6,真相を求めて その2
僕はイルフェスタに向かおうと思ったが、ふとまたゴーレムに目をやった。
【…ん?まてよ】
ルーセントはもう一度ゴーレムの方を向いた。
【あのゴーレムあそこだけえぐられたような跡がある…あそこの位置は紋章があったところじゃないか!!】
あの日ルーセントが見たゴーレムにあった紋章と同じ位置にそのゴーレムはえぐられたような跡があった
【これは偶然か??いや…そんなのありえない!あいつがあの時のゴーレムだ!!】
ルーセントはゴーレムが紋章によって僕たちを襲ったのか調べる必要があった。
【簡単な話だ。僕がまたあのゴーレムの前に現れればいいだけだ!】
恐る恐る足を前に踏み出して、ゴーレムに近づいた。
あの日襲ってきたゴーレムだと思うとルーセントは恐怖で足が震えた。
【こいつがベスターの仇かもしれないんだ!】
そう心の中で叫びルーセントは自分の足を思いっきり殴った。
【くそっ!動け!!】
ルーセントは足を殴りつけるとゴーレムの方へと歩き出した。
足が思うように前に進まなかったルーセントは地面に落ちていた小石を蹴飛ばし大きな音をたてた。
次の瞬間、向こう側に歩いていたゴーレムが向きを変えこちらに向かって歩いてきた。
ルーセントはあの時の恐怖を思い出し立ち尽くしていた。ゴーレムはこちらに近づいて来ている。
《ドスンッ ドスンッ ドスンッ》
「はぁ、はぁ、はぁ」
『ルーセントは強いよ!』
いつかのべスターの声が頭に響いた。僕は一度見たり聞いたりしたことは忘れない。僕はべスターとのすべての記憶を覚えている。
「ベスタ―…]
ルーセントは覚悟を決めるとゴーレムを睨んだままその場に立った。さっきとは違い足は震えておらず力強く足を踏ん張っていた。そして目を閉じた。
≪ドスンッ ドスンッ≫
≪ドスン… …スン…≫
ゴーレムの足跡は遠くなっていった。前にゴーレムの姿はなく、慌てて後ろを振り向くと少し離れたところにゴーレムがいた。どうやらあのゴーレムはルーセントの横を通り過ぎて行ったようだ。
《はぁ…はぁ、はぁ…》
ルーセントは殺していた息をたくさん吸った。
【襲われなかった…紋章がないからだ。きっとそうに違いない。】
ルーセントは方向を変えると洞窟から出るために歩いた。
≪ポタッ ポタポタッ≫
「なんで僕は泣いてるんだ」
ベスターが殺された原因が紋章であることを知れた喜びと、襲われなかったことに安堵している自分への腹立たしさだろう。涙が止まらなかった。
「僕は君みたいになれないみたいだよ、ベスタ―。僕はまだ弱さがあるんだ。」
しばらくルーセントはケドニアに向かって止まらずに歩いた。一度も休むことなく何かをずっと考えているようだった。日が沈みかけた時ようやく長時間がたっていることに気が付いた。
「もうこんな時間か…さすがにどこかで泊まらないと」
どこか休めるところはないかと探しているうちに近くの町を見つけた。ルーセントはその町の宿に泊まることに決めた。
町に向かって歩いていた時、道の隅で座り込んだ年老いた老人が荷物を地面に置いてため息をついていた。
「あの…大丈夫ですか?荷物僕が運びましょうか?」
老人は驚いた顔をした後笑顔になって答えた。
「良いのかい?誠にありがたいことじゃ。あそこに見える町までお願いできるかね?」
老人が指さしたのはさっきの町だった。
「それなら僕もあの町に向かっていたので問題ありませんよ。お任せ下さい。」
ルーセントは老人の荷物を持ち上げ、2人で町まで歩き始めた。町に何しに来たのかという老人の問いかけに、僕は歩きながら隣国まで行こうとしていること、町で今日泊まる宿を探していることを話した。
「もし良かったら私の家で休んで行かれませんかね?何せ1人で住んでいるもんで、寂しくて仕方がなかったんじゃ。それに重たい荷物を運んでもらうんじゃ感謝し足りない。」
老人はそう言って微笑んだ
ルーセントは少し考えた後答えた。
「良いんですか?」
「いいともいいとも、ぜひ泊まって行ってください。」
「お言葉にあまえて、一泊だけお世話になりたいです!」
老人の名前はウルハートというらしい。
ルーセントはウルハートに旅に必要な情報をたくさん教えてもらった。隣国に行くには4時間置きに出る馬車に乗る必要があること。ケドニアへの入国のしかたや屋台が沢山ある市場のこと、海があってザゴンという伝説の海の怪物がいるおとぎ話のことなど様々な話をしてくれた。
「それにしても、お若いのに旅をするなんて立派じゃの。金銭的にも精神的にも辛いじゃろうに」
ウルハートは心配そうに尋ねた。
「お金は問題ありません。…実は小さいころからずっと町でお手伝いをたくさんして稼いだお金があるんです。いつか冒険者になる夢を叶えるために」
僕はベスターに図書館に行くと伝えながら、その半分の時間でこっそり手伝いをしていた。ものを覚えることだけは得意だから酒屋などの店のお手伝いは得意だった。一度にたくさんの注文を聞いても覚えていられるからね。僕の手伝いを認めてくれるのは孤児院から少し離れたところだけだったから遠くまで歩いては手伝いをする生活をしていた。大きくなるにつれて錬金魔術も上手くなった僕は変装の錬金薬を使うことで手伝いをさせてもらいやすく、そして、錬金魔術で作った薬剤を販売することでお金を稼いでいた。本当はこのお金でベスターが冒険者になる時にかっこいい武器や防具を買ってプレゼントしようと思っていたんだ。ずっとお金を貯めていることを秘密にしていたんだ。
【僕は魔物退治自体ではベスターの力になれない。だから、ベスターが少しでも冒険者として活動しやすくするために僕が支えるんだ】
しかし、ルーセントにとってベスターが死んでしまった今ではこのお金がただの重たい石のようだった。このお金が少しでもベスターのためになる方法で使えるようになって良かったと思っている。
僕は明日、ケドニアに行く。