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◇側妃と第二王子

今回少し長めです。

長くなってしまったので分割するか悩んだのですが、割るには少ないので、このまま1話にさせていただきました。

よろしくお願いいたします。

 王宮に到着すると、入口のホールにはなぜか多くの貴族たちが集まっていた。


「なぜ今日はこんなに賑やかなんだ?」


 ジェインが不機嫌そうに警備の兵に尋ねると、兵からは意外な言葉が返って来る。


「閣下がご婚約者をお連れになることを誰かが触れ回ったようで、そのお姿を一目見ようと集まったようです」


 まさか自分たちが目的だとは思いもよらず、ジェインとヒスカリアは思わず王宮の貴族たちを見渡す。


 すると、ジェインに気づいた貴族の一人が大きな声を上げた。


「ヴァルガス公爵がお見えになったぞ!!!」


 それを皮切りに、他の貴族たちも次々に気づき出すと、口々に何かを言いながら、こちらを目指して急ぎ足にやってくる。


「いらっしゃったわ!! ヴァルガス公爵よ!!」

「ということは、一緒にいらっしゃるのが婚約者様??」


「一体どこのご令嬢だ!?」


「閣下!! ご紹介を!!!」

「閣下!!!」


 群がる彼らに、ヒスカリアはどうすれば良いかと戸惑っている一方、ジェインは全く驚いた様子もなく、淡々と凍てつくような視線を向け、冷たい言葉を発した。


「やかましいぞ」


 その瞬間、騒いでいた者たちが一斉に口を噤む。

 けれど、黙っただけで、不躾な視線が執拗にヒスカリアに向けられる。


 貴族たちの態度に不機嫌を露わにすると、ジェインは今度は射殺すように彼らを見た。


「お前たちは、どうやら私に蹴散らされたいらしいな?」


 高圧的なジェインの言葉と共に彼の中の魔力が高まり、身体がほのかに光り出す。


 それを見た貴族たちはジリジリと後ずさりはするものの、ヒスカリアへの視線は止むことがない。


 それどころか、ヒスカリアを守ろうとするジェインの行動で、彼らはより彼女に興味を持ってしまったようだ。


「相手をするだけ無駄か……」


 小声でそう呟くと、ジェインは斜め後ろを振り返り、声を上げた。


「ヒスカリア、手を貸せ」

「え……は、はい!」


 ジェインの少し後ろを裾に気をつけながら歩いていたヒスカリアは、彼の険しい表情に反射的に手を伸ばす。


 ジェインはその腕を掴むと、囁くように呪文を唱え、魔法陣を展開させた。


「か、閣下! 宮殿内での魔法の使用は……!」


「構わん! どうせ私を止められる者など誰も居まい!」


 止めに入る兵を振り払い、魔法陣に魔力を流す。


 そして、ジェインとヒスカリアはその場から消えた。



◇ ◇



「まったく厄介な奴らだ……」


 大きくため息をつきながらジェインは苛立ちをあらわにした。


 隣にいるヒスカリアは、目を見開いたまま、辺りをキョロキョロと見回して、落ち着かない表情になる。


「どうした?」


「……あの、ここは一体どこなのですか?」


 ヒスカリアの目の前には、広く豪華な空間が広がっていた。


 中央には装飾がふんだんに施されたソファやテーブルがあり、壁には大きな絵画が飾られている。

 さらに窓には、刺繍に金糸が使われているのか、キラキラと輝くベルベットの重厚そうなカーテンがかけられていた。


 豪奢な光景にヒスカリアは思わず口を開けたまま目を瞬かせる。


「ここは王族専用の応接室の一つだ。王家と五大公爵家の者しか入れない。主にこの部屋はヴァルガス公爵家で使用している」


「ということは、ここも王宮内なのですか?」


「ああ。普通の貴族たちが入れない、王宮の最奥部だな。謁見の間も近いぞ」


 何やら少し自慢げにジェインがそう答えると、テーブルの上の呼び鈴を鳴らし、ソファに腰掛ける。


 それから自らの横のスペースをポンポンと叩いた。


「ヒスカリアも座れ、しばらくしたら呼びに来るだろう」


「呼びに来る?」


 ヒスカリアは、おずおずとジェインの隣に少しスペースを空けて座りながら問いかけた。


「ああ、この部屋に入った時点で陛下には伝わっているからな。それまで少しゆっくりしよう」


 ジェインがそう告げた途端、扉がノックされ、使用人たちが入ってくると、物凄い速さでお茶の準備を始める。


「……お茶をするほど時間があるのですか?」


 ヒスカリアが不思議そうに尋ねると、ジェインは肩をすくめる。


「さあな。まあ、急かされることはないだろう」


 そう言いながら、入れられたばかりのお茶を飲む。


 その姿は本当に優雅で、謁見用に正装をしているせいでいつも以上に王子様のようで、ヒスカリアは無意識にジェインに見惚れた。


(そういえば、直近で見てもすごく綺麗なお顔だったわ……)


 頭の中で馬車での出来事がありありと蘇る。


 すると、ヒスカリアはその情景を掻き消すように、その場であたふたとし始めた。


「どうした?? 何か気になることでもあったのか?」


「あ、いえ、なんでもありません!」


 一生懸命取り繕うヒスカリアにジェインが訝しげな表情を向けていると、再び扉をノックする音が響いた。


「ヴァルガス公爵、バークレイ侯爵令嬢。謁見の準備が整いましたので、お越しください」


 その声にジェインは大きくため息をつく。


「……早いな。もう少しゆっくりしても構わないが、ヒスカリア、どうする?」


「大丈夫です。問題ありません」


「そうか。では、行くか」


 すると、立ち上がろうとしたジェインがふと動きを止め、ドレスの裾を引き寄せていたヒスカリアを見る。


「……一つだけ言っておく。たぶん側妃か第二王子辺りが色々聞いてくるだろうが、何を聞かれても君は黙っていて構わない。全て私が対処する」


 ジェインの驚きの発言に、ヒスカリアは思わず身を乗り出し問いかける。


「え? それは大丈夫なのですか?」

「構わない。陛下は私たちの味方だ」


「それはどういう……」


「この国は魔力重視の国だ。腹立たしいことだが、それが君を守るということだ」


「はあ……」


(魔力がないとはいえ、王妃様がいらっしゃらない今、側妃様が一番偉い女性なのでは……しかも、第二王子は少なくても魔力持ちなのに、黙っていて大丈夫なのかしら……?)


 ジェインからはああ言われたものの、不安を拭いきれないヒスカリアは、難しい顔をしながら頷いた。


「では、行くか」

「はい」


 差し伸べられたジェインの手に、ヒスカリアが自分の手を重ねる。


 ここ数日で様になったエスコートで、二人は謁見室へと向かった。



◇ ◇



「派手に王宮に入ったようだな〜」


ヒスカリアとジェインが謁見の間に入るなり、男性の楽しそうな声が響き渡った。


 部屋の奥には大きくて煌びやかな玉座が一つ、そこには立派な髭を生やした、レイヴィスにそっくりな初老の男性の姿があった。


 玉座の斜め後ろ左右にいくつかの椅子が並べられていて、左後方に側妃と第二王子の姿が見える。



 真ん中に座る国王の前まで進むと、ジェインとヒスカリアは揃って礼を取った。


「国王陛下、ジェイン・ヴァルガスとその婚約者、ヒスカリア・バークレイ、お召しにより参上いたしました」


「ふむ。ジェイン、久しいな。変わりはないか?」


 国王の問いに、ジェインは顔を引き攣らせる。


「そうですね……ここにこうして居る時点で、変わりがあるように思いますが?」


「はははは。まあ、そうだな。これはしてやられた」


 ジェインの嫌味を含んだ返しに、国王は楽しそうに答えると、そこから急に表情を変え、じっと頭を下げたままのヒスカリアを見る。


「……して、そなたがヒスカリアか?」


 声をかけられ、顔を上げたヒスカリアは、一瞬身体を強張らせる。


 それに気づいたジェインは、そっとヒスカリアの背に手を添え、彼女を励ますように微笑んだ。 


 その姿に、一瞬、国王が目を瞠ると、目尻を下げ、二人を微笑ましそうに見つめる。


「バークレイ侯爵家が長子、ヒスカリアでございます。拝謁の栄誉を賜り、恐悦至極に存じます」


 サマリア夫人仕込みの優雅な挨拶に、国王の「ほぅ……」というため息のような感嘆の声が響く。


「美しい……話に聞いていたのとは少し違うようだが、ジェイン、この者で間違いないのか?」


「ええ、間違いありません。この一週間、サマリア夫人に基本の作法を教え込んでもらいました」


「なるほど。サマリアか。だが、一週間でか?」


「ヒスカリアは、一度見たものをすぐに覚えるという特技を持っていますので、夫人に教わるとすぐに覚えてしまいました」


 その言葉に、ヒスカリアが少し照れた様子で再びお辞儀をする。


「ほう〜。魔力量のみならず、貴族の資質も持つか……やはりバークレイの血は侮れんな」


 国王がそう言ってヒスカリアをまじまじと眺めていた時だった。



 先ほどからずっと黙って熱い視線を向けていた第二王子と側妃が声を上げた。


「陛下。僕にもご紹介いただけないでしょうか?」


「わたくしからもお願いいたしますわ」


 二人はヒスカリアを値踏みするように見ると、口角を上げる。


「良かろう。ヒスカリア、側妃のマナリアと第二王子のラーカスだ」


 そこでヒスカリアが再び自己紹介をしようとすると、なぜか国王は手で制止した。


「横で見ていたのだ。挨拶は不要だ」


 少しイラついた表情で告げた国王は、再び身を乗り出し、ヒスカリアに声をかける。


「ヒスカリア嬢、ヴァルガス公爵家はどうだ? 何か困ったことはないか?」


(え? 側妃様と王子殿下は? そのまま放置されて大丈夫なのかしら……)


 不安になり、ヒスカリアがふとジェインを見ると、いつものことなのか、全く気にする様子はなく、国王に答えるよう笑顔で促される。


 不思議に思いながらも、ヒスカリアは習ったばかりの笑顔で微笑みながら答えた。


「ジェイン様もレイヴィス様もお優しくて……とてもよくしていただいております」


 ヒスカリアの答えに満足そうに微笑む国王。


 一方、国王のぞんざいな対応に側妃とラーカスは顔を大きく歪ませている。


 すると、ラーカスが急に立ち上がり台座から降りると、ヒスカリアのほうにゆっくりと歩き出した。


「バークレイ侯爵家の長子ってことは、ヒスカリア嬢は『時の魔法』を操れるの? しかも継承者だから魔力量も多いよね! 良いなあ。羨ましいなあ。僕なんて、魔力はあっても少な過ぎて魔法を使えないのにさ〜」


 成人男性らしからぬ無邪気な反応に、ヒスカリアは妙な寒気を覚える。


 顔は笑っているのに、彼の青緑の瞳は全く笑っていない。

 ニヤニヤと笑いながら、無遠慮にヒスカリアへさらに近寄ってくる。


(怖い……!)


 咄嗟に身体を強張らせたヒスカリアの肩を、温かく大きな腕が引き寄せた。


「!?」


 驚き振り向いたヒスカリアはホッとした表情でその相手を見る。


「……ジェイン様」


 優しく頷くジェインに、安心して目を合わせ頷くヒスカリア。


 それを見たラーカスは、唇を引き攣らせ、ジェインを睨みつける。


「ジェイン! なぜ膨大な魔力を持つお前が、バークレイの娘を妻に迎える? それ以上ヴァルガスの家門に魔力など必要ないじゃないか!」


「王命ですから、陛下に聞いてください」


 しれっと答えるジェインに、ラーカスの苛立ちがさらに増す。


「お前一人でも王家より魔力が多いというのに……。陛下! これでは王家の威厳が保てません! どうせならヒスカリア嬢をこの僕に――」


 そう言いかけたラーカスの動きが突然固まった。


 どうやら急に声が出せなくなったようで、ラーカスは怯えつつもジェインを睨みつける。


 そこへ血相を変えて駆け寄ってきた側妃が、大声で騒ぎ出す。


「ラーカス!? どうしたのです!? ジェイン! お前の仕業ですか!?」


 けれど、ヒスカリアはジェインの魔法ではないことを知っていた。

 そばにいるヒスカリアは、彼の囁く声を聞いていないばかりか、国王の口がわずかに動くのを見ていた。


 側妃はまったくそれを見ていなかったらしい。


 一方で国王は、険しい表情をラーカスたちに向けると、ジェインたちに対して頭を下げた。


「ジェイン、ヒスカリア嬢も申し訳ない。ラーカス、お前には彼女に近づく資格がない」


「陛下! あんまりですわ!」


 国王は喚く側妃を一瞥してため息をつくと、ラーカスに向かって呆れたように言い放つ。


「……お前にはファーレン家のカナリア嬢がいるだろう」


「ですが!」


「私に逆らうことは許さぬ」


 息子の代わりに懸命に訴える側妃を国王が黙らせた。



 それから国王は、側妃とラーカスに退室を促したが、二人はそれを拒み、見かねたジェインがため息をつきながら呪文を唱え始める。


 二人の足元に魔法陣が光り出す。


「お、王宮での魔法の使用は禁止のはずよ!」

「構わぬ」


 国王からの許可を得たジェインは、にこやかに微笑むとそのまま二人をどこかへ転移させてしまった。

お読みいただきありがとうございます。

ようやく謁見が叶いました。

次は、国王の思惑と王太子の話の予定です。

次回もお楽しみいただけますと幸いです。


ブックマークや⭐︎の評価、いいねもありがとうございます!

大変励みになっております。

今後もなるべく土日は更新するよう進めて参りますので、

引き続きどうぞよろしくお願いいたします。

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