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(1)出会い

2005年7月5日ー札の辻 歩道橋ー

街も寝静まった24時30分

相変わらず蒸し暑いコンクリートジャングル。


歩道橋から見る東京タワーが自分のちっぽけさを嘲笑ってるかのようだ。


携帯のバイブ。電話に出たくなくて無視しているのに

鳴り止まない。

こんな遅くにしつこい着信。良い話しでは無いことは定かだ。


「…はい」


渋々スマホを耳に当てる。

同時に聞こえる怒声。


「仁!! お前ただでさえ一浪しているというのに、留年するとはどういう了見だ。」


耳を切り欠くかのような声の主は枚切れもない。

27年聞いてきた父の声だ。


「すみません。 でも決まったことなので。」


まだ何か言っていたが、それだけ言って携帯の電源を切る。

昔から褒められたこと無い。優秀な医師の父と母の元に産まれた凡人の自分は、プレッシャーの中で生きてきた。


なんとか一浪して入学した医学部大学。

入学したと同時に燃え尽きた自分は、それでもなんとか5回生まで踏ん張った。

なんとか自分を鼓舞し労って生きてきた。

周りから見れば、恵まれている。羨ましいと言われるかもしれないが自分にとっては限界なのである。


本当は頑張れば、普通に6回生には上がれる。だけど、もう無理だった。気づけば、休学届けを出していた。


何となく見下ろす道路。不思議と怖さは無く、無機質さの塊のコンクリートが布団の様に温かく包み込んでいる様に見える。


「ねぇー危ないよーぉ!」


微笑を浮かべながら、バイクグローブを重ねつつ歩いてくる男性。 

見た目は自分と、然程変わらないか。

そう考えていると、いつの間にか身を乗り出しかけてた自分に

気付き、後ずさる。


「死ぬのは、まだ早いんじゃない?」


一瞬にして心を見透かしそうな真ん丸な瞳。

奇抜なピンクの髪色が月に照らされて、この世のものとは思えない美しいものに感じた。天使かなにかだろうか。




「あなたには関係ないでしょ。」


相手のペースに狂わされそうな心。実際に歩道橋から飛びたかった訳じゃない。…いや無意識のうちに飛びそうになってたのは事実だ。

自分の本心が分からず、ついぶっきら棒にあしらってしまう。


「んー関係は…あるね。 目の前で飛ばれてもいい気しないしっ!」


確かに一理ある。少しだけ申し訳無い気持ちになった。


「ねぇーー時間。ある? 一緒に旅しようよ!」

満面の笑みの天使(仮)。


「え?」

藪から棒の提案に素っ頓狂な声しか出なかった。


「もっとこの世界を見てからでも遅くないと思うよっ。」


確かに1年休むつもりだったし、何もすることはない。

だけど旅行したい気持ちがあるわけでもない。


ただ黙って、時間だけが流れてく。


「ここで止まってても、何も変わんないし。

人生長いから立ち止まるのも大切だけど、気持ちは留めたらだめだよ!」

笑っている天使の雰囲気は、どこか儚かった。


「気持ち…」


考えたこと無かった。ずっと親に敷かれたレールを逸脱しないことが全てだった俺には考えたこと無い価値観だった。


「とにかく決まり。 5日後の10日出発 時間は朝6時!」

両手を開きながら大きな笑顔を作る天使。


「急だな。」

なんか、今までの自分が固すぎて少し馬鹿馬鹿しくさえ思える。


「やっと笑ったなっ。 死ぬなよ。ーー絶対に!」


さっきとは違う真剣な表情と声色に俺は一瞬時が止まった。


そんな俺とは反対側に、手を上げ歩道橋を降りていく。


歩道橋の下に停めてあったバイクのヘルメットを手に取る天使。


「ねぇ!! 名前は?」

慌てて歩道橋の上から俺は叫んだ。



「陽っ。 宮本みやもと よう!!」


それだけ言うとバイクに跨り、街へ消えていった。



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