表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13/40

◇侯爵家の秘密 後編

「まず、このヴァルグレイヴ王国では、大魔法士の系譜である王族のみが魔力を持っている。その最たるものが王家と傍系王族にあたる五大公爵家だ。実はそれに加え、バークレイ侯爵家を含む、三つの侯爵家も魔力を受け継いでいる」


「王族以外にも魔力が……!?」


 冒頭から驚きのあまり思わず声を上げてしまう。

 一瞬怪訝そうな顔をした公爵は、ヒスカリアの問いに答えるよう話を続けた。


「いや、この三つの侯爵家には、王族の血が流れている。その昔、王女たちがこの三侯爵家に秘密裏に降嫁した。その際、直系長子にのみ魔力が遺伝するよう、魔法契約を交わしているのだ」


 そう言われてヒスカリアは、公爵が当初『長子の娘』にこだわっていたことを思い出す。


「だから、長子の娘でなければ意味がないと……」


「そういうことじゃ」


 公爵の隣で黙って聞いていたレイヴィスがヒスカリアの言葉に深く頷く。


「本来、この三侯爵家は、長子に男が生まれた場合のみ家を継がせ、女が生まれた場合は、王家の傍系である公爵家に嫁がせていた。女の場合、次子は作らない。それが決まりだ」


「……それだと家が断絶してしまうのでは?」


 考えを巡らせていたヒスカリアはふと疑問に思ったことをそのまま口に出してしまう。

 すると公爵は、まんざらでもない表情で答えた。


「その場合は、一度爵位を王家で預かり、嫁ぎ先で生まれた子どもに侯爵家を継がせる。今回の君の場合は特例中の特例だ」


 答えを聞いて納得したヒスカリアだったが、つい心の声が漏れ出る。


「でもそれだと親族間では揉めそうな気が……」


 無意識に漏らした声に気づいていないのか、叔父たちとのことを思い浮かべ、胸の辺りをギュッと掴む。

 そんなヒスカリアにレイヴィスが少し気まずそうに声をかけた。


「まあそこは、王家のゴリ押しじゃな。ただ……それには理由(わけ)があっての。王族は大魔法士から引き継がれた魔力を維持したいがために、近しい婚姻ばかりを続けていたんじゃが、それを続けると子どもが産まれにくくなる。それで渋々他家から嫁を取るようになったものの、魔力は薄くなる一方。そこで王女たちが秘密裏に降嫁したのじゃ」


「はあ……」


 あまりの話にどう答えるべきなのかがわからず、言葉が上手く見つからない。

 反応の鈍いヒスカリアに、向かいに座る公爵が少し苛立ちながら続きを話す。


「つまり侯爵家から半分は魔力を受け継いでいる嫁を得ることができるという訳だ。だが、それが公になれば、王族の弱点が知れ渡り、王家の存続が危うくなる。魔力の独占が利かなくなってしまうからな」


「だから、秘密にした……と」


「そういうことだ」


(ああ、とんでもない真実を知ってしまったわ……!)


 でも、そんなことよりも、この話が事実なら、ヒスカリアの中には王族の血が流れている上に、魔力も持っていることになる。


(さっきの喪失感は本当に魔力なのかしら? こんな話を聞いてしまって、実は魔力を持っていなかったなんてことになったら、私どうなってしまうの!?)


 押し寄せてくる不安に、思わず表情が硬くなる。


「あの、私がもし魔力を持っていなかったら、どうなるんですか?」


 不安がそのまま口からこぼれてしまったヒスカリアに、二人は目を丸くする。


「君には魔力がある。それは既に立証済みだ」


「立証済み? それはさっきの魔法陣に手をかざした時の喪失感のことでしょうか? もしかしたら私の勘違いだったかもしれませんし、それにあれは私の感覚だけのお話だと思うのですが……立証ってどういうことなんでしょうか?」


 口に出したことで、不安がどんどん加速して早口でまくし立てる。

 その不安が伝わったのか、レイヴィスが優しく微笑み、公爵を小突いた。


「ほれ、ちゃんと話してやらんか」


「……君の顔の傷痕、十年前の傷痕にもかかわらず、綺麗に治っているだろう?」

「え……あ、はい」


 ヒスカリアは侯爵邸を出る少し前に、初めて傷のない自分の顔を鏡で見た。

 鏡には、とても綺麗な、何事もなかったかのように滑らかな肌が映っていた。


「それは、君が魔力持ちだから治せたのだ」

「それはどういう意味ですか?」


 更なる質問に、公爵の顔には“面倒だ”という文字が浮かぶ。

 けれど隣のレイヴィスは、小突いた本来の思惑とは話が違っていたのか、自分で話せと目で訴えた。


「はあ……。通常、相手が魔力を持っていない場合、傷は表面上しか治せない。深い傷や過去の古い傷痕には内側から呼応する力が必要になる。だから、君の十年前の傷痕が綺麗に治ったのは、君の魔力が呼応したからだ」


「じゃあ、さっき、夫人にミリアの傷の表面を塞ぐだけならと言ったのは……」


「深い傷やあざは魔力持ち相手じゃないと消せないからな」


(あの言い方だと「表面だけしか治してやらない」と受け取られても仕方ないのに、なぜあんな言い方を……あ! 私の傷痕が治るのを見ていたから、治せないと言えなかったのね!)


「なるほど……」


 納得しつつ、若干申し訳なく思って委縮するヒスカリアと、ちゃんと考えてやっていると言わんばかりの表情を浮かべる公爵に、レイヴィスは面白いものを見るように微笑む。


 そして、とびきり嬉しそうな笑顔を浮かべてヒスカリアに話しかけた。


「それにのぅ、お嬢ちゃんがしているその婚約指輪。紫の宝石があるじゃろ? その宝石は指輪をはめたときに、お嬢ちゃんの魔力が発現して出来たものじゃ。それが目に見える魔力の証じゃよ」


「え!? これ、私の魔力だったんですか!?」


 声を上げて驚くヒスカリアに、いたずらが成功した子どものように楽しそうに笑うレイヴィスと、煩いと言わんばかりに眉間に皺を寄せる公爵。


 それからしばらくの間、ヒスカリアはじっと婚約指輪を眺めていた――。


お読みいただきありがとうございます。

ようやく侯爵家の秘密明かしが終わりました。

次からやっと公爵家です!

次回もお楽しみいただけますと幸いです。

どうぞよろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ