13話 魔法の水筒
奴は私に謝ると腰に下げてる鞄から再び、アルミ製の水筒を取り出し、私へ『はい』と差し出した。
私はおもわず差し出されたために反射的に受け取ってしまった。
中身は空なのに。
私には奴の心理が分からなかったが、今受け取ってしまった水筒を奴へ返そうと奴へ差し出そうと-----------------------------------------------------------------------------したが奴へ差し出した手を引っ込めた。
「………。」
水筒を持っている手に違和感があった。
下へと引力があるのだ。
空の水筒の比ではない。
「………。」
明らかに中身がある。
ありえない。
ありえない。
ありえない。
私はかなり切れる寸前だった。
寧ろ、今すぐ切れてない事のほうが奇跡だ。
自分の忍耐力の素晴らしさに敬意を評したいくらいだ。
そして今、奴への言葉としては
「ふざけんな。」
でした。
*****
奴はまたもや黒いものを出すと思ったが意外にもそんな様子はなかった。
寧ろ、キョトンとしていた。
「どうしたの?司、何で急に不機嫌なの?………もしかしてアレとか?あ~そっか、そりゃ~、辛いよね~。でも、僕もそれについては直すこともできないんだよ♪無くすことはできるけどさ~。でも、将来的に必要になるでしょ。僕と司の子供のためにもさ。だから、司には可哀相だけど、ごめんね。」
奴は心底すまなそうに目を伏せ私に謝った。
もちろん、そんなことで私の怒りが収まるはずが無い。
問題が全く違ったのだ。
「別にこの怒りはアレでは決してありません。この怒りの矛先はあなたですから。」
私は奴に冷めた眼差しを向けたまま言ってやった。
アレ発言での奴のデリカシーの無さが発覚。
アレかもしてないと思っていても普通は聞かないだろ!!
本人に!!
それについてもありえなかった。
「僕!?」
(そう、アンタだよ!)
「僕、司に怒られるような事でもしたかな?僕自身覚えがないんだけど?」
奴は心底不思議そうに私を見た。
まるで自分には一切の落ち度はないと言っている様子に見えるのは私の奴に対しての感情からだろか?
「そう、あなたです。先程足の治療をしてくれた事には感謝してますがあのときに残り水を私にくれましたよね。」
「もちろんだよ~♪司が喉が渇いているって言っていたんだから僕があげないわけないじゃないか。」
それがどうかした?と奴の顔が言っている。
「その時の水はこの水筒の残り全てじゃ無かったんですか?それとも、もう一つ、水筒が有ったんですか?」
なぁ~んだそんなことか~と奴は「もちろん、水筒はそれ一つしか持っていないよ。二つも持ち歩いていたら重いじゃない。」
そして最後に「それに二つも持つ必要性も無いしね♪」と言った。
「それでは、私にくれた水以外にもまだこの水筒には残りが有ったんですね。」
心の中で『よし、分かりました。』と私は再び腕を脇腹の横へ持っていく。
もちろん、奴に当てる為にだ。
狙いも決まっている。
鳩尾だ。
私は鳩尾に狙いを定め、いざ!!
「そうなんだよ♪まだ、残りが有ったんだよ~♪と言いたいけど、違うんだなぁ♪この水筒は魔法の水筒なんだよ♪」
『凄いでしょ♪』と奴は自慢げに言った。
『ちっ』
私は心の中で舌打ちする。
惜しいことをした。
もう少し間があったならと悔やまれる。
*****
「魔法ってどういうことですか?」
「この水筒は一度空にしても時間がたつと元に戻る不思議な水筒なんだよ♪しかも、優れていてね壊れない限り半永久に使えるんだよ~♪」
「それは、凄いですね。」
「でしょ♪だからこの水筒を司にプレゼントするよ~。」
怒りは燻っていたが、くれると言うのだから遠慮なく私は水筒を頂いた。
勿論、物で絆されたりはないが礼はちゃんとしといた。
一応、これでも礼儀正しい人間ですから私。
「もう、後は大丈夫かな?水もあるし。あと、必要なものってある?」
「………。」
馬鹿なのかコイツは。
本当に有り得なさ過ぎて呆れる。
これは『悪魔』と『人間』の思想の違いなのか?
奴は本当に有り得ないくらい常識が無かった。
*****
「本当にあなたはこれで大丈夫って思っているんですか?」
「やっぱり、何か足りない物があったんだね。何が足りないのかな?出来る事はするから言ってみてね♪実際、僕に出来ない事を探すほうが大変だからある程度は用意が出来るよ♪」
『司も幸せ者だね♪』
奴は満面の笑みで言った。
………自信過剰過ぎやしませんか?
そして、『足りなさ過ぎなのはアナタの常識です』と私は付け加えといた。
勿論、『心の中で』のみ!!