サブ1,ベスター視点
俺は強い冒険者になる。
これは俺が小さい頃からの夢だ。多分、いや確実に俺の属性は火属性だ。親父がそうだからな。
冒険者って最高だよなぁ!だってよ、冒険って夢がたくさんあるじゃねーか!
俺には同い年の親友がいる。ルーセントって言うんだ。あいつと出会ったのは確か俺が8歳の時だ。
【今日も暇だなぁ〜】
『…んだ…よ!』
ん、なんだ?
「ルーセント!お前のその真っ赤な目と髪が気持ち悪いんだよ!きっとお前の親もお前が気持ち悪くて捨てたんだ!」
「呪われてんだよこいつ!」
【いじめか??】
声のする方に目をやるとそこには三人の少年がが赤い髪の少年の髪を掴んで何かを叫んでいた。
【あいつら何やってんだ?!】
「おい!やめろよ!」
それがルーセントと俺の出会いだった。
ルーセントは赤い髪と目を持っている。火属性の俺はルーセントの色がとてもかっこいいと思っていた。
それに、時々ルーセントの赤色は太陽の光が当たると、まれにキラキラ輝いて赤色とオレンジが混じった色に変わる。これは俺だけが知ってるんだと思う。すごく暖かい色だ。
俺は冒険者人生は鑑定式で決まると思っている。属性魔法があれば冒険者に確実になれるだろうし、なかったとしても俺は剣術を時々父さんに教えてもらってるから大丈夫だと思う。あとは正直ルーセント次第だよな。でもあいつは何かわかんないけど大丈夫だと思う。
鑑定式当日、
俺が触れたら鑑定石に自分の属性魔法とスキルが映し出された。
【やったぜ!】
俺は父さんと同じ火属性だった。
【これで冒険者になれる!!…ん?ウラノス神の加護??ディアーロ神じゃなくて??】
俺は不安になって鑑定石から手を放して周りを見渡した。色んな所から賛否両論が飛び交った。俺がやっと安心できたのは司祭の言葉とルーセントがとても喜んでくれてることに気づいた時だった。
いつも二人で語り合っていた冒険者の夢がこれで叶うんだ。俺は二人の未来に胸を膨らませた。
そんな矢先だった。
【どうなってるんだ?】
ルーセントが触れた鑑定石には全く読めない文字が書かれていた。司祭の方を見てみたがあの人も想定外だったんだろう何も言わなかった。
「ルーセント!もう一度触ってみろ!」
もしかしたら不具合が起きたのかもしれない…!
【くそっ!!なんでだ!!】
何度触っても変わらなかった。ついに周りの人たちからは心無い言葉が飛び交っていた。ルーセントは小刻みに震えていて、目の奥は黒く絶望しているようだった。その時
「ルーセント!!」
ルーセントはすごい勢いでその場から駆け出した。
【追いかけなきゃ!】
俺はルーセントを追いかけようとしたが、司祭や他の町民が俺の行く手を阻んできた。
「どけよ!!」
「君は神の加護と属性保持者だ。あんな呪われた人間と一緒にいるべきではない。あいつは人かもわからないような奴だぞ!」
「何言ってるんだ?!ルーセントは呪われてなんかない!あいつはお前らよりよっぽど強くて優しい人間だ!そこをどけよ!!」
「もう関わるべきではないと言ってるんだ!!」
「そうだ!あんなやつとは関わるな!!」
【くそ!!こいつらは本当に最低な奴らだ! ルーセントを見失った…早く追いかけないと…】
俺はその場から抜け出すことが出来ずに困っていた。一人くらい殴っちゃってもいいんじゃないかと考え始めていた時、
「そこをどいてやってくれないか。」
父さんの声だった。でもいつもの優しい声なんかじゃなかった。とても低く声だ。少し怖いと思った。
町民は後ずさりしたがそのまま続けた。
「オスカーさん!でもあなたのご子息は将来優秀な冒険者になれる未来があるのに…あんなやつなんかと一緒にいたらろくなことが起きな…]
「あなたたちの心配には及ばない!」
すごい迫力だった。その一言で、俺の前に立ちはだかった人たちは少しづつよけていった。
「父さん!ありがとう!」
父さんはいつものように優しい顔をして
「行ってきなさい」と俺の背中を押した。
「うん!!」
俺は全力で走り出した。ルーセントがどこに行ったかはもうわからない。だから思い当たるところを順番に回った。図書館、一緒に特訓していた森の入り口、小さな花が咲いている空き地、よく食べ歩きした屋台街…
「どこにもいない!どこ行ったんだ?!」
俺はたくさん走ったせいで疲れ切っていた。
≪ぽつ…ぽつぽつ≫
「ん…?雨か??」
最初は小雨だった雨も足を前に踏み出すたびに強くなっていった。
【もうそろそろ帰ろう…もしかしたら孤児院に帰ってきてるかもしれないし…】
そう思い孤児院までの緩い坂道を登って行った。
孤児院の前で誰かか膝をついて地面を見つめていた。あんなところで何をしているのか疑問に思い近づいった。
「あれは…まさか! ルーセント!!」
それはルーセントだった。全身びしょ濡れで俺の問いかけに答えた声はひどく震えていて今にも消えてしまいそうだった。ルーセントは俺にもう孤児院には帰れないと言った。正直原因は予想できたんだ。だって鑑定式であれほど非難されていたルーセントを普段からよく思わないあいつらが放っておくはずがないだろう。
【俺はルーセントのために何ができるんだろう…そうだ!】
「俺の家に一緒に住もう!!」
父さんからの了承を得れたことでこの日から父さんと俺とルーセント3人での暮らしが始まった。
ルーセントは孤児院の仕事をしなくても良くなったからいつもよりも多くの時間を特訓に使えるようになった。朝食を食べて、弁当作って、特訓しに行って、昼飯食べて、疲れたら帰って、父さんと3人で夕飯食べながら冒険の話をして、一緒に風呂入って、寝る。こんな日常を続けていた。そして、ずっと続くと信じて疑わなかった。あの日までは。
今日もいつもみたいにルーセントと修行に行った。
訓練で疲れてきた俺たちは昼飯を食べるために準備をしていた。その時だった。
《メキメキッ ドスンッ メキメキッ》
初めて聞く重低音。何かの足音と木がなぎ倒される音だった。俺は警戒して音の方を見つめていた。
次の瞬間木々の隙間からぬっと出てきたそれを見て恐怖に襲われた。
ゴーレムだった。
「なんでこんなところにゴーレムがいるんだ!」
【俺たちじゃ勝てない!逃げなきゃ!!】
ルーセントは足がすくんでいたみたいだったから俺は震える手でルーセントの手を掴んで走り出した。
2人で必死に走ったけどこのままじゃ2人とも力尽きて追いつかれる…たまたま見つけた大きな木の陰に隠れたけど見つかるのは時間の問題だった。
【くそ!どっちかが囮になるしかないのか…だったら】
【俺が行くべきだ。】
決意を伝えようとしてルーセントの方を向いたとき、ルーセントは木陰から飛び出していた。
今思うとその時のルーセントの髪と目はあのキラキラした色になっていだと思う。暖かい赤色とオレンジ色が混じった色だ。
俺は走った。ルーセントを信じて。
【2人で生き残るんだ!頼むルーセント!絶対に生き残ってくれ!!】
俺は目をぎゅっと閉じて祈った。
≪ドスンッ≫
「え?」
【あれ?なんでだ?なんでゴーレムはこっちに向かって来てるんだ?】
俺は必死に走ったがゴーレムはスピードが全く落ちなかった。俺は疲れから段々足が遅くなり息も苦しくなった。
「もうダメだ…」
ゴーレムがすぐそこまで来ている。もう俺は限界だった。
俺は後ろを振り返って最後の抵抗としてか火球を放ったが全く効いていなかった。ゴーレムの向こう側には泣きながら大きな声で叫び続けるルーセントが見えた。声は所々しか聞こえない。
【あぁ、俺は死ぬんだ。】
【…死にたくない。俺、死にたくないよ…】
【ウラノス様、ほんとに俺に加護をくれたのか?なら今助けてくれよ…まぁ無理だよなぁ、そんな神この世に存在しないんだから…】
《ドスンッ》
一瞬だったからかな痛みは感じなかった。
次に目を覚ました時俺はどこか分からない真っ白な世界にいた。そして、今現在もいる。
【なんだ?…人?】
ただ、ずーっと向こうに誰かが立っている気がする髪の長い女…いや…男か?
あの髪の色どこかで…
『君を守ってあげられなくてごめんね。でも直ぐにまた君を目覚めさせるよ。それまで少しここで休んでいて欲しい。』
声が少し震えている…?
【なんだ…?】
急に眠気がきた…目が閉じていく。さっきの声は…?
それから俺は深い眠りについた。