(2)出発
2015年7月10日 5時45分
俺は、あの歩道橋に向かっていた。
大学と家の間位の歩道橋。
いつも通ってた歩道橋なのに今日はどこか清々しい気分だ。
どこからともなく聞こえてきた蝉の声の煩さが胸を高鳴らせる。
「…何やってんだろ。」
冷静なれば可笑しいよな。会って間もないやつに旅に誘われてノコノコ支度して向かっている。
旅なんて嘘かもしれないのに。
そう思ったら、いつの間にか俯いて歩いていた。
「相変わらず、俯いてる(笑)」
明るい声の主は紛れもない天使だった。
天使は、カーキ色の軽自動車にもたれながら、鍵を回している。
「全く、来なかったらどうしよーかと思ったよ。」
天使は、運転席に歩きながら、続けた。
「まっ、楽しもうよ♪」
相変わらずの笑顔の天使に勧められるがまま、
車の助手席に乗り込んだ。
「んじゃぁー出発!」
手慣れた手つきで、車を動かす。
ラジオからは、高速道路情報が聞こえてくる。
「あのっ…聞いてなかったんだけど、目的地と期間とか」
「えぇ? ああ…目的地は四国通って、広島あたり?期間は1週間とか…?決めてないよ」
イタズラっぽい横目で俺を見たあと、また前を向く。
「一週間!?」
思わずおののく。
「大きい声だすなよ。ビックりするだろ!」
そう言いながら爆笑している。
俺はついこの間会ったばっかなやつと、一週間も過ごすのか
新手の勧誘じゃないか猛烈な不安に襲われた。
自暴自棄だったとはいえ迂闊過ぎたと思う。
「…あ!大丈夫。洋服とか貸すから安心しな」
ズレた答えに自分の流れが狂いそうになる。
「降りる。」
そうだ 反省より前にまず降りよう。
口から思わず出た声になんとか正気を保てる。
「無理無理! もう高速だもんっ!」
気づけば、高速道路を走っていた。
やらかした。途中のサービスエリアで脱走するしかない
「あぁートイレ~に行きたいな~」
上擦る声に自分でも笑いそうになる。
「逃げ出そうとしても無駄。 どこまでも追いかけてやる。」
天使の口から出た声に背筋が凍る。
終わった…
また、天使は爆笑している。
「嘘だよ! まあ色々な所見てリフレッシュするのが目的だから気ままに行こうよ。」
安心したがやはり掴めないやつだ。
窓の外を流れていく景色。
ラジオから聞こえてくる音楽が心地良い。
「窓少し開けてみ? 気持ちいいから」
天使に促されて窓を開ける。
涼しい風が、自分に当たる度、風に包まれ開放感というか
鳥になったように感じる。
「色々聞きたいんだけど」
俺は思っていること全部聞いてみることにした。
「うん、いいよ」
天使は相変わらず笑顔だ。
「あの…何者ですか?」
恐る恐る尋ねた
「人間!」