいかず、再び嘘をつくことにした。


「あっ!」


「どうした?」


「ありました!」


「お嬢ちゃん?」


「家が見つかりました!」


「おっ!そうか。見つかったか。良かったな。お嬢ちゃん。」


「はい!ありがとうございます!」


「いいってことよ。困った時はお互い様だからよ。それよりもお嬢ちゃん、家はどこだ?近くまで送ってくからよ。」


 屋台のオヤジは人好きのする笑顔で私が嘘を吐いた方角へ足を向けた。


「お嬢ちゃん、家はこっちで大丈夫かい?」


「大丈夫です。」


 そう答えながら私は内心こっちの方に適当な家がなかったらどうしようと汗を流した。

 私の指示にて私たちは屋台通りを抜け、噴水がある広場にでた。

 広場の周りには住宅が存在していたがどこもかしこも広く大きい家々ばかりでさすがに自分の家と言う気にもなれず、広場も通り過ぎた。


 広場を通り過ぎ、しばらく歩くと住宅街も抜けて更地に出てしまった。

 私は焦りながらも近くに民家などがないか探す。

 屋台のオヤジには「まだ、真っ直ぐです」と言うのを忘れずに。

 時間にして5分くらいした後、道の先にヨーロッパ式の庭のついた可愛らしい一戸建てが目についた。

 私はすかさず「あそこです!あそこ!」と指を指し、屋台のオヤジに教える。


「お!やっと着いたか。」


 私は「すみません」とぺこりと御辞儀をした。


 屋台のオヤジは笑顔で私の頭をわしゃわしゃ撫で回した。

 私の頭は既に鳥の巣ですね………。


 屋台のオヤジは私の頭を撫で回していた手を止め「ところで家はどこだ?」と聞いてきた。

 私は?となりつつ、この更地に一件しか見当たらない一戸建てを指した。


「あれです。」


 屋台のオヤジは私が指した家を見ると怪訝な顔をした。

 何かまずかっただろうか?

 私は内心私の家じゃないことがばれたかとおもいながらも、「家まで送って下さりありがとうございます。」と平然とお礼をした。

 女は度胸だ。

 屋台のオヤジは怪訝な表情をしながらも肩に乗った私の腰を持ち上げ地面に下ろしてくれた。

 私はもう一度「ありがとうございます。」と言い明かりがついていない家の庭へと足を踏み入れた。

『勝って知ったるなんとやら』だ。

 私の計画がバレるには「①家に家人がいる。」「②家に入れない。」の今のところ2択だけだ。

 この2つさえクリアしてしまえば後は何とかなると思う。

 私は後は運命に任せ家のドアの前に立ち後ろを振り返る。

 再び、お礼を言うために。

 私がお礼を言おうとするより早く屋台のオヤジが「お嬢ちゃん、両親はどうしたんだ?」と聞いてきた。

 私はそこだけ真実を口にした。


「両親は私が小さい頃に事故で亡くなりました。」


 屋台のオヤジは「…そうか。」とだけ言い、私に中に入れと手で合図を送っている。

 どうやら私が家の中に入るまで見届けるらしい。

 私は最後に「ありがとうございました。とても助かりました。」と深々と頭を下げた。

 そしてここからが正念場だ。

 私はドアへ向き直りドアノブを回したが開かない。


「………。」


 ヤバイ…。

 どうしよう…。

 鍵とかどこかに隠してないかな…。


 私はドアの周りを見渡した。


「………。」


 ………あった!!!


 でも………なんで植木鉢に鍵が刺さっているんですか?


 ドアの横に置いてあった鉢植えの一つに植木の変わりになぜか鍵が刺さっていた。


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