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◇側妃と第二王子の思惑

遅くなってしまい、申し訳ありません。

攫われた後のヒスカリア側の話になります。

どうぞよろしくお願いいたします。

「母上、首尾は? どうなった??」


 離宮へ戻ったばかりの側妃に、ラーカスが意気揚々と尋ねる。


「ええ。上手くいったわ」


 不敵に微笑みながら、後ろに控えている黒い装束の従者たちへ振り向くと、彼らに拘束されているヒスカリアに向かって扇子を向ける。


「この子……ヒスカリアとか言ったかしら? 継承前だと聞いていたのに、ヴァルガスの扉を開けていたわ」

「まさか……!?」


 さすがにそこまで魔力を持っていると思っていなかったのか、ラーカスの表情に驚きと同時に焦りが見える。


「事実よ……全く忌々しい。侯爵家の分際で魔力持ちというだけでも腹立たしいのに、公爵家や王族と並び立てるなんて!」


「だけど、それだけの魔力持ちなら、ちゃんと継承したらジェインにも匹敵するかもしれないよね!」


「ええ、そうね。そうかもしれないわね」


 怒りを露わにしていた側妃は、見た目よりも幼い第二王子の物言いに何かを含みつつ嬉しそうに頷く。


「……本当はあなたがバークレイの魔力を継承できたら一番良いのだけれど……」

「まさか……母上は僕をビオネルのバカと同じ目に遭わせる気なの?」


 ビオネル――他者に魔力を継承させようとして、女神に見放された侯爵家。

 契約に反して継承しようとした人間は、魔力に身体が耐えられず、消滅したという。


「そんなことするわけないでしょう!? あなたはわたくしの宝ですもの」


 そう言ってラーカスに微笑むと、振り返りながらヒスカリアを強く睨み、再び声のトーンを落とす。


「……だからこそ、ジェインにだけは絶対に渡してはいけないのよ。この娘が継承して、さらにバークレイの力まで得てしまったら、今以上の権力を握ってしまうわ……」


 怒気を孕んだ母親の表情に、ラーカスは思わず息を呑む。

 魔力を持たない側妃にとって、強い魔力を持つジェインやヒスカリアは脅威以外の何ものでもない。

 国王がジェインに王位を譲ろうと考えていることなど全く知らない側妃は、先ほど転移魔法を強制的に行使されたことを思い出したのか、ぎりりと唇をかみしめた。


「あんな化け物に、国を乗っ取られてたまるものですか! それならばまだあの身体の弱い王太子に即位させて、傀儡にした方がまだマシだわ! そのためにも、この娘はあなたにこそ必要なのよ、ラーカス」


「ふふふふ。やっぱり、そうだよね。僕にこそ、必要な娘だよね! だけどさ……攫ってきたのは良いけど、陛下に会いにきたってことは、もう婚約も成立してるよね? 魔法契約してたら厄介なんじゃないの〜?」


 質問しているのに、なぜか何とかしろと強請るかのようなラーカスの言葉に、側妃は自信ありげな表情を向ける。


「そんなの簡単よ。どうせジェインのことだから、この娘に頓着なんてしていないでしょうし、契約だけなら問題ないわ。今のうちに既成事実を作って、この子をキズモノにしてしまえば良いのよ! そうすれば、ジェインだって引かざるを得なくなる。婚約だって破棄するに違いないわ」


「既成事実! そっか! さっすが母上!」

「あなたのためですもの、いくらでも知恵を絞るわ」


 息子の喜ぶ顔に満足そうに微笑む。


「まあでも、この娘だって公爵夫人より王子妃のほうが良いはずだよね! ジェインにはカナリアが嫁げば良いし、そうすれば、全てが丸く収まる。カナリアはさ、いつも『ジェイン兄様、ジェイン兄様』って煩くて仕方ないんだよね」


 よほどカナリアが苦手なのか、顔を顰めながら告げるラーカスに、側妃は宥めるように言葉を続ける。


「カナリアは、陛下の妹の娘だから甘やかされすぎなのです。魔力も少ないくせに。だから、あなたには合わないわ。あなたの言う通り、それで全てが丸く収まるのよ」


「みんなでハッピーにならなくちゃね」


 側妃提案に無邪気に飛びついたラーカスは眠らされているヒスカリアをじっと見つめる。

 その様子に側妃はゆっくりと口角を上げた。


「早速準備に取り掛かりましょうか。あなたは地下の部屋を使いなさい。いざという時のために、以前渡した魔道具を持って入るのよ? わかったわね」


「うん。じゃあ、部屋に取りに行かないと」


「なるべく急ぐのよ。その間に、魔道具を使って離宮に魔力阻害の結界を貼ります」


「そっか! それならジェインも魔法が使えないよね。もし使えたとしても弱体化はできる。なら、たくさん設置しなきゃね!」


「ええ。もちろん、そのつもりよ。この出入り口だけ最後に設置するから、ここから入って来るようにしてちょうだい」


「わかった。じゃあ、地下の部屋の開錠するから、その娘を運んでおいて。くれぐれも、起こさないようにね!」


 そう言ってラーカスはそそくさと地下の部屋を開錠すると、本宮の自室へと魔道具を取りに駆けて行った。





「ん……ここは……」


 目覚めた途端、ベッドのような場所に寝かされていることに気づいたヒスカリアは、恐る恐る辺りを見回す。

 間接照明だけがある薄暗い部屋。

 窓はなく、扉さえも見当たらない。


(そうだわ……私、部屋に入ろうとしたところをマナリア様に襲われて……ここは一体どこなの?)


 視界の端で、何かが動くのが見えた。

 そちらをじっと見ると、それは、男性が何かの装置を動かしている後ろ姿で……そして、ヒスカリアの視線に気づいたのか、その誰かが振り返る。

 自分に向けられている見覚えのある嫌な視線に背中がゾクッとした。


「え……あ、あなたは……」


「あ〜あ、もう目覚めちゃったのか〜残念。まあでも、結界は設置できたから大丈夫かな。それに『あなた』って失礼だね。僕は第二王子のラーカス。『殿下』って呼ばなきゃね〜?」


「で、殿下……」


 ニヤニヤと不敵な笑みを向けながら、ラーカスが無遠慮にヒスカリアに近づく。

 謁見の間と違って、助けてくれるジェインはここにはいない。


「……い、いや! 来ないで!!!」


「失礼だなあ〜ただ近くに行こうとしているだけなのに。なんでそんなに怯えられなきゃならないのかな?」


 思わず振り払おうとしたヒスカリアの腕を取ると、ラーカスは責め立てるようにその腕をベッドに押さえつけた。

 組み敷かれるような状態になってしまったヒスカリアが、ビクともしない力に、どんどん顔を強張らせる。


 ラーカスは自分が優位な体勢になると、そのままの状態で嬉しそうに、今に至った経緯を完全なる自分の主観で、ヒスカリアに聞かせ始めた。


「お前はジェインなんかじゃなく、僕にこそ相応しい! だから母上にお願いしたのだ。その魔力、僕のために役立ててもらおうじゃないか! それにお前だって公爵夫人なんかより王子妃のほうがいいだろう? しかも、側妃じゃない。正妃だぞ!? お前の出自を考えたら、これ以上の栄誉はないはずだ」


「……で、ですがっ、私には婚約者が……」


「ああ。まだ婚約者だがな。面倒なのがいるよなあ〜。だからそのために、今からここで、お前と既成事実を作ろうと思っている」


「……ぇ」


 気持ちの悪い笑顔でそう言い切るラーカスに、ヒスカリアの目が見開かれる。


(この人は一体何を言っているの……?)


「ここなら誰にも邪魔されない。それに魔道具を仕込んでおいたから、ジェインにだって見つけられない。だから、お前は何も気にせず、私に身を委ねれば良い」


「嫌!!!!」


 めいいっぱい力を込めてラーカスの腕を振り切り、ベッドから飛び出す。


(……早く逃げなきゃ!!!)


 けれど、すぐに追いかけてくるラーカスに捕まり、再びベッドへと押さえ込まれう。

 さらに、ラーカスに上に乗られてしまったヒスカリアは全く身動きが取れなくなってしまった。


 すると馬乗り状態になったラーカスは、この状況に興奮しているのか、先ほど以上に饒舌になり、目がどんどん吊り上がっていく。


「逃げたって良いことは何もない。お前も楽しめば良いんだよ。どうせジェインもお前のことは、魔力を家門に取り込むための道具としか思ってないんだ。それなら、少しでも位の良い方に流れるほうが、お前にとっては幸せってもんじゃないのか?」


 そう言い放ったラーカスは、ヒスカリアのドレスを破こうと、胸もとの見事な刺繍に手をかけようとした。


「嫌っ!! 助けて、ジェイン様!!!!」


 ヒスカリアが無意識にジェインに助けを求め、怖さのあまりぎゅっと目を瞑ったその時だった。

 薬指にはめていた婚約指輪から白い光が放たれ、それと同時にラーカスを吹き飛ばす。



 ラーカスの重みがなくなり、拘束を解かれたヒスカリアは何が起きたのかと、恐る恐る目を開ける。

 手元を見ると、指輪がまだ白く光を纏っていた。


(まさか……ミリアの時と同じ……!?)


 怯えつつもゆっくり慎重に床を見回すと、黒い靄に包まれ、呻き声をあげるラーカスの姿があった。


(……!?)


 先ほどまでのことを思い出し、無意識に体が震え出す。

 そして、さらには涙が溢れ出してくる……。


(私……王子様を………どうしよう……これからどうなってしまうの……)


 そうしてベッドの上でヒスカリアがただただ震えていると、突然、目の前の壁が崩壊し、風がその破片を巻き上げていく。


「ヒスカリア!!」 


 崩壊された壁の先からヒスカリアを呼ぶ声が聞こえる。

 怯えながらも聞き覚えのあるその声に、思わず反応したヒスカリアの視線の先には、先ほど無意識に叫び求めた、その人の姿があった。


(ジェイン様……助けに来てくださった……)


 安堵を覚えたのか、ヒスカリアはそこで再び意識を手放した。


お読みいただきありがとうございます。

攫われた後のヒスカリア側のお話でした。

無意識にジェインに助けを求めていたヒスカリア。

次は助かった後、公爵邸での二人のお話の予定です。

次回もお楽しみいただけますと幸いです。


ブックマークや⭐︎の評価、いいねもありがとうございます!

大変励みになっております。

今回は土日更新間に合わず、日付を跨いでしまい、申し訳ありませんでした。

この作品は7月中に完結予定で進めております。

引き続きどうぞよろしくお願いいたします。

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