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三題噺もどき

ニコちゃん

作者: 狐彪

三題噺もどき―ひゃくじゅういち。

 お題:リンゴジュース・リュックサック・殺人鬼




 暖かな日差しが、優しく肌を焼き付けてくる。

 暖かといっても、今は夏場で痛いぐらいの日差しなのだけれど、それでも日差しは温かいものだ。

 そもそも、そういう器官が若年にして壊れかけているのかもしれない。

「……、」

 感情というものはとうの昔に抜けているから、それの悪影響だろうか。

 というか、暑いというのは感情のどの部分にあてはまるのだ。

 感情と感触というものはきっと違うモノだろうし、よく分からないし―もうどうでもよくなってきた。

 こんな余計な事を考えている暇があったらさっさと事を済ましてしまおう。

「……、」

 暖かな日差しに刺されるこの日中に外にいるのもいい加減面倒になってきた。

 ―気がする。

 こう感じている、と思っているだけで実際のところどうでもいい。

 だが、そう思うことをやめてしまってはいよいよ終わりのような気がするので、そう思う、そう感じる、ということは常日頃から気にかけるようにしてはいる。

 たまに忘れてしまうけど。

 ―最近頻繁に忘れているけど。

「……、」

 少し重めのリュックサックを背に、人ごみの中をすり抜けていく。

 黒い半そでのシャツに黒いジーンズ、黒のキャップを目深にかぶり、黒を基調としたリュックサックを背負っている。

 全身黒で固めた姿に、一か所だけ、黄色い缶バッチをつけている。

 可愛いニコちゃんマークの。

 これは割とお気に入りなので、常日頃持ち歩くリュックサックにつけている。可愛い。

 これが目立つせいで、ニコちゃんとか呼ばれているのは知らなかったけど。

「……、」

 スルスルと、人を避けながら進んでいく。

 ほんの数十メートルほど前に歩く人物を見逃さぬように。

 ぬるり、ぬるりと、避けていく。

 普通、こんな黒ずくめの人間がいたら、目を見張りそうなものだけれど、割かしすれ違う人々は反応が薄い。

 まぁ、今時こんな格好の人間そこらにいるからな。

 今度はもう少し明るい色を入れてもいいかもしれない。

 水色のジーンズとか、白のシャツとか。

 そっちの方が人目を欺くにはよさそうなものだ。

 ―でも跡が大変なんだよなぁ白って。

「……、」

 ただまぁ、人々の反応が薄いのは存在自体に気づいていないというのもあるかもしれないが。

 ほんの少し、強い風が吹いたなぐらいにしか思っていないかもしれない。

 見える人は、ものすごく動体視力がいい人か、または同業者くらい。

「……、」

 人が少なくなってくると、住宅街へとたどり着く。

 先ほどよりはスピードを落とし、気配を消しながら歩いていく。

 というか、気配の方は消そうとしなくても消えるから、気にかけるべきは見失うことぐらいか。

 これもそこまで問題にするほどの事でもないが。

 目先にいる人物は、何も知らぬようにスマホを片手に歩いている。

 丁度帰路についたところをついてきたから、家族に連絡でも取っているのだろう。

 今日は早く上がれたよーとか、そんな感じの事だろうか。

 あ~今日の夕ご飯何にしよう、肉が食べたいな、

「……、」

 角を曲がる。

 もう少しで当人の家へとたどり着く。

 背に持つリュックサックの重みを確認し、忘れ物がないことを確認する。

 長年持ち続けているリュックサックだ。

 その中身については毎度同じものだし、重みは体が覚えている。

 一瞬、キン――と金属がぶつかる音がしたが、それが聞こえるのは自分だけだろう。

 リュックサックの中身がぶつかり合っただけだから。

 あ、でもちょっと欠けたかな…後で確認しなくては。

「……、」

 目標が家に入ったことを確認し、時間を見る。

 もう少し待った方がいいものか…いや、もう早く終わらせて次の仕事に向かわなくてはならない。

 全く、1人にさせる量じゃないんだよ毎回。

 人材不足なのは百も承知だがいい加減にしてほしい。

 だがま、人材不足も何もないか。

 そもそもこんな、こんな、人殺しに―殺人鬼になり果てようなんてもの好きはそういないだろうから。

「……、」

 目標の周辺に人がいなくなったことを確認し、静かに体を滑り込ませるように門をくぐる。

 なんとまあ、立派なお家だ事…羨ましいことこの上ないな。

 足音を殺しながら、これまた羨ましいほどに広い庭へと向かう。

 青々とした草が一面に広がり、隅の方には花々が咲き誇っていた。

 暖かな日差しに向かって咲くそれらは、とても美しいように思えた。

 これ終わったら、一本もらっていこうかな。

「……、」

 リビングと思われる場所に、目標がいることを確認し、その家族と思われるものがいることも確認する。

 一人娘だけは学校に行っているので、それだけは別の人間の仕事。

 その一人娘はもう、息は出来なくなっているかもしれないが。

 かわいそうに…あんな奴に狙われて。

 自分だったら、まだ少しは情緒を慮る器量はあるので、最後の学校生活楽しんでからやろうぐらいには思うのだが、あいつはその辺いかれてしまっているものだから、気分でやるから。案外泳がせているかもしれない。そういう気分だったで済むからな。

 ま、運がなかったということで。

「……、」

 静かに、裏口へと近づき、そこから家の中へと侵入していく。

 全く、裏口だからといって鍵もかけずに開けておくのはよくないことだと思う。

 自分みたいなのが入ってきてしまう。

 鬼が、静かに息を殺して、殺しに来るかもしれない。

「 

 中に入ってしまえば簡単。

 そのまま、キッチンに繋がっているため、立っていた妻と思わしき人物を、一息で。

 ちなみにリュックから取り出しやすいようにチャックのそばに置いているので、開ければすぐに手に取れるようになっている。

 そこから、リビングで楽しそうにテレビを見ていた目標の頭に、一振り。

 これは折り畳みのモノ、新しいやつ。

 うん、ちょっと軽い感じだけれど、持ち運びをする自分にはピッタリかもしれない。

「……、」

 一通りの仕事が終わり、そこら辺にあったソファに腰掛ける。

 毎度毎度、かなりの重労働である。

 体力があるからまだいいものの、これ年いったらできなくなる。

 仕事終わりの報告をし、ようやく力が抜ける。

「……、」

 喉が渇いた…。

 少し飲み物を頂戴しようか―と思ったがやめておこう。

 さっさと帰って、お気に入りの出来立て100パーセントりんごジュースでも飲もうではないか。

 我が家のミキサーで、生のリンゴをぐちゃぐちゃにした、りんごジュース。

 生のまま食べるのは嫌いなのだが、ジュースにすれば飲める。むしろ好物だ。

 さて、そうと決まれば残りの後処理をして、リンゴを買いにスーパーに行って…あ、夕飯用に肉を買わなくては。

 こういう重労働をした日には肉に限る。

 果然やる気が出てきた。


「よーし、頑張っちゃうぞぉ」


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