4,僕たちの物語の始まり
僕たちの特訓の日々は続き、冒険者になるまであと1年になった。そんな時に事件は起こった。
「今日も森に特訓いくぞ!」
「うん!準備するから待って!」
僕たちはいつも通りに森に入ってすぐの空き地で特訓をしていた。ベスターの成長はとても早い。
すぐに火属性のコントロールはそれなりにできるようになり、下級の技ならいくつか使えるようになっていた。僕も今では花をすぐに咲かせることが出来るようになり、自分の魔力をコントロールの練習として錬金魔術を使って薬剤を作ったりしている。
僕たちは冒険者になれる日を待ち遠しく思っていた。
「はぁー!休憩!ルーセント昼飯食うぞ!」
「うん!今準備するよ!」
僕たちは持ってきたサンドイッチとお茶を用意して昼食を食べようとした時
《ドスンッ》
《ドスンッ》
「なんの音だ?!」
「わ、分からない!なんだろう…」
恐怖からだろうか、僕の身体はカタカタと震えていた。
《メキメキッ ドスンッ メキメキッ》
《ドスンッ》
倒れた木々の隙間から出てきたのはとても大きなごつごつした手だった。
【どういうことだ?!】
姿を見せたのはゴーレムだった。
「そ、そんな…あ、ありえない!!ゴーレムだ!」
ゴーレムが足を下ろすたびに地面が鳴った。
「ゴーレムだって?!なんでこんなとこにいるんだよ!」
僕たちはその場で立ちすくんだ。
「ぼ、僕にも分からない!!」
ゴーレムは本来なら山岳地帯の暗い洞窟や岩場にしか生息しない。
「こんな森にゴーレムがいるはずがないんだ!間違いない!森にいるなんて…どんな書籍にもそんなこと書いてなかった!!」
「くそっ!とりあえず逃げるぞ!走れ!!」
「おい!何してるんだルーセント!走れ!!」
「あ、足が動かない…」
「大丈夫だ行くぞ!!」
ベスターは恐怖で動けない僕の手を引っ張りながら走り出した。
僕たちはゴーレムから逃げるために必死に走った。
「はぁ、はぁ、さすがにゴーレムが俺らをわざわざ追いかけてくると思えない!はぁ、はぁ、あいつを巻いてから町に帰るぞ!!」
「はぁ、はぁ、はぁ、うん!分かった!」
《ドスンッ ドスンッ》
ゴーレムは走り出す2人の後に続き進み出した。
「はぁ、はぁ、なんで追いかけて来るんだ!はぁ、はぁ、ゴーレムは基本襲いかかって来る者にしか攻撃しない、はぁ、はぁ、はぁ、攻撃をしていない僕たちを追いかけるはずがないんだ!」
「ちくしょう!はぁ、はぁ、どうなってんだよ!はぁ、俺たちじゃあいつにかなわねぇ!!」
《ドスンッ ドスンッ》
《ドスンッ ドスンッ》
「はぁ、はぁ、おい…足音…早くなってないか?」
2人は恐る恐る振り返った。
《ドスンッドスンッドスンッドスンッ》
「ひぃ!はぁ、はぁ、ありえない!!ゴーレムが走ってる!!!」
「くそっ!!はぁ、このままじゃすぐに追いつかれる!はぁ、はぁ」
2人は訓練をした後だったのと走り続けたことで体力がほとんど残っていなかった。
【このまま走り続けてたらダメだ!!どうにかしないと!!どうしたら良いんだ!】
はっ!!
「ベスター!あの木陰に隠れよう!!」
そこには他の木よりも一回り大きな木があった。
「分かった!!」
2人は木陰に隠れて息を潜めた。じっと静かにその場で固まった。
後を追ってきたゴーレムは2人を見失ったからか辺りを旋回してた。
【僕らを探しているのか…??】
ベキベキッ!!
ゴーレムは木を一本ずつなぎ倒しながら僕たちを探していた。
「このままここにいたら見つかる…」
ベスターは僕を見て言った。
「俺が囮になる。お前は町の方まで走って逃げろ。それで父さんに助けを求めるんだ。」
【何を言ってるんだ!!】
「ダメだ!それなら僕が囮になる、僕は足が遅い!だからベスターが走った方が早く助けを呼べる!だから僕が囮になる!」
「ダメだ!危険すぎる!」
「それは君も同じじゃないか!!」
2人はどちらも譲らなかった。少しの沈黙が続いたあと、ルーセントはベスターを見て言った。
「ベスター絶対に君は生きるんだ」
その後ルーセントは木陰から飛び出した。そして町とは反対の方向に走り出した。
「ルーセント!!!!」
「行くんだ!ベスター!!走れ!」
ベスターは悔しいそうな顔をして町へ向かって走り出した。
「くそっ!!くそぉおお!!!」
【これで良いんだ、ベスターはきっと助かる…僕はきっとここで死ぬんだろう…でも良いんだ】
ルーセントは諦めていた、自分は生き残ることが出来ないと。
しかし、次の瞬間
『ルーセント!!!絶対に2人で冒険者になるんだ!!2人で冒険するんだぁああ!!』
ベスターの声だった。
ルーセントはそれを聞いて泣きながら笑った。
【うん、うん】
「もちろんだぁぁああああ!!」
その言葉に続いて
「おい!ゴーレム!こっちにこい!!」
僕はゴーレムの方を向いて手を振りながら叫んだ。
ゴーレムは少しルーセントを見つめたあと、動きを止めた。そして、向きを変えてずっと向こうで走るベスターの後を追い始めた。
【どういうことだ…??】
「おい!なんでだよ!どこに行くんだよ!こっちに来いって!おい!!」
ルーセントは声を出し続けたがゴーレムはルーセントには目もくれずベスターを追っている。
《ドスンッドスンッドスンッドスンッ》
「どうして俺の方に向かって来てるんだ??ルーセントの方を向いていたのに!!」
「ベスター!!逃げてくれ!!ゴーレムが全く僕に反応しないんだ!!!」
ルーセントはゴーレムの後を追いながら叫んだ。
ゴーレムはベスターとの距離を縮めていって、ついに追いついた。
ベスターは体力の限界だった。
「くそっ!!」
ベスターは足を止めてゴーレムの方を向いた。
そして、力をいっぱい込めた火属性の魔術を出した。
《火球!!》
ゴーレムに当たったが全く効かなかった。べスターの手から放たれた炎はゴーレムに当たるとすぐに消えていった。ゴーレムも足を止めた。
そして次の瞬間、ゴーレムの拳がベスターに直撃した。
一瞬の出来事だった…
≪ドゴォオオオン≫
「ベスターぁああああ!!!あぁあああ!!」
ゴーレムはベスターを少し見つめた後、満足したかのように帰って行った。
「おい、待てよ!!!おい!!待てって言ってんだろぉおお!!」
ルーセントはその場に落ちていた石を力いっぱい投げつけた
ゴーレムはこちらにルーセントに向いたあと、ルーセントの目の前で地面を思いっきり殴った。
地面が激しく揺れ、割れた地面の破片が僕に直撃した。
頭から血が流れ視界がぼやけるなか、それでも僕はゴーレムに石を投げていた。
ゴーレムは何事も無かったのように反対を向いて歩いて行った。
「クソ!!くそがぁぁぁあああ!!」
限界が近かった。意識が遠のく。ルーセントはぼやける視界に何かを見た。
【なんだ?あれは…紋章?】
ゴーレムの背中には見たことがあるような紋章がついていた、どこかで……
もう限界だった。目がゆっくり閉じていく
「絶対に、許さないからな…絶対に…」
そして僕は意識を失った。
《…のむ、目を覚ましてくれ…》
【声が聞こえる…】
ルーセントは目を開いた。目の前にあるのはいつも見ている天井だった。
【ここは?】
そこはいつもベスターと寝ていたベッドだった。
「目を覚ましたのか!」
そこにはオスカーがいた。
ルーセントは飛び起きた。
「だめだ起き上がるんじゃない!まだ傷が塞がってない!」
「ベスターは!!ベスターはどこですか?!」
オスカーはしばらく黙った後『死んだ』と言った。
それを聞いたルーセントはしばらく地面を見つめた後、涙を流した。
「オスカーさん…ごめんなさい、僕、僕の、僕の目の前で…ベスターが…ゴーレムに…ごめんなさい、、」
僕は泣きながら謝り続けた。
「ルーセント君は悪くない何も悪くない。仕方がなかったんだ、すまなかった。私が2人を助けてあげられなかったからだ、怖い思いをさせてすまなかった…」
そう言ったオスカーの目は赤く腫れ上がっていた。
その日僕の涙が枯れることはなかった。
そして僕の唯一の友達、いや、親友べスターは死んだ。