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◇事故の真相

 馬車が影にどんどん追い詰められていく。

 その様子にジェインは慌ててヒスカリアに声をかける。


「ヒスカリア、目を閉じるんだ! 君は見てはいけない! なんなら、耳も塞いでおくんだ。さあ、早く!」


 焦りながらヒスカリアにジェインがそう告げるも、ヒスカリアは首を横に振り、強い眼差しで彼の目を見つめる。


「大丈夫です。私は知らなければなりませんから……!」


 意を決したヒスカリアが再び崖を見ると、馬車は崖にかろうじて止まった状態で、周りには黒い(もや)が渦巻いていた。

 どうやら馬車は魔法で時を止められているのか、崖の端にかろうじて引っかかっている状態で、半分宙に浮いている。


 そして、馬車の外では、父親らしき男性が靄を出し続ける影たちに魔法を放ち、交戦している最中だった。

 男性は必死に魔法を放っているものの、全く効いていないのか、なぜか影たちの勢いが増している。

 よくよく見ると、どうやら影たちは男性の魔法から魔力を取り込み、自らの力としているようだ。


「これは、やはり禁忌の……闇の、悪喰の呪い」

「悪喰の呪い……?」

「相手の魔力を喰らい尽くす呪いだ。王宮の地下に封印されているはずだが、なぜここに……」


「どうにもできないのですか!?」


「この呪いに対抗できるのは、光属性のみ。どうやら君の父君は光属性が使えないようだ。時間魔法を得意とするバークレイでは、勝ち目はない」


 焦るヒスカリアに対し、ジェインは淡々と状況を説明する。

 けれど、ヒスカリアの焦りはどんどん募っていく。


「そんなっ! ジェイン様ならなんとか――」

「ヒスカリア、落ち着け! これは過去だ。私たちにはどうにもできない」


 ヒスカリアの言葉を遮り、繋がれた手に反対の手を重ねる。


「あ……」


 ジェインの手の温もりに、ようやくこれが現実ではないと思い出したのか、ヒスカリアは目を見開いた。


「このまま、見守るしかないのですね……」

「歯がゆいだろうが、仕方がない。見届けるのだろう?」

「はい」


 ゆっくりと頷くと、ヒスカリアは再び崖を見つめ出した。

 その時だった。


 男性が魔法を放とうと構えると、影がそれを待っていたとばかりに急に靄が濃くなり、彼を包み込んだ。

 そして、男性の魔力を直接吸収し始める。

 見えなくなっていく男性の呻くような声と共に、仄かに魔力が漏れているのか、靄の隙間から時々光がチラついている。


 すると今度は、馬車の中から子供の泣き声が大きく響き渡った。


「ああああ〜〜〜!! おかあさま、おとうさま〜〜〜!!」


 泣きじゃくる子供の声に、一瞬男性を包む靄が揺らぐ。


「魔力を吸収されすぎて、時間魔法を維持できなくなったか……」


 ジェインの言葉によって、ヒスカリアは状況に気づき、馬車を見る。

 時間魔法が解除されたことで、馬車は崖に向かってどんどん傾き始めていた。


 その刹那、靄の隙間から、男性の大きな声が響き渡った。


「ヒスカリア!!」


 泣きじゃくる子供に向かって、男性が必死に手を伸ばす。

 子供は父の声に反応して、扉を開けてしまう。


 すると、影は子供の魔力を察知したのか、一気に馬車へも靄を広げ始める。

 男性は子供を守ろうと、馬車に駆け込み子供を抱え、再び時間魔法を唱えた。

 けれど、魔力を吸い尽くされ、もう魔法を発動することはできない。

 そうして、馬車は男性が駆け込んだ勢いのまま、崖の下へと落ちていく。


 落ちていく馬車の中から男性の「女神様――!」と叫ぶ声が聞こえ、その後、地面にぶつかり、大きく何かがひしゃげる音が響き渡った。


 一部始終を見ていたヒスカリアは、まさかの真実に愕然となる。


「……そんな。お父様は、私が原因で……私を助けようと飛び込まなければ……」


 そのまま崩れ落ちそうなヒスカリアを、ジェインが力強く抱き寄せる。

 肩をしっかりと支えながら、ジェインは力強くヒスカリアに話しかけた。


「君のせいじゃない。もはやあれは時間の問題だった。私たち魔力持ちは魔力が枯渇しては生きていけない。それに――」


 ジェインがヒスカリアを慰めていると、急に空が光り出し、崖の下に向けて一筋の光が伸びる。

 その光に、二人は思わず目を奪われた。


「あれは」

「女神様……?」


 空を見上げると、そこには先ほどヒスカリアが会った姿と全く変わらない、美しく妖艶な女神が崖を見下ろしていた。


『なんと哀れな……』


 女神はそう呟くと、光で影と靄を蹴散らしながら崖下へと降りていく。

 ヒスカリアとジェインも互いの顔を見合わせ、頷くと、女神のあとを追いかけた。


『カリオン、まさか力を継いだばかりのお前が狙われようとはな。妾は人の生死に干渉ができぬ。だが、お前のバークレイの存続を願う思い、叶えてやろう』


 女神が見つめる先には、馬車から身を投げ出され、娘を抱いたまま今にも息絶えそうな男性、カリオンの姿があった。

 あまりの状況にヒスカリアは目を覆いたくなるけれど、見届けなければいけないと必死に自らを鼓舞する。


(お父様は、命をかけて私を守ってくださったのだから、私がしっかり見届けないと……!)


 カリオンが守った娘は顔に傷を負い気絶しながらも、息をしているようで、女神はそっとカリオンの頬に触れた。


『娘のヒスカリアに、魔力の継承を行おう。だが、幼い身体にこの魔力量は耐えられぬ上、またお前のように狙われる可能性もある。自衛できるようになるまでは、妾が封印を施す。それでよいな』


 女神の言葉に穏やかに微笑むと、カリオンはそのまま息を引き取った。

 それから女神は、幼いヒスカリアに魔力の契約継承を行う。


 魔力継承の影響で目を覚まし、痛みとショックで泣きじゃくる娘に、女神は『この記憶はお前の枷になる。しばらくは忘れておるほうがよかろう』と、魔力と共に記憶を封印し、その場を去っていった。



 しばらくして、光を見て駆けつけた人々によって幼いヒスカリアは救助された。

 それ見届けたところで、ヒスカリアとジェインの姿は薄くなっていった。

 




 再び真っ白な空間に戻ってきたヒスカリアは、女神を前に堪えていた涙が溢れ出す。


「女神様……私のせいでお父様が……」

『お前のせいではない。カリオンは最後までお前を守ったのだ。あの満足そうな最後の笑みを見たであろう?』


 最後に女神に向けた微笑みは、そういう意味だったのか。

 てっきりバークレイの力を繋げられて満足したのだと思っていたヒスカリアは、さらに涙を浮かべる。


『記憶が戻れば、カリオンとステラ、お前の両親がいかにお前を愛していたかがわかるだろう』


 そう言うと、女神はヒスカリアの前に手をかざす。


『目を閉じよ。記憶と力の封印を解く』

「はい」


 言われるがままに目を閉じる。

 すると、目を瞑っていてもわかるほど暖かな光がヒスカリアに注がれ始めた。


『今のお前にはジェインがいる。あやつはお前が思っている以上に、お前のことを大事に思っておるぞ? きっとお前を助けてくれる。ヒスカリア、幸せにな』


 その言葉を最後に、女神の気配は消え、ヒスカリアの身体はどこかに落ちて、そのまま意識を失った。


お読みいただきありがとうございます。

ついに事故の真相が明らかになり、魔力の封印も解かれました。

次は真相を知ったヒスカリアとジェインが動き出します。

次回もお楽しみいただけますと幸いです。


ブックマークや⭐︎の評価、いいねもありがとうございます!

大変励みになっております。

あと2話を予定しておりますが、長くなりそうなら、もう少し分割するかもしれません。

引き続きどうぞよろしくお願いいたします。

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