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◇ヒスカリアの行方(ジェイン視点)

◆ジェイン視点


 ジェインが控え室に戻ると、扉の認証魔法陣が起動したまま、ロックされた状態になっていた。


「ヒスカリア……?」


 不審に思って声を掛けてみるものの、返事は返ってこない。

 それどころか、開こうとした形跡はあるのに、本人の姿はどこにもない。


 扉のプレートに魔力を流しロックを解除して部屋に入り、中を見渡してもヒスカリアの姿はなかった。


「ヒスカリアに一体何があったんだ……」


 再び廊下に出て痕跡を探そうと辺りを見回す。


 王太子の部屋からこの控え室まで、誰ともすれ違わなかったし、今も周りには使用人の姿すらない。


 再び扉のパネルに手を翳し、解析するための魔法陣を展開して、ヒスカリアが魔法を込めたであろう時間を探る。


 ほんの数分前に、自分以外の大量の魔力が込められた痕跡を確認できた。


 ――ヒスカリアだ!


 時間を確認したところで、扉から少し離れ、扉に向かうようにして立つ。


 時間魔法や記憶魔法が得意ではないものの、全属性のジェインに使用できない魔法はない。


(あまり精度は期待できないが仕方ないな……)


 普段であれば、ボソボソと囁くように唱える呪文を少し大きめに唱え始めた。


「時よ、示せ――」


 その瞬間、扉の付近一面に金色に光る魔法陣が広がる。

 そして、魔法陣に向かって手を翳し、目を瞑る。

 翳した手から魔力が流れ込み、魔法陣がさらに煌々と光を放った。


(この時間だと部屋に着いてすぐといったところか。私と離れている間に一体彼女の身に何が起きたんだ……)


 目を開けたジェインの前には、数分前のヒスカリアの姿が半透明に映し出される。


 半透明な彼女は、難しそうな緊張したような表情で扉のプレートに魔力を注ぎ込んでいた。

 魔力を注ぎ切ると、プレートからノブが現れ、それを見て珍しく嬉しそうに笑っている。


「上手くいったんだな……初めてにしては上出来じゃないか」


 満足そうに笑うヒスカリアの表情に無意識にそう呟いている自分に驚き、口元に手を当てる。


(私は何を……いやでも、彼女が懸命に頑張った成果が出たのは喜ばしいことだし、それに彼女のあんな笑顔は初めて見た気がする……)


 実物ではない彼女の笑顔になぜか温かな気持ちになる。

 だが、今はそんな場合ではないと、自分の中で言い訳をしつつ、引き続き半透明な彼女の様子を見守った。


 すると、扉から出現したノブに手をかけたヒスカリアが、こちらに向かって振り返った。


 一瞬自分に振り返ったのかと思い、ジェインは目を見開く。


「え? ヒスカリア?」


 だが、そんな訳はないと思い直し、彼女の視線の先を追うと、そこには、先ほど謁見室で自室へと転移させた側妃の姿があった。


 ヒスカリアに何か言っているのか、目尻を上げて高圧的な態度をとっている。


「やはりこいつの仕業か……」


 嫌な予感に再びヒスカリアのほうを見ると、側妃の姿に驚いた様子の彼女は、真っ黒な衣装を着た男たちに後ろから羽交締めにされ、何かを嗅がされた後、連れ去られていった。


 一連の展開を見終わったジェインは、無意識のうちに強く手を握りしめていた。


「……あの女、私を本気で怒らせたな――」




 ジェインは急ぎ控え室に入ると、先ほどプレートで得た魔力の情報を元に、ヒスカリアの魔力探査を始めた。


 側妃の離宮にこのまま乗り込んでも構わないが、居るかどうか確証もないまま向かって、ヒスカリアが別の場所で何かされていては困る。


 まずは、何よりヒスカリアの安全が最優先だ。


 それに下手に力を示してしまえば、国王に付け入る隙を与えかねない。


(これがきっかけで国王になるなんて、たまったもんじゃない……)


 ヒスカリアの救出は絶対だが、なるべく大事にならないようにしなくては。


 だが、ヒスカリアのように普段から魔力を使わない人間の魔力探査は難しい。

 指輪の魔法も発動しない限り魔力探査に引っかかることはない上、指輪がどういうものかを知っている側妃がアレに触れるとは思えないのが厄介だ。


 王宮に張っている防御魔法に干渉して、それを伝ってヒスカリアの魔力を探索するものの、それらしきものは全く引っかかってこない。


 その代わりに、側妃の離宮周辺に複数の魔道具が使用されているのが感知できた。


「魔力を持たない側妃の離宮で魔道具か。ここにヒスカリアが居るかはわからないが、かなり可能性は高そうだな……」


 そう思っていると、王宮から微弱の魔力を放ちながら、離宮へと移動する気配があった。

 ヒスカリアの魔力ではないが、微量ながらジェイン自身の魔力に近いものを感じる。


(この魔力とこの弱さ……ラーカスか!)


 離宮から出てきたということは、今回は側妃のみではなく、ラーカスも犯人である可能性が高い。

 ラーカスの魔力に目印をつけたジェインは、魔力探査を行ったまま、離宮へ向かうことにした。





「準備は整ったわね……」


 そう言いながら離宮の窓辺で使用人たちに指示を出している側妃の姿を見つける。


 一方で、目印をつけていたはずのラーカスの気配が、いつの間にか消えて、追えなくなっていた。


(離宮の中からは出ていないはず……側妃と共にいないということは、ヒスカリアはラーカスと一緒なのか?)


 不安になりつつも、離宮の周辺の魔力を調べる。


 どうやら離宮に魔力阻害の魔道具を複数設置しているらしい。

 だが、そんなもの、ジェインには全くもって無意味だ。


 転移魔法を使い、窓辺で佇む側妃のいる部屋へ物音ひとつ立てることなく侵入する。


「マリアナ妃。さっさとヒスカリアを返してもらおうか!」


「!? 嘘っ!? 何であなたがここにいるのよ! 魔力阻害で入ってこられないはずじゃ……しかも、転移魔法なんて。この魔道具の周りでは魔法が使えないはずよっ!」


 窓のほうに後退りながら、側妃はまるでバケモノでも見るかのようにジェインに怯える。


「こんな弱い魔力阻害が私に効くわけがないだろう。本来の王族なら、これくらい私に限らず皆効かないな。効くのはラーカスくらいじゃないか?」


「なっ! ジェイン! 王子に向かって失礼ですよ!!」


「王子か……魔力量も乏しい上に、人の婚約者まで攫う王子とはな。王家の面汚しでしかない者を王子と呼ばねばならない国民はさぞ可哀想だな」


「な、なんてことを……!」


 側妃は顔を真っ赤にさせながら、ジェインに向かって声を張り上げようとする。


 ところが、ジェインによってその声は封じられた。


「!? ……っ! っ!」


 喋れなくなった側妃は首を手でさすりながら、声を出そうと必死にもがく。


 先ほど、謁見室で国王がラーカスにかけたのと同じ魔法をジェインは側妃に放っていた。


 どうせこの側妃のことだ。

 ヒスカリアの居場所など素直に吐くはずはない。

 であれば、直接記憶を覗くまでだ。


 ジェインは暴れる側妃の手足を椅子に固定し、そのまま彼女の頭上に手を当て、魔力を流す。


 すると途端に、魔力を直接脳に浴びたことで、頭がぼーっとなったのか、急におとなしくなり、側妃の表情が恍惚としたものになる。


 その間に、側妃の記憶から、ヒスカリアの動きを追う。


 ヒスカリアは攫われた後、ラーカスの部下に手渡され、そのまま離宮の地下室へと運ばれたようだ。


 地下の入り口には魔法で施錠された扉がある。

 どうやらそこにラーカスと共にいるらしい。


(ヒスカリアが危ない――!)


 咄嗟にそのまま側妃の拘束を強め、部屋に展開していた側妃付きの使用人や護衛を蹴散らすと、ジェインは彼女を救うべく地下の部屋へと向かった。



 地下の部屋の扉のプレートには、どうやらラーカスの魔力のみが登録されていたようで、他の魔力を受け付けない仕様になっていた。


「下手に壊すと完全に開かなくなってしまうか、次元が離れてしまう可能性もあるな。仕方がない、最速で解析してロックを解除しよう……」


 ため息をつきながら腰を据えようとした矢先。


 分厚い扉の向こうから、ヒスカリアの魔力が一気に広がる気配がした。


(一体中で何が起きている……!?)


 焦る気持ちを抑えきれなくなったジェインは、プレートを解析中の魔法陣を展開したまま、扉を蹴散らすべく、信じられない出力で風魔法を放った。


 魔法の一陣が扉に体当たりした後、かまいたちのような細く切れ味のある烈風が吹き荒れ、粉砕された扉の破片を巻き上げる。


 物理的に完全に扉を破壊してしまった。


 どうやら、プレートは本当に鍵の役割のみを果たしていたようで、扉が破壊されると、その先には部屋が広がっていた。


「ヒスカリア!!」


 部屋にジェインが踏み込むと、天蓋付きのベッドの上で震えて怯えるヒスカリアと、その側で床に転がり、黒い靄に包まれながら呻き声を上げるラーカスの姿があった。

お読みいただきありがとうございます。

攫われたことに気づいたジェイン視点のお話でした。

王宮の中で大事な部屋は基本的に魔力を通さないと開かない仕組みになっています。

なので、実は側妃は入れない部屋が多いです。

次は攫われた後のヒスカリアのお話です。

次回もお楽しみいただけますと幸いです。


ブックマークや⭐︎の評価、いいねもありがとうございます!

大変励みになっております。

今後もなるべく土日は更新するよう進めて参りますので、

引き続きどうぞよろしくお願いいたします。

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