相楽巡査へ その2
パトカー内に一報が届いた。
「匿名女性から110番通報。国道内に緑色のジャージを着た男性が道を塞いでいるとの状況。場所は、、、。」
相楽 文徳巡査はすぐに答える。
「市波川交番、了解しました。現場合計2名で向かいます。」
笠井 九識警部補は黙々と運転しながら、相楽にサイレンを鳴らすよう促す。パトカーがサイレンを鳴らし、現場へ急行する。2人は一般車両を追い抜かしながら、容疑者には会えないことをどこか感じていた。
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5分後、現場に到着したが、既に車が流れていた。相楽は溜息をつく。
路肩に停まっている赤い車のナンバーを見て、相楽と笠井は声を掛けた。
「こんにちは。先程通報いただいた方ですかね?市波川署の者です。」
赤い車から30代前半と思われる女性が降りてきた。
「はい、そうです。もう3分前くらいに、道を塞いでいた方はどっか行ってしまったんですけど、、、。」
「なるほど。どちらの方に行かれましたかね?」
笠井は当時の状況について淡々と質問を重ねていく。相楽は周りを見回し、監視カメラのありそうなところをチェックしていく。笠井は通報した女性に問う。
「道を塞いでいた人の写真とかありますか?ドライブレコーダーでも大丈夫です。」
通報した女性からドライブレコーダーの映像データを確認したところ、相楽と笠井の見覚えのある男性が写っていた。相楽は心の中で呟く。
(やっぱりか、、、。)
相楽は笠井の表情を伺ったが、どのような感情か窺い知ることはできなかった。
聞き取りが終わり、笠井と相楽は女性に挨拶をして、その場を離れた。パトカーの中で相楽から切り出す。
「やっぱりって感じでしたね。ここ最近のお騒がせ事件の一連の首謀者。ただ、何者なんですかね、この方。」
笠井は素っ気なく答える。
「わからん。とりあえず、洗うぞ。」
勤続年数2年目の相楽は気が重くなっていく。今日の騒動を含め、半月で6件の通報があったが、全ての実行犯は緑色ジャージの男であった。この為、相楽は緑色ジャージの男性をここ半月程追い続けていたが、素性を全く掴むことができていない。カメラや目撃情報を手掛かりに追っていくが、最後はパッタリ足取りが掴めなくなる。ある時、相楽は勤続年数8年目の笠井に犯罪捜査とはこんなものなのか聞いた時、笠井は静かに答えた。
「ありえない状況だと思う。ここまで特徴的な人物が全くヒットしないことは、、、。しかも、この男、我々から逃げている素振りがない。つまり、全く悪意がないんだよ。なのに、我々の捜査の網から抜け出ている。そこら辺の犯罪者よりもよっぽど質が悪いぞ。」
パトカーの中で、相楽は遠くを見つめ、笠井の言った言葉が蘇っていた。
相楽はパトカーのフロントガラスから外をぼんやり眺めていると1人の男子高校生が周りを見回しながら、先程、緑色のジャージ男が去っていった方向に走っていくのを見かけた。
笠井も直感的にその高校生の後を追うようにパトカーを動かしていく。
通報があった現場近くにある公園の方角に男子高校生が走って行くとき、高校生とすれ違う1人のマスクを着用した眼光の鋭い男に相楽と笠井の目は釘付けになった。パトカーを目にした男性は顔を下に向けた。
(あれ、こいつどこかで、、、。)
相楽が頭の中で思い出そうとしていると、笠井が相楽に命令を下した。
「先日の小学生誘拐事件の重要参考人だ。いけいけ!」
相楽はパトカーからすべり降りた。すると次の瞬間、男は相楽に気付き逃走を図った。
(逃すかよ!)
相楽は全力疾走で男を追いかける。笠井もパトカーを旋回するとともに、本部へ連絡を入れる。
7分後、相楽は勤続年数2年目にして初めて犯罪者を確保することに成功した。