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◇ミリアの思惑(ミリア視点)

◆ミリア視点


 ヴァルガス公爵一行が去ったバークレイ侯爵邸では、状況を把握した夫人が必死になって荷造りを始めていた。


「アリストなんて信じるんじゃなかったわ。公爵の話が本当なら、私たちあの子が嫁いだ途端にいつ追い出されるかわからないじゃない! それどころか、下手をしたらあの子を虐げた罪でどんな目に遭わされるか……」


 半狂乱になって叫びながら荷造りをする夫人の隣で、ミリアは黙ってそれを見ていた。


 公爵が来る前までのあの高揚感はどこに行ってしまったのか。


 本来なら今頃、婚約が成立して祝福ムードに酔いしれていたはずなのに。


 母親の荷造りを眺め、行くあてを失った悔しさを滲ませながら、無駄に着飾ったドレスの裾を握りしめていた。


「ミリア、あなたもいつまでもそんな恰好をしてないで、早く荷造りなさい!」


「……え? お母様、どこへ行くつもりなの?」


「決まっているじゃない。お父様とはお別れして、お祖父様とお祖母様のところへ行くのよ」


「嫌よ! あんな田舎になんて行きたくないわ!」


「何を言ってるの! さっきの話を聞いたでしょ。あの子が嫁いだ後、この家はどうなるかわからないわ。十年間ずっと使用人としてこき使っていたなんてことがバレたら……」


 頭を抱えて怯える母親を前に、苛立ちをぶちまける。


「そんなの私は知らないわ! 私は悪くないもの!」


 自分は知らないと言い張るミリア。


 納得ができないミリアは語気を強めて、さらに訴え続ける。


「大体何で私があの穀潰しより下の扱いを受けなきゃいけないのよ!? 納得できないわ! こんなの絶対何かの間違いよ!」


 泣きながらそう喚く娘に、夫人は荷造りの手を止め、娘をじっと見た。


 ミリアの元に近づくと、両肩に手を置いて彼女をなだめる。


「ミリア。気持ちはわかるわ。けれど、ダメよ。諦めなさい。全てはお父様が悪いの。さあ、早く支度なさい。お祖父様たちのいる男爵領に行くわよ」


「男爵領!? お母様は何をおっしゃってるの? 私は侯爵令嬢なのよ!? それにあの婚約の指輪は本来私が貰うべきものなの。絶対許さないわ……!」


 自身の実家であるアルバー男爵家に帰ると言う母親に、自分は違うのだと、生まれながらに侯爵令嬢なのだと叫ぶミリア。


 元々事故で長男夫妻が亡くなるまで、男爵領で育ったことなど、彼女の記憶からは既に消え去っているのだろう。


 どうしようもない現実を受け止められないミリアは、怒りを露わに侍女に当たり散らしながら、自分の部屋へと駆け込んだ。


「私は侯爵令嬢なのよ。あんな穀潰しを選ぶなんて……」


 追い詰められたミリアは侍女を締め出し、部屋で一人ソファーに突っ伏す。


 ソファー脇に置かれたクッションを手探りで引き寄せると、ギュッと手で握りしめた。

 よほど強く握りしめているのか、花柄の布が今にもはち切れそうになっている。


「私の方が綺麗だし可愛いし、貴族令嬢の作法だってちゃんと勉強しているのに……何であの穀潰しなのよ!! きっと公爵様もお父様も騙されているのよ……!」


 するとその途端、何かを閃いたように顔を上げ、今度はクッションを放り投げる。


「そうよ! そうなのよ……絶対そうに決まってる。そうじゃなきゃ、私が選ばれない訳ないじゃない! 公爵家に嫁いで、私よりも上になるなんて、絶対許さないわ。お姉様は私より下じゃなきゃいけないのよ!」


 その瞳にはもう涙は無く、ただただ憎悪に満ちた鋭い瞳が光る。

 そうして、だんだんと狂気じみたおぞましい表情へと変わっていった。


「そうよ……嘘つきなお姉様なんて追い出してしまえば良いんだわ。ふふふふ……あははははははは」


 地を這うような声で高らかに笑うと、ソファーから起き上がり、一目散に父の元へと向かった。


お読みいただき、ありがとうございます。

お決まりの感じですみません。

大人しく引き下がるわけがないのがミリアです。

また次回もお楽しみいただけますと幸いです。

どうぞよろしくお願いいたします。

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