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◇処罰と王太子

 王宮に到着すると、前回とは違い、馬車を降りるとすぐにジェインの魔法で最奥の謁見室の目の前まで転移した。

 今回は緊急なのか、控室も通らず、謁見の許可を待つこともない。

 妙に張り詰めた空気に、ヒスカリアは思わずその場で身震いをする。


「大丈夫だ。今日私は、何があっても絶対にヒスカリアから離れない。だから安心するといい。それに今日は父上が一緒だからな。下手に手出しはできないだろう」


 そう言って不敵に笑うジェインに、レイヴィスが振り返りニヤリと笑う。


「そうじゃな。わしの連れに手を出せるような者はここにはおるまい。一応王弟じゃからな。まあとにかく、入るかのぉ。約束は取り付けてある」


 レイヴィスが再び前を向くと、いつの間にやら王宮の使用人が扉の前に立っていた。

 レイヴィスの歩調に合わせるように、扉が開かれる。


 つい先日来たばかりの謁見室。

 この謁見室からの帰りにヒスカリアは攫われた。

 そのことを思っていたからか、無意識に手を握りしめていたヒスカリアの手にジェインの手が重なる。

 そして、そのままジェインの腕の間に手をいざなわれた。


(え? もしかしてエスコートしてくださるのかしら?)


 驚いてジェインの顔を見上げると、意図を察してか、優しく頷かれる。

 緊張が少しほぐれたヒスカリアは、玉座の前へと進み出た。


 以前来た時とは違い、奥の席には誰もおらず、その代わり王の他に、玉座にもたれかかるようにして立っている男性がいた。


「陛下、並びに王太子殿下、ヴァルガス公爵家一同参上いたしました」


(王太子殿下!? この方が……以前体調が悪いと伺っていたけれど、お身体は大丈夫なのかしら?)


「おお、今日はレイヴィスも一緒か」

「ええ、マナリア妃の件を片付けねばならんので、わしも同行いたしました」

「マナリア? あの者はもう既に処罰が決まっている。今さら片付ける必要などなかろう?」


 国王は不思議そうにレイヴィスに答える。

 けれど、隣の王太子は笑みを浮かべてゆっくりと頷く。

 ジェインはそれに頷くと、口を開いた。


「側妃の件で、陛下にご報告したいことがあります」

「報告? 先日のヒスカリア嬢誘拐の詳細か?」


「いえ、違います。事故とされていた十年前のヒスカリアの両親の死の真相について、並びに、ビオネル侯爵家の魔力継承略奪計画についてです」


「……な、なんだと!?」


 ジェインの並べ立てた内容に、国王は一瞬呆然となり、なんとか我に返って反応した。


「マナリア妃は、第二王子を王位につけるべく、魔力を欲し、三侯家の魔力継承を第二王子にさせようと目論んでいたようです。最初はバークレイ家を。そして、その次はビオネル家を……」


「魔力継承……女神との契約を偽ろうとしたのか?」


「どうやらそのようです。実際、ビオネル家では魔力継承に失敗し、女神を怒らせ、結果的にあの家は魔力継承ができなくなりました」


「あれが、マナリアのせいだというのか?」


 当時、ビオネル家から爵位を剥奪し、没落させた国王は、その原因が自分の側妃にあるなど、思いもしなかったのだろう。

 信じられない表情で、ジェインを見つめる。


「そのようです。先日のヒスカリア誘拐事件は、魔力継承ができないのであれば、次代にと足掻いた結果ではないかと思われます」


 国王は手を握りしめ、一旦俯いた後、顔を上げると、神妙な面持ちでヒスカリアを見た。


「ヒスカリア嬢の誘拐事件を起こすまでに、多くの罪を重ねていたということか……」


「はい。今回私はヒスカリアと共に、女神の計らいで、過去のバークレイ家の、あの事故を目撃してきました。あれは事故ではなく、明らかに他者の故意によるもの、それも王宮の地下に封印されていた禁忌の呪いの魔道具が使用されていました」


「なんだと!?」


「王太子殿下にご確認いただいたところ、『悪喰の呪い』の魔道具が消えていたとのことです」

「……それは本当なのか?」


 信じたくないのか、国王はすがるような表情で王太子に振り返る。


「はい。昨夜地下へ入り確認しましたが、魔道具がなくなっていました。ジェインがベリル侯を遣わしてくれたおかげで、記憶魔法で証拠も押さえました。あそこは王家の人間しか入れませんからね……マナリア妃本人が動いていたようです」


「そうか……」


 国王はガックリと項垂れ、自らの側妃のしでかしたことに、頭を抱える。

 禁忌の呪いを解放しただけでなく、三侯家のうちの二家が彼女によって大きな打撃を受けた。


 そして、どちらにも最終的に女神が関わっていることに、恐怖を感じていた。


「……あのような側妃を放置し続けていたのだ。私は女神に見放されているだろうな……」


 国王の言葉に誰もが黙り込む。

 この国が魔力を維持し続けていられるのも、女神がいるからだ。


「その前に、けじめをつけなければな。マナリア妃、そして第二王子は斬首刑に処すことにする」

「陛下!? 第二王子も、ですか!?」


 国王の決断に、それまで黙っていたレイヴィスが驚きの声を上げる。

 第二王子はレイヴィスにとって甥にあたることもあり、言わずにはいられなかったのだろう。


「ああ。第二王子もだ。マナリアのみを罰したところで、あやつにとっての希望が残ってはいかん」

「ですが……陛下にはお二人しかお子がいらっしゃらないのですぞ!?」


「……わかっておる。なれど、そうせねば女神に示しがつかぬ」


 ヒスカリアへの女神の対応を考えると、三侯家は女神のお気に入りの可能性が高い。

 女神の怒りをこれ以上買わないためにも、ここで示しをつける必要があると国王は決断したのだ。

 


 そうして、マナリア妃と第二王子には斬首刑が言い渡された。

 マナリア妃の実家であるエール侯爵家も爵位を剥奪され、連座となった。





 それから数日後、一連のことが解決し、ヒスカリアはジェインと共に再び王宮にやってきた。

 今回は王太子に会うためである。


 国王は以前から王太子の病をなんとかできないかと、ジェインに相談していたけれど、元々近親婚のせいで血が濃すぎるのが原因のため、治してもすぐにまた症状が出てしまう。

 対処療法しか術がない状態をずっと憂いていた。


 そして今日、ヒスカリアを連れて王宮に来たのは――


「さあ、ヒスカリア、殿下に魔法をかけるんだ」

「え? 時間を止めるのですか!?」


 いきなり魔法を、それも王太子にかけろと言われ、ヒスカリアは動揺を隠せない。

 ヒスカリアは記憶を取り戻したことで、父であるカリオンから魔法の使い方を学んでいたことを思い出していた。

 それをジェインに話した途端に、王宮に連れてこられたのだ。


(記憶が戻っただけで、まだ実際に時間魔法を使ったこともないのに、いきなり王太子殿下にかけろだなんて……)


 けれど、自分が役に立てるのであれば、なんとか力になりたいと思っていたヒスカリアは、父との会話を思い出す。


(でも時間を止める場合、私がずっと魔力を注ぎ続けなきゃいけないし、ずっと王太子殿下のそばにいられないから、どうすれば……)


「う〜ん……」

「何を悩んでいるんだ?」


 頭を抱えるヒスカリアに、ジェインが問いかける。


「時間を止める魔法だと、私が終始殿下の側にいる必要があるので、どうしたものかと……」

「確かに、君がずっと殿下の側にいるのは、看過できないな」

「ジェ、ジェイン様……!」


 耳元で優しく告げられ、思わず真っ赤になるヒスカリア。

 すると、ベッドの方から笑い声が聞こえる。


「……君たちは本当に、仲良し、だね。しんどいのに笑ってしまったじゃないか」

「殿下! すみません!!」

「笑えるならまだ大丈夫だな」


 必死に謝るヒスカリアとは対照的に、ジェインはとても気安く返す。

 王太子とはいえ、ジェインにとっては従兄弟で、幼い頃から交流があるからだろう。


「さて、冗談はさておき、苦しそうだな。まずは一旦治癒魔法で症状を緩めよう」

「ああ、頼む」


 ジェインがベッド脇に腰掛け、王太子に治癒魔法を施していく。

 その間、ヒスカリアは、時間魔法以外でどうにかできないかを必死に考えていた。

 その時ふと、祖父の手帳のことを思い出す。


(あの手帳はお祖父様が亡くなってからも封印が施されていた。つまり、あの魔法は常時魔力を必要としない。もしかしたら、あれなら……!)


「ジェイン様! 一つ方法があるかもしれません!」


 ヒスカリアは治癒魔法をかけ続けているジェインに、時間の封印魔法について詳しく話した。

 説明を聞いたジェインは、しばらく考え込むと、意を決したようにヒスカリアに声をかけた。


「私が治癒魔法でルヴィアンの症状を極限まで治癒する。その瞬間に、封印を施すことは可能か?」

「可能だと思います。ですが、それだと殿下のお身体全体を封印してしまうことになりませんか?」


「そこは問題ない。病の根源には、私が誘導する」

「それなら……病だけ封印できると思います」


 やり取りを目の前で聞いていた王太子は、嬉しそうに微笑むと、大きく頷く。


 それからジェインは言葉の通り、そのまま極限まで治癒を行い、ほとんど症状がない状態にまで回復させた。

 そして、病の根源を赤く光らせ、そこへヒスカリアが一気に魔法を送り込む。


 王太子の身体に魔法陣が浮かび上がり、ヒスカリアの身体が魔法陣と共鳴するように光を放つ。

 光が全て魔法陣に吸収されたところで、魔法陣は消え、それと同時にヒスカリアはその場に倒れ込んだ。


「ヒスカリア!!」


 慌ててジェインが駆け寄る。

 ヒスカリアの意識はあるようで、駆け寄ったジェインに満足そうに微笑んだ。


 一方、王太子はジェインの治癒魔法のおかげで元気になっていたものの、ヒスカリアの封印が効いているかはわからないと、しばらく様子をみることになったのだった。


お読みいただきありがとうございます。

事件も全て解決して、王太子の病気もこれでなんとか……。

次はついにラストです!エピローグになります。

次回もお楽しみいただけますと幸いです。


ブックマークや⭐︎の評価、いいねもありがとうございます!

大変励みになっております。

最後までどうぞよろしくお願いいたします。

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