◇エピローグ
短いですが、エピローグになります。
王宮で王太子の治療を行ってから数ヶ月が過ぎた。
王太子はあの日以来、体調を崩すこともなく、日々健やかに過ごされているそうだ。
時々ジェインが王宮に様子を見に行っているけれど、特に問題はないようで、毎回嬉しそうにヒスカリアにその報告をしていた。
やはり従兄弟のことはずっと心配していたのだろう。
そして、今日はついにヒスカリアの社交界デビューの日。
ようやく誕生日を迎え、成人したヒスカリアは、今夜王宮で行われる王家主催の舞踏会に、婚約者のジェインと共に招待されている。
社交について教えてもらうはずだったセドナとは、あの挨拶の日以来、特に交流を持てなかったため、結局サマリア夫人に社交についても教わることになった。
けれど実際のところ、サマリア夫人は国王にも認められているほどできた方なので、「むしろセドナに教わらなくて正解だったかもしれんのぉ〜」と、レイヴィスが楽しそうに語っていたほどだった。
(そういえば、カナリア様にも結局一度もお会いしないまま、今日を迎えてしまったのね……)
公爵令嬢であるカナリアは、結局、王太子の婚約者に内定した。
ヒスカリアとジェインの力で病を克服した王太子は、これまでの遅れを取り戻そうと懸命に公務に励んでいる。
先日のこともあり、女神の印象が悪い国王は早々に退位すべきだと五大公爵家からも意見が上がってしまい、王太子が公務を把握でき次第、王位を譲ることが決まっているらしい。
つまり、カナリアはいずれ王妃になる。
とにかく、なるべく早めに挨拶を済ませておきたいところだ。
(まあでも、その前にきっとジェイン様をめぐって、ひと騒動が起きてしまいそうな予感がするわ……)
ヒスカリアの脳裏に、挨拶の日のセドナの様子がありありと思い出される。
娘のカナリアも、きっとパワフルに違いない。
できる限り回避すべく、事前にジェインと相談しておこうと自室から応接室に移動する。
今の時間であれば、きっとジェインは応接室にいるはずだ。
そう思って、声をかけながら扉を開いた。
「ジェイン様、あの……」
するとヒスカリアの目には、正装姿の麗しい男性の姿が飛び込んできた。
(普段着でも格好良い人だと思っていたけれど……正装だとこんなにも輝いて見えるのね……この美しい人が私の婚約者なの……?)
王宮へ初めて行った日もジェインは正装姿だった。
けれど、当時のヒスカリアは初めての謁見で粗相をしないようにしなければ、という思いで頭の中がいっぱいで、ジェインの服装など気にする余裕がなかったのだ。
改めて見たジェインの正装姿に、ヒスカリアは思わず見惚れてしまう。
「どうしたヒスカリア? ぼーっとして、何かあったのか?」
声をかけたまま固まっているヒスカリアに、心配そうな優しい声が飛んでくる。
最初に出会った頃は、怪訝な表情をされたり、呆れられることが多かった。
できないことが多いヒスカリアを、最初から突き放さずに支え続けてくれた人。
そんなジェインに好きだと言われ、そして、ヒスカリア自身も、彼に想いを寄せるようになった。
「いえ、ちょっと……ジェイン様があんまりに格好良かったので、思わず見惚れてしまって……」
素直に言葉にすると、途端にジェインの顔が赤く染まる。
「え、っと……その、ヒスカリアの口からそんな言葉が出てくるなんて……。不意打ちが過ぎる……」
赤くなった顔を隠しながら、ジェインが嬉しそうにヒスカリアを見つめる。
それから仕返しとばかりに、ジェインがヒスカリアを後ろから勢いよく抱きしめた。
「え!? ジェイン様、せっかくの正装が……」
「大丈夫だ。魔法ですぐ直せる。私を誰だと思っているんだ?」
ヒスカリアを抱きしめながら、満足そうに胸を張って言うジェインに、思わずくすくすと笑いが込み上げる。
「では、『魔法公爵様』にご相談したいことがあるのですが……」
そう言って、笑いながら、ジェインの顔を覗き見る。
見下ろす彼の嬉しそうな表情に、ヒスカリアの胸がキュンとなる。
「君に魔法公爵と呼ばれるのは初めてだな。今夜のドレスの相談か? いくらでも相談に乗るぞ」
今夜のドレスはもう昨日決めたはずなのにと思いつつ、ヒスカリアはジェインの手を握ると、舞踏会についての相談を始めるのだった。
お読みいただきありがとうございます。
こちらで完結になります。
「オネエ公爵」と同時期に開始してしまったせいで、一度休載期間を設ける形になってしまい、
お待たせすることが多くて申し訳ありませんでした。
なんとか最後までたどり着けました。
お待ちくださった皆様、本当にありがとうございました。
また続きを書く機会があれば、と思ってはいますが、今はひとまずここまでということで。
ブックマークや⭐︎の評価、いいねもありがとうございます!
次回作への活力にさせていただけますと幸いです。
どうぞよろしくお願いいたします。