17話 神の使い?
カイルは王命に従い、ジャイルに第一騎士団を集めさせ急遽森へ向かった。
カイル達がヴィルシュ国の南端にあるカナン町を抜け、カミ湖からルイジーアナ森へと続く橋の境にある防壁前まで近づくと防壁の上にいた監守兵がこちらに気付き、魔法(研究)省作の『ライトもどき』を振って留まるよう合図を送ってきていた。
何か問題が発生しているらしい。
カイルは副長のジャイルに先に行かせ状況と報告を指示し、自分達はその場に留まった。
騎宿舎から此処まで休憩も取らず急いで駆けてきたが時刻はすでに深夜を回っていたため、馬を休ませる頃合だった。
他の騎士にも休憩の指示を出し、自分も馬から降り、ジャイルを待った。
10分ほどして防壁に隣接する細長い建物の中からジャイルが出てきた。
それに続き、監守兵と女が一緒に出てきた。
ヴィルシュの国はカミ湖が防壁の外にあるため市民はいつでも通行証などがなくても防壁の外へ出られることになっていた。
カミ湖を過ぎるとルイジーアナ森があり、ルイジーアナ森がこの世界の半分を占めており、森の中には猛獣、魔物たちが多く生息していた。
そのルイジーアナ森を気高きグラデュオン山脈などの山々が周りを囲んでおり他国からの侵略は正面からのみしか適わず、市民の安全は森に自ら入らなければ守られていた。
ルイジーアナ森からは魔物や魔獣、猛獣が出て来れない。
この世界が作られた時に神がルイジーアナ森に結界を張り、人間のために中から魔物たちを出さないようにしたと神話ではされていたが本当かどうかは分からない。
実際、人間は森へ入ることが出来るが森から帰ってこれる奴は少ない。
騎士団の中でも選りすぐりの精鋭隊で森へ入ったとしても半分が生きて戻ってこれるか怪しいところだった。
それぐらいルイジーアナ森は危険な場所であり、そんな危険を冒してまで森の中を進んでヴィルシュ国へ侵略をしに来る国なんてありえなかった。
この世界の人間の認識としてルイジーアナ森は人間を寄せ付けない森としてただ世界に在るだけの物だった。
ジャイルはカイルへと駆け寄り、今聞いたことの報告をした。
「団長、大変な事になりました。監守の隣にいる女性ですがナイルという名前だそうです。こちらで夕刻頃に保護したとのことです。彼女が言うには『自分は神の使いです』とのことです」
「………本当なのか?」
「本当かどうかは分かりませんが監守兵によれば、夕刻頃『ゴー』という音と共に一瞬にして森が消え、森の入り口だった所にいたのがあの女性とのことです。」
「町の住民ではないのか?」
「彼女はヴィルシュ町の住民だそうです。」
「………では神の使いではないだろうが。」
「彼女が言うには夢の中でお告げが有ったと言っています。」
カイルはジャイルから視線を外し女を見た。
女はヴィルシュ国の大抵の民と同じ服装だったが、胸が豊和なのを強調しているのか胸元の服が少し開きぎみだった。
髪も国の大抵の民と同じ特徴のある水色をしていた。
水色の髪は腰の長さまでウェーブがかかっており、鼻が高く美人顔。口端横にある黒子がなんともいえない色気を出していた。緑色の目が少し釣りあがりぎみで気が強そうな印象を受ける。『夢でお告げを聞いた』と言うぐらいだから巫女っぽいのを想像していたが女は巫女とは正反対の男を虜にする商売などの女、娼婦ようなの印象を受けた。
「女、本当に神のお告げを聞いたのか?」
「はい。昨日の夢の中でクラウンド神様が出てこられ私に『お前は神の使いだ。明日、ルイジーアナ森を消して見せよう。そしたらお前は神の使いとして森に赴き、国にて手厚く持成されているがいい。そして、時が来た暁にはお前は神の巫女となりこの国を支える柱となれ』とクラウンド神様は仰られ消えてしまわれました。私も夢の中の出来事は半信半疑だったのですが一応ルイジーアナ森へ赴いた次第で、夕刻頃森が無くなったので神様のお告げは本当でした。それで監守さんにヴィルシュ王への目通りをお願いいたしていた次第です。」
女は感極まった様子で顔に朱がさし、目が潤み始めていた顔を伏せた。
「そうか。」
カイルは肯き、傍にいた騎士に伝令として先に城へ向かわせ、ジャイルには女と共に城へ向かうよう指示し、自分は残りの騎士団と共に夜が明けてからルイジーアナ森へ向かう事にした。
この時、下げた顔の下で女が口端をつり上げ、ほそ笑んだことは誰も知らない。
*****
3時間前に遡る。
「やっと、辿りついた。」
私は目に前に見える建物に感動していた。
あれから「まだまだ明るいから平気だろう」と幾度となく休憩時間を取ってしまい、最初の2、3時間で到着計画から大分ズレてしまった。
そして2時間前に急に辺りが暗くなり始めてしまい急いで建物を目指してきた。
幸い建物らしき物から明かりが見えていため、目印に成り、暗くても真っ直ぐ進むことができた。
そして今、目の前には湖があった。
湖のさらに前には目指してきた建物があり、人の気配もしていた。
周りを見渡しても橋らしきものも人らしき人も見えず、私はこの湖をどう渡ろうかと思案した。
全体的にこの湖を見ると建物の周りを囲んで湖が出来ているらしく、建物までの距離も5メートル弱は見て取れる。
やはり渡るには①在るかもしれない橋を探すか、②人が来るのを待つか、③泳ぐかの3択しかないのかとため息がでた。