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hana  作者: まひろ
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 俺の白黒の世界に突然現れた金髪の君。彼だけがキラキラと輝き、俺の心を弾ませる。そんな絵に書いたような美少年が、俺の隣に。あれ?何故?

 それは10分前に遡る。



「今日から新しくクラスの一員になる西園寺葉名(さいおんじはな)君だ。皆、仲良くな!」


「………ッ!!」



 神様ありがとう!先生ありがとう!!金髪の君、改め西園寺葉名は俺のクラスの一員になった。

 太郎って名前じゃなくてホッとした。

 しかし、より一層胸が高鳴る。顔が熱い。ああ、恥ずかしい!初恋みたいにドキドキしちゃってる俺を見られたくなくて、ノートで顔を隠した。

 気になってノートの上から目だけを出す。すると彼は、目の色が変わったクラスの女子から物凄い質問を受けていた。



「彼女と彼氏どっちかいるの!?」


「その髪は地毛!?」


「今まで付き合ってきた男の数は!?」


「美容法は何!?化粧水は何使ってるの!?」



 葉名は一歩後退して、あからさまに嫌な顔をしていた。質問の雨を無言でやり過ごそうとしている。



「こらこら、女子。西園寺君は、先日アメリカから帰ってきたばかりでこう言う雰囲気には慣れていないんだ。優しくしてあげなさい」



 そう言って親切に庇った先生を無視して、女子達は黄色い悲鳴を上げた。アメリカからの帰国子女、美少年は特別イイ獲物のようで、彼女達は退くどころか押して押して押しまくった。



「やっぱ体格のイイ男が好き!?」


「何フェチなの?胸板?顔?尻?」


「指はゴツゴツしてる方が好き!?」



 ごめん女子達。男達には質問の意味がよく分からないよ。案の定、葉名は顔を青くして無言で先生の顔を見た。



「はいはい、そこまでね。続きは休み時間にどうぞ。西園寺君の席は……。鈴木、この間、前の席が良いって言ってたなぁ~。鈴木は前に来て、空いた席に西園寺君が座りなさい」


「………!!!」



 ちょっ、ちょっと…先生!!それって俺の席の横じゃん…!!隣に座っていた鈴木は目が悪く、以前から前の席に移動したがっていた。まさかこのタイミングで席の移動があるなんて…。

 嬉しいやら恥ずかしいやら……。さっきよりも高速で心臓がバクバク鳴った。聞こえたらどうしよう。不安で仕方がない。

 そうこう考えているうちに隣に西園寺葉名がやって来た。目が合う。透き通ったグレーの瞳。長い睫毛は金色で太陽の光を浴びてキラキラとしている。白く極め細やかな肌にホクロのない整った綺麗な顔。

 艶やか金髪は、まるでビーナスのようで……。そこまで考えてハッと我に返った。葉名は怪訝な顔で俺を見ていたからだ。

 俺としたことが、何も言わずにジッと見ているから不審がられたのだろう。パッと視線を逸らす。



「よ、よろしくな」



 で、一言だけボソリと言った。恥ずかしくてもう、顔見れないよ。




「ああ、よろしく」



 俺の崩れそうなハートに葉名の声が響いた。それだけで嬉しくて死んでしまいそうになる。

 暫く無言だった俺はHRが終わって席を立った葉名に声を掛けようとした。しかし、俺の一言よりも早く葉名は俺の腕を掴んで揺さぶった。



「ん…?な、何だ?」



 葉名は顔を青くしてワナワナしている。その視線の先には、野獣の目をした女子達がジリジリと寄ってきていた。葉名はそれに怯えていた。



「悪い。トイレに付き合ってくれ」


「あぁ…うん」



 俺達は女子の間を突っ切った。葉名に掴まれた腕が痛い。無意識に力が入っているようだ。何とかして廊下に出ると噂を聞き付けた他のクラスの女子達が、次々と教室から出てくる。

 別に目をつけられている訳じゃない俺ですら恐怖を覚えるぐらい怖い。



「こっちだ」



 早歩きから駆け足に変わり、猛ダッシュで廊下を突き抜ける。

 それでも女子達の追跡は終わらない。俺も葉名も階段を駆け降りて、近場のフロアにある男子トイレに隠れる。

 男子トイレの外では女子達の駆け足が通り過ぎていった。二人でホッと胸を撫で下ろす。



「大丈夫か?転校早々大変だな」


「ありがとう…。やっぱり、日本でも落ち着けないのか……」



「…やっぱり?」


「あ、あぁ…」



 トイレの床に直では座れないから自然とヤンキー座りになってしまう。二人で向き合っていると俺は教室に居たときのドキドキが戻ってきてしまった。



「俺、アメリカでもずっとこんな感じだったんだ。誰かに追われるのは当たり前みたいな…。でも、ある日このままじゃダメだって気づいて……。日本に帰ったら少しは違うんじゃないかって思ったけど、甘かったな」



 ポツリポツリと葉名は語った。 その表情からは騒がれたりや追われたりすることに心底疲れているように見えた。

 シュンと項垂れた白いうなじに目がいってしまう。伏せた瞳も長い睫毛が影っていて、まるで絵から飛び出てきたようだ。

 ハッと気づく。何てこと考えてるんだ…俺。トイレの壁に背中を預けて葉名は、小さく息を吐いた。その姿すら色っぽい。



「た、大変…だな…」



 精一杯の言葉だ。俺は葉名のような生活を送ったことがないから理解することは出来ない。男なら一度は、女子に騒がれたいって思うものだろ?なのに…葉名は心底疲れているし。

 羨ましいって気持ちの方が勝っていて、美少年って特だなぁ~…なんて、不謹慎過ぎるにもほどがあるだろ……俺。

 一人ボケツッコミをしていた俺を見て、葉名はポカンと口を開けていた。俺の心の声は聞こえてはいないのだが、冷たい視線が突き刺さる。い、痛い。



「さ、西園寺はいつからこんな生活を送っているんだ?」



 気分を変えようと思って口を開いたが、結局話題を変えることは出来なかった。俺は葉名のことを何も知らな過ぎるから。まさか急に大川内先輩とは友達か?何て聞けるはずもない。



「5才の頃からかな…」


「ご、5才ッ!?」


「ああ」



 そんな小さい頃からアメリカに居たのか…?日本語上手いな…。



「モデルとかやってたのか?」


「それもあるけど、映画とか…ドラマとか…いろいろやってたよ」



 差もないように言う。何と言うか、スターのオーラが全身から滲み出ているのが分かる。子供の頃からこんな生活をしていたなら、何だか可哀想にも思えた。俺が5才の時なんて、鼻水を垂らしてボーッとしていたものだ。食べ物を散らかしたり、玩具を片付けないで母さんに叩かれたり、転んで擦り傷ばかり作っていた。比べようがないほど、葉名の5才と俺の5才は違い過ぎる。



「自由がなかった」


「え…」



 葉名の一言は重い。ズシッと背中にのし掛かるような。それでいて本人から出るオーラも一層輝きを増す。

 俺は目を細めて彼を見た。



「日本に来たのは、自由を求めてかな」


「自由?」


「うん。ちょくちょく、日本に来ていたけど何かさ、日本って故郷なのに外国って感じでね。もっと知りたくて…ここで第二の人生歩もうかな…って」


「第二の人生…」



 まだその言葉を言うには若すぎるよ!ってツッコミそうになった。しかし、彼に取っては大きな第一歩なのだろう。

 応援したくなる。せめて学校生活は楽しく過ごせるように協力したい。悪い敵(女子)から守ってあげたい。学校帰りには一緒に街へ出掛けて、カフェに行ったりカラオケに行ったり、買い物して映画見て…。休みの日には二人きりで遠出して、日帰り旅行とかしちゃったり…!温泉入って背中を洗いっこしちゃうみたいな!!

 ……ヤバい。俺、崩壊しつつある?



「大丈夫だよ!美人は3日で飽きるって言うし!!敵…いや、女子もその内、飽きてくれるって!!」


「………」



 あ、俺、何気に失礼の事言っちゃった…?

 葉名は大きな目を一層大きく見開いて驚いた。と、思ったら直ぐに整った顔を崩して笑った。



「あはははは。お前、面白い!!そうだよな。考えてばっかじゃ始まらないよな…ふはははは。初めて言われたよ、美人は3日で飽きるのか」



 アメリカンジョークに慣れているのか、俺の失言も笑って許してくれた。

 葉名は立ち上がってドアに向かう。俺も慌てて立ち上がった。



「名前、何て言うの?」



 振り向いた葉名は、まるでファッション雑誌から飛び出したモデルのように決まっていた。



「真央、立花真央(たちばなまお)


「マオ・タチバナマオ?」


「えっ?あ、違うって!!立花真央だよ」


「分ってるよ。よろしくね、真央」


「あぁ、よろしく…葉名?」



 彼があまりにもキラキラした笑顔で微笑むから、下の名前で呼んでも大川内先輩のように怒られないだろうと思った。

 彼の笑顔は消えず、小さく頷いてくれた。ぐっと近くに寄れた気がする。

 葉名がトイレのドアを開けた瞬間。葉名と俺の断末魔がコダマする。友情の絆を結んだ俺達の姿は待ち伏せしていた敵(女子)によって、敢えなく揉みくちゃにされるのだった。




【続く】


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