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やくたたずのてんし

短編童話です。

自分としては気に入っています。

あるところに、役立たずの天使がおりました。

天使のお仕事は、人にプレゼントをあげることです。

けれどその天使は、誰にも、何もプレゼントをあげることが出来ませんでした。


ある日、天使は男の子に会いました。

貴方は何が欲しいの?

天使は聞きました。

「ボクは、早く大人になりたい。

 大人になっていろんな所を旅してみたいんだ。」

大人にしてあげることは出来ません。

天使は何もあげられませんでした。


ある日、天使はおばあさんに会いました。

貴方は何が欲しいの?

天使は聞きました。

「この歳になると、大切な人達はみんな、天国に行ってしまったわ。

 許されるなら、みんなともう一度会いたいわ。」

天国の人達と会わせてあげることは出来ません。

天使は何もあげられませんでした。


ある日、天使は男の人に会いました。

貴方は何が欲しいの?

天使は聞きました。

「俺は大工だった。

 だけど、怪我で仕事を辞めてしまったんだ。

 この怪我が治せれば、またデカい家を建てるんだがなあ。」

怪我を治してあげることは出来ません。

天使は何もあげられませんでした。


ある日、天使は女の人に会いました。

貴方は何が欲しいの?

天使は聞きました。

「私は病気でもうすぐ死んでしまうの。

 病気を治せる薬も、この世には無いの。

 せめて、子供が大きくなるまで、生きていたかったわ。」

この世に無い薬をあげることは出来ません。

天使は何もあげられませんでした。


ある日、天使はおじいさんに会いました。

貴方は何が欲しいの?

天使は聞きました。

「儂は若い頃、悪いことばかりやってきた。

 今になって、すごく後悔しているんだ。

 迷惑を掛けた皆に謝りたい。

 でも、彼らが何処に居るか、生きているかも、もう分からないんだ。」

天使は何もあげられませんでした。



天使は、誰にも、何もプレゼントをあげることが出来ませんでした。

天使は町外れの丘で、神様に相談しました。

「それは困りましたね。」

天使は頷きました。

「では、これからここに人が一人やって来ます。

 その人に、何でも良いから、一つプレゼントをあげましょう。

 約束ですよ。」

天使は神様と約束をしました。


天使が待っていると、女の子がやって来ました。

「お母さんが死んでしまったの。えーん、えーん。」

亡くなった人を、生き返らせることは出来ません。

天使は何もあげられません。


でも天使は、神様と約束をしました。

一つプレゼントをあげること。

天使は、白い花を女の子にあげました。

「これ、お母さんが好きだった花だ。」

女の子は泣き止みました。

「お母さんにあげてくる。」

女の子は帰って行きました。


やがて天使も、また、町に帰って行きました。

天使はもう、役立たずではありませんでした。


─────────────────────


あるところに、やくたたずのてんしがおりました。

てんしのおしごとは、ひとにプレゼントをあげることです。

けれどそのてんしは、だれにも、なにもプレゼントをあげることができませんでした。


あるひ、てんしはおとこのこにあいました。

なにがほしい?

てんしはききました。

「ぼくは、はやくおとなになりたい。

 おとなになって、いろんなところをたびしてみたいんだ。」

おとなにしてあげることはできません。

てんしは、なにもあげられませんでした。


あるひ、てんしはおばあさんにあいました。

なにがほしい?

てんしはききました。

「このとしになると、たいせつなひとたちはみんな、てんごくにいってしまったわ。

 ゆるされるなら、みんなともういちどあいたいわ。」

てんごくのひとたちと、あわせてあげることはできません。

てんしは、なにもあげられませんでした。


あるひ、てんしはおとこのひとにあいました。

なにがほしい?

てんしはききました。

「おれはだいくだった。

 だけど、けがでしごとをやめてしまったんだ。

 このけががなおせれば、またでかいいえをたてれるんだがなあ。」

けがをなおしてあげることはできません。

てんしは、なにもあげられませんでした。


あるひ、てんしはにおんなのひとにあいました。

なにがほしい?

てんしはききました。

「わたしはびょうきで、もうすぐしんでしまうの。

 びょうきをなおせるくすりも、このよにはない。

 せめて、こどもがおおきくなるまで、いきていたかったわ。」

このよにないくすりをあげることはできません。

てんしは、なにもあげられませんでした。


あるひ、てんしはおじいさんにあいました。

なにがほしい?

てんしはききました。

「わしはわかいころ、わるいことばかりやってきた。

 いまになって、すごくこうかいしているんだ。

 めいわくをかけたみんなにあやまりたい。

 でも、かれらがどこにいるか、いきているかも、もうわからないんだ。」

てんしは、なにもあげられませんでした。


てんしは、だれにも、なにもプレゼントをあげることができませんでした。

てんしは、まちはずれのおかで、かみさまにそうだんしました。

「それはこまったねえ。」

てんしは、うなずきました。

「では、これからここにだれかがやってきます。

 そのひとに、なんでもよいから、ひとつプレゼントをあげましょう。

 やくそくですよ。」

てんしはかみさまに、やくそくをしました。


てんしがまっていると、おんなのこがやってきました。

「おかあさんがしんでしまったの。えーん、えーん。」

なくなったひとを、いきかえらせることはできません。

でもてんしは、かみさまとやくそくをしました。

ひとつプレゼントをあげること。

てんしは、しろいはなを、おんなのこにあげました。

「これ、おかあさんがすきだったはなだ。」

おんなのこは、なきやみました。

「おかあさんにあげてくる。」

おんなのこは、かえっていきました。


やがててんしも、また、まちにかえっていきました。

てんしはもう、やくたたずではありませんでした。

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