第71話 メイドさん再び
「いいよぉ、すっごくいいよぉ! はぁ……はぁ……!」
「うぅ……どうしてまたこれを着る羽目に……」
「ご、ごめんねぇ……流石に新作を作る時間はなかったんだぁ……」
「僕はそういうことを言ってるんじゃありませんっ!」
不思議そうに首を傾げるカサンドラを見て、マルクはがくりと肩を落とした。
現在マルクは、再びふりふりのメイド服を着せられるという辱めを受けている。
「なるほど……確かに、これは可愛いわね」
しかも、今回はカーミラ達まで一緒だ。
つまり、前回よりも大勢の前でマルクにとって恥ずかしい姿を晒していることになる。
「美しい……もはや天使を超えて女神様のようです……ッ!」
「ボク、お持ち帰りしたい……!」
クラリスとリタは、メイド服を着たマルクの可愛さに完全にやられていた。
「ここにまともな人は居ないんでしょうか……」
欲望のままに詰め寄ってくる皆の反応を見たマルクは、心の底からの思いを呟く。
こんな状況に陥ってしまう少し前のこと。
マルクは薬がおおよそ完成したという知らせを受け、皆を連れてカサンドラの元までやってきた。
そして何やかんやあって話題が以前マルクが着たメイド服に関することに逸れ、皆の要望を受けて再びメイド服を着せられることになったのである。
この件に関して、マルクは完全に被害者だった。
「マルク、可愛い。――ライムちゃんのおすみつき」
言いながら、ライムはマルクの肩をぽんと叩く。
「そういえば……! どうしてライムはメイドさんの格好をしてないんですか……! 前はしてたのに!」
「ライムちゃんの可愛さは十分しょうめいされた。もう必要ない」
「い、意味がわかりません……」
どうやら、ライムにも再び同じ格好をさせて、注目を分散しようというマルクの試みは失敗に終わったらしい。
「あ、そうだ……! 猫耳のカチューシャをわすれてたよぉ……つ、つける?」
「それは素敵です! 猫耳マルクさん! ワタクシ想像しただけで興奮のあまり目まいが……!」
「猫耳なんかつけたら、ボクもう本当に我慢できなくなっちゃうよ……っ! 狩猟本能が出ちゃう……!」
「……まったく、みんなしてそんな風にいじめたらかわいそうじゃない。ほらマルクちゃん、アタシの胸に飛び込んでいらっしゃい? アタシがマルクちゃんを心まで女の子にしてあげるわ!」
全員から舐めまわされるように観察されたマルクは、恥ずかしさのあまり目を白黒させる。
「あうぅ…………!」
そんな彼に、息を荒げながらにじり寄ってくる変質者《お姉さん》たち。
「みんなおかしいです……! は、離れてください……!」
絶体絶命の状況に追い込まれたその時。
「――ねえねえ、カサンドラ」
「へぇっ!? ら、ライムちゃんどうしたの?」
「完成したお薬、どうなったの」
「――――はっ! わ、忘れてたっ!」
マルクを助けたのは、ライムの一言だった。
「いけません! ワタクシも我を忘れていましたっ!」
「ぼ、ボクも……! 狩猟本能が……!」
「あなた達はいつも通りでしょう?」
ともかく、こうしてマルクは危機を脱することが出来たのである。
「うぅ、助かりました……! 本当にありがとうございます! やっぱり持つべきものはライムです……!」
目を潤ませながら、感謝の言葉を述べるマルク。
「……そういうこと言うなら、今度から助けてあげないもん!」
「そ、そんなどうして!?」
「ライムちゃん、ものじゃない!」
「今のはそういう意味じゃなくて…… ご、ごめんなさい!」
謝るマルクに対し、顔を赤くしたままそっぽを向くライム。それは、どちらかと言えば照れ隠しに近かった。
だがこうなってしまっては、おそらく次から助けは見込めないだろう。
「許してくださいぃ……!」
「別におこってないもん!」
「どう見ても怒ってますよぉ……!」
「そんなつぶらな目で見たってだめ!」
「僕の目はもとからこんな感じです……!」
おろおろしながら言うマルク。
「な、なんかごめんね! 私、君に頼まれたお薬持ってくるっ!」
約束を思い出したカサンドラは、そう言いながら家の奥へと引っ込むのだった。




