楽しみ
三題噺もどき―にひゃくにじゅうきゅう。
寒さは少しずつなりを潜め、暖かなぬくもりが顔を出し始める。
国内ではまだ冷えるところがあるそうだが、地域柄暖かくなるのは早い。
―のだろう。多分。あまりそういう事には詳しくないから分からないが。
「……ふぁ…」
今日は一日温かいそうだ。
何でも3月下旬並みの暖かさだとかなんだとか。そう言われてもあまりピンとは来ないのだが。少し早めの春という所だろうか。
とは言え、風が吹けば身はすくむし、影に入れば手は震える。
「……、」
もう一度こぼれそうになったあくびをかみしめ、スマホを手に取る。
「……」
起きてから30分ぐらいたっているはずなのだが、未だに起ききらないこの頭は何というか。平和ボケもいいところだと思う。
準備を始めたとはいえ、顔を洗ったりもしてないからなぁ……。
寝起きで、とりあえず、忘れないうちにとおもって、鞄の整理をしていたのだ。
「……」
30分もかかってか?と思うかもしれないが。
いかんせん、覚醒もしていないのだ。うつらうつら、船を漕ぎながらしているのだから、終わるものも終わらない。
「……」
しかし、これはらちが明かない―ということに、今更ながら気づいた。
全く、慣れもしない夜更かしなんてするから、こんなことになるんだ……。
次の日が楽しみで、眠れないなんて……遠足前の小学生みたいなことになってしまった。
「……っしょ、」
そうだ、今日は待ちに待った楽しみの日なのだから。
さっさと起きて、気分を上げていかなくては。
「……」
とりあえず、洗面台に向かい、顔を適当に洗う。
もちろん、冷たい水で。おかげで、さっぱり目が覚めた。―ここの水冷たすぎる。
寝起きで少し上がっていた体温が、冷めていくのを感じた。
「…っと…」
そのままクローゼットに向かう―前に、キッチンに寄り道をする。
軽く何か入れておこう。確か、昨日作り置きしておいた……あぁ、あった。これで良いか。
とりあえず。と、そのタッパーを手に取りクローゼットへと向かいなおす。
「……ん―」
そのタッパーを机の上に置き、クローゼットの前に立つ。
今日はどうしたものか…。
あまり可愛い感じにしてもなぁ。とは言え、かっこいい感じにしすぎると彼女の横は浮きそうだ。
「……これ、と…」
可愛すぎず、かっこよすぎず。いい塩梅でやっていこう。ピアスはこれで。
後は、お揃いで買ったネックレスをして―。
こんなもんか。ブレスレットは、邪魔だから今日はなしだ。
鞄はあれでいいとして……。
「……よし、」
服装は決まった。あとは、腹ごしらえをして、軽くシャワーも浴びたい。
しかし、時間……
「……いっか、」
気持ち急ぎ目でいけば、ギリギリ間に合うだろう。
まぁ、彼女とは幼なじみだし、多少の遅れは許してくれるだろう。
親しき仲にもなんとやらは、今日は無視だ。何なら彼女の方が遅れる可能性大だ。
「……」
しっかし、何年ぶりだろう。
幼なじみとは言え、今は住んでいる地域は違うし、色々と行動制限がかかっているせいで、1,2年あっていない。
ようやく色々落ち着き、自分たちも動けるようになってきたので、久しぶりに会わないかと、言われたのだ。
「……」
あの時の喜びようと言ったら……。
自分でも引くくらいはしゃいでいたな。嘘かと何度も見返したりとかしてた。
なんか…キモチワルイな?
「……」
今日だって。
楽しみで寝不足って……。
「……」
ま、それはそれとして。
もう忘れよう。
今日の朝の失敗は、今から取り戻せる。
彼女との思い出を、たくさん作ればいいのだ。
「……」
うだうだと考えながら、黙々と口に食事を運び、シャワーを浴び。
後の細々としたことを終わらせていく。
「……」
服に袖を通し、軽く化粧をし、コンタクトをつける。
―そういえば。彼女に最後に会った時は、まだ眼鏡をかけて気がする。コンタクトで合うのは初めてだ。どうやら、眼鏡とコンタクトではかなり印象が変わるらしいから。
彼女の反応が楽しみだ。
「……行ってきます」
誰もいない部屋の中に。
いつもは言わないセリフを投げる。
さぁ、今日も楽しんで。
お題:喜び・幼なじみ・眼鏡